『シャドバWB』が同接10万超の躍進 ユーザー維持に向けて求められる、運営の“バランス感覚”

『シャドバWB』運営に求められるバランス感覚

 Cygamesは6月17日、『Shadowverse: Worlds Beyond』(以下、『シャドバWB』)をリリースした。

 『Pokémon Trading Card Game Pocket』(以下、『ポケポケ』)の登場により競争が激化するデジタルTCGの領域。「Shadowverse」シリーズ新作の登場は、同分野の勢力図に変化をくわえられるだろうか。本稿では、『シャドバWB』の現在地から、同タイトルが乗り越えるべき課題を考えていく。

人気デジタルTCG「Shadowverse」から待望の新作がついにリリース

【正式サービス開始!】Shadowverse: Worlds Beyond PV

 『シャドバWB』は、Cygamesがモバイル/PC向けに展開するデジタルTCG「Shadowverse」シリーズの最新作だ。プレイヤーは、ゲーム内に登場する7つのクラスから1つを選択。専用のカードを中心とした40枚でデッキを構築し、オンライン上の他のユーザーとカードバトルを繰り広げていく。

 基本ルールは前作と同様だが、今作では新たに、バトル中に2度までフィールドに出した自身のカードを強化できる「超進化」、後攻プレイヤーが任意のタイミングで残りPPを1増やすことができる「エクストラPP」といった要素が取り入れられた。完成されたシステムで好評を博していた『Shadowverse』だが、こうした変更により、『シャドバWB』ではさらに戦略性が増している。

 また、ゲーム内には「シャドバパーク」と呼ばれる、アバターを介して対戦を楽しめる機能も実装。同要素を活用すれば、オンライン大会や参加型のイベントなどをユーザーが主催することも容易になるという。システム面からUIに至るまで、さまざまな部分に前作からの進化を盛り込んだタイトルが『シャドバWB』だ。

 基本プレイ無料・アイテム課金型で、モバイル(Android/iOS)、PC(Steam/Epic Games Store)に対応する。『ポケポケ』の登場で盛り上がるデジタルTCGジャンルに、人気シリーズから待望の新作が登場した。

デジタルTCG領域の覇権ねらう『シャドバWB』。盛り込まれた新要素の数々

Shadowverse: Worlds Beyond – Opening Movie

 『Hearthstone』の登場以降、ジャンルの新たな形として一般化しつつあるデジタルTCGだが、同分野においては、アナログTCG文化との差をどのように埋めるのかがひとつのテーマとなってきた。熱心なファンのあいだでは、「オフラインの場でフィジカルのカードを手に取り、実際に顔を突き合わせながらカードバトルを行う」というあり方が根強く支持されている。デジタルに対して抵抗感を持つこうした層をいかに巻き込んでいけるかが、デジタルTCGの必須課題であるというわけだ。

 『シャドバWB』の新システムのなかには、その回答ととらえられるものがいくつかある。前項で紹介した「シャドバパーク」、手に入れたカードを記録し、コレクションレベルを上げることで報酬を獲得できる「カード図鑑」などはその一例だ。一連の機能により、プレイヤーはアナログTCGに近い楽しみ方が可能となる。なかには、新システム上にあるコミュニケーションや収集といった体験が、同タイトルをプレイする理由となっている人もいるのではないか。

 デジタルTCGにこのようなシステムが盛り込まれるのは、これが初めてのことではない。2024年10月、株式会社ポケモンがリリースした『ポケポケ』にも、同様のコレクション機能が実装されている。「Shadowverse」シリーズと比較して、特にライト層に広く支持されているであろう同作においては、収集によってもたらされる遊び方の広がりが、より大きな意味を持つと考えられる。2025年1月のアップデートで実装されたトレード機能に多くの反響が集まったことも、その裏付けであると言えるだろう。

 また、『シャドバWB』には、1日に1度、ゲームにログインすることで無料のパックを開封できるという新要素も取り入れられている。基本プレイ無料・アイテム課金型で展開される場合が多いデジタルTCGにとっては、「課金をせずに楽しみたい」というプレイヤーの声に応えることも、支持獲得のためにクリアしなければならないハードルとなっていた。特にローンチ期、シーズンが切り替わるタイミングなどでは、Pay to Win(課金がゲームに勝つための近道となっている状況を指す言葉)の傾向が強まりやすく、このことが新規層の参入を遠ざけていた実態もある。

