連載「音楽機材とテクノロジー」第15回:照井順政
『ジークアクス』や『呪術廻戦』などの劇伴を手掛ける照井順政に聞く、「コンセプト」を作ることの重要性と機材の変遷
『ジークアクス』の音作り
――今お話に出た『ジークアクス』の劇伴だったり、実写映画『ショウタイムセブン』の劇伴も担当されています。劇伴作家の仕事について、「こういうものだ」という感覚も掴めてきたのではないでしょうか?
照井:いえいえ……まだまだ経験が少ない上に、しかも今のところ関わった現場が、いわゆる劇伴的な汎用曲を多く作ることを求められる現場ではなかったと思うんですよね。『ショウタイムセブン』に関しては映画なので、すでに出来上がっている映像に当てていく感じでしたし、『ジークアクス』の劇伴も場面に当てる曲がかなり多い形で構成されるみたいな感じなんですよ。というのも、気がついたらOVAを一個一個作っていくような感覚で作っている状態になった、みたいな話から始まっていて。
――OVAというと、まさに鶴巻和哉監督の代表作である『フリクリ』みたいな。
照井:そうですね。鶴巻監督が、もともとsora tob sakanaも聴いてくださっていて。最初は歌ものをポイントポイントで挿していきたいんだって話のオファーだったんです。それがいつの間にか全体の劇伴を相談したいという話になって、その時期に重なっている仕事量的に一人だとスケジュールが難しかったので、一緒にsiraphというバンドをやっている、音楽的に信頼できて『ジークアクス』にも合っていそうな蓮尾理之くんを誘ったという経緯で。
そういう流れもあって、『ジークアクス』の劇伴は基本的に一曲の歌ものをガツンと被せるんだ、って考え方の延長みたいになっているのかなと思います。とはいえ、実際にお話を進めていく中で、やっぱり日常曲であったりとか不安なミステリーな曲というのは必要になってくるので、そういうものはこまごまと入れていく、という作り方になってます。
――『ジークアクス』の劇伴は全体的に電子音が中心になっていますが、はじめからそういった指示があったのでしょうか?
照井:それは特になかったですね。「(主人公の)マチュのテーマ」のような音楽メニューをいただいて、照井さんの思うそれを作ってきてください、みたいな感じで。指定はほぼなかったです。
それで作っていく中で、お互いに「こういうことなのかな?」とすり合わせていって。鶴巻監督も具体的なビジョンはそんなになかったと思うんですよ。打ち合わせのときも、具体的にこうしてみたいのは本当になくて。
ただ、やっぱり鶴巻監督自身が音楽へのこだわりがすごく強い方で。『フリクリ』とかも、音楽の当て方に個性がすごくあるじゃないですか。なので、「最初はこう言ってたんだけど方針を変えます」とか、直前まで修正が来たり、ということはすごくありましたね。
――劇伴では1曲起点となる曲があってそこから変奏していく、という作り方をすることも多いと思いますが、そういった曲はありますか?
照井:世界観を提示する曲としては「コロニーの彼女」という、先行配信されている曲が最初のほうにできて。コロニーのビジュアルの感じとかからの着想で、『ガンダム』だし宇宙が舞台だしというところで、少なくともモロにバンドサウンドではないなと。この作品はこんな感じのバランス感覚かなと作ってみて、鶴巻監督も「この世界の曲としてすごくハマってる」と言ってくださったので、そこから広げていく感じでした。
一方で主人公3人の、精神性に寄ったテーマみたいなものもあって。そっちのほうはバンドサウンドに若干寄せようかなと当初思っていたので、分けて考えていたというか。ただこちらも監督の反応を見ながら徐々に変わっていって、最終的にゴリゴリのバンドサウンドみたいな曲は全体的に減ったかなという感じですね。
――『ジークアクス』でよく使った音源があれば教えてもらえますか。
照井:Pigments(Arturia)は結構使ってますね。Arturiaのアナログシンセっぽい音と、最近ぽい音の音源、例えばSerumとかAVENGERとかをいい感じに使い分けたいなと思っていて。
あとはMoogやProphetなど、アナログシンセのモデリングの音も。実機は僕は持ってないですけど、最近はプラグインでもいいものはすごくいいです。蓮尾くんが実機にも詳しいので、相談もしつつ。
ループ音源も昔よりは使うようになりました。「自分が作曲している」という感覚が薄れるんじゃないかという懸念があって、使うとしても原型がわからないようにエディットしなくちゃって考えてたんですけど、作曲しなくてはいけないスピード感も上がっている中で、使えるものは使っていった方がいいかなと思うようになりました。