 デジタルTCGにとって、こうした箇所は利益にも直結するデリケートな部分だが、最近では、より多くのプレイヤーに遊んでもらうために、同様のシステムが取り入れられるケースも増えてきた。紹介した『ポケポケ』では、1日に2度(12時間ごとに1度ずつ)、無料のパックを引くことができる。パッケージタイトル以上に、スタートダッシュが肝要なライブサービスゲームだからこそ、各タイトルは、無課金勢を手厚く保護しつつ、全ユーザーにプレイの継続をうながせる仕組みを、ジャンルのスタンダードとしつつあるのだろう。

 他方、『シャドバWB』には、競合タイトルのユーザーを引き込む目的もあったと推測する。『ポケポケ』をはじめ、オンライン対戦に重きを置いたタイトルでは『遊戯王 マスターデュエル』『デュエル・マスターズ プレイス』『MTGアリーナ』などが存在感を放つデジタルTCG市場だけに、あの手この手で訴求方法を考えているというのが実際のところではないだろうか。

ユーザーとの折り合いをつけられるかがカギに

【Shadowverse: Worlds Beyond】第1弾カードパック「伝説の幕開け / Legends Rise」

 一連の取り組みが功を奏してか、『シャドバWB』は多くのユーザーを獲得しつつある。Steamプラットフォームにおけるさまざまなデータを閲覧できる外部サイト・SteamDBによると、同タイトルの同時接続プレイヤー数は、リリース日の6月17日に11万へと迫った。サービス開始直後の特需が落ち着いた6月22日には、8万強まで数字を落としたが、その後はふたたび増加傾向に。記事執筆時点では、ウィークデーであるにもかかわらず、9万弱まで回復させている。

 このような経過をたどっている背景には、実況・配信界隈での盛り上がりによる影響もあると考えられる。リリース当初には手にとっていなかった層、もしくは一度プレイはしてみたものの放置してしまっていた層が、著名なストリーマーのコンテンツをきっかけに、新たに、または再度プレイに至っている状況があるのではないか。こうした流れが続くようであれば、ふたたび10万の大台に乗ることも夢ではないだろう。少なくとも現時点において、『シャドバWB』は、リリース前の話題性や期待度に違わない初動を見せている。

 一方で、評価の面では、やや芳しくない状況が浮き彫りとなっている。Steamプラットフォームにおいては、全体の72%が「おすすめしない」とし、中央値より1つ下のレビューランクである「やや不評」へと分類されている。否定的な意見はおおむね、カードの分解/生成要素の変更(※)へと着地する。先にも述べたとおり、こうした箇所は、デジタルTCGにとってのデリケートな部分である。運営にしてみれば、一定以上の利益がなければ続けられないというのが本音だろう。

 総じて現状の評価をめぐる問題は、「無課金でどこまで不自由なくプレイできることを求めるか」「リリース直後のPay to Win傾向をどこまで許容するか」の2点に帰結する。客観的な立場から感じるのは、ゲームのクオリティやポテンシャルと、現時点での評価があまりにも乖離しているのではないかということだ。とはいえ、ライブサービスゲームとしてリリースする道を選ぶ以上は、こうした問題にも真摯に向き合わなければならないのは間違いない。

※カードの分解は同一カードを4枚以上保有している場合のみとなった。

 運営は今後、利益の確保とユーザーの獲得/維持の最適なバランスを探っていくことになる。後者を重んじるのであれば、(『ポケポケ』がトレード機能をめぐってユーザーに譲歩したように)無料パックやカードの生成に必要なゲーム内アイテム「レッドエーテル」を配布するといった対応に出る可能性もある。一方で、ユーザー維持のためにはカード分解/生成システムに手を入れる必要に迫られることもあるのかもしれない

 実況・配信界隈が盛り上がりを見せている今が、軌道修正の大きなチャンスであるとも考えられる。サービス開始直後の特需によって獲得したユーザー層がプレイしているあいだの“期限付きの課題”を、運営はどのようにクリアしてみせるだろうか。この成否こそが、競争の激化するデジタルTCGの領域で、『シャドバWB』が覇権を握るためのターニングポイントともなる。今後の動向に注目だ。

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