SCRAP初のゲーム作品『プレイ禁止』はなぜミステリーではなくホラーに? “体験重視”とジャンルの好相性

SCRAPは4月13日、ホラーゲーム『プレイ禁止』のストアページをSteamにて公開した。
『リアル脱出ゲーム』で知られるSCRAPが手掛ける初のビデオゲームとなる同タイトル。本稿では、その舞台にホラーが選ばれた理由について考えていく。
SCRAPと213°Fによる新作ホラーゲーム『プレイ禁止』
『プレイ禁止』は、「リアル脱出ゲーム」を企画/制作するSCRAPと、ゲームクリエイターの塩川洋介氏率いるファーレンハイト213(以下、213°F)が共同で開発するホラーアドベンチャーだ。SCRAPによると、同タイトルは、2000年代にインターネット上で「プレイ禁止」と噂され、その後まもなく閉鎖された都市伝説的ブラウザゲーム『ゲエむ』を、SCRAPの社員Aが復元したものであるとのこと。プレイヤーは、PC上でのポイント&クリック操作を駆使しながら、同作に含まれる数々のコンテンツをクリアし、噂の背後にある真相へと迫っていく。
配信されたプレスリリースや、発表とあわせて公開されたトレーラーには、「提供者であるSCRAPは『ゲエむ』の制作には一切関与しておらず、プレイした場合に起きるいかなる事象に対して一切の責任を負いません。取り扱いには十分に注意してください。」との警告もあった。“遊ぶこと自体が禁じられているゲーム”がもたらす体験とはどのようなものなのか。「都市伝説らしい訴求によってプレイヤーの関心を引く」という設計が同タイトルの特徴であるとも言える。
開発に名を連ねる213°Fは、2021年3月に設立されたゲーム会社。2023年末には、企画/開発を手掛けたミステリーアドベンチャー『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』がSteamにてリリースされ、好評を博した。また、オーナー兼代表取締役の塩川洋介氏は、『Fate/Grand Order』や『キングダムハーツ』『ディシディア ファイナルファンタジー』『いけにえと雪のセツナ』といったゲーム作品の制作に携わったことでも知られている。213°Fにとって主戦場と言えるデジタルゲームの世界で、「リアル脱出ゲーム」で独自の立ち位置を確立するに至ったSCRAPとどのような化学反応を見せるのか。続報に注目が集まっている現状だ。
『プレイ禁止』はSteamにて2026年にリリース予定。価格は現時点で未定となっている。
なぜミステリーではなく、ホラーだったのか

先にも述べたとおり、SCRAPは「リアル脱出ゲーム」の企画/制作で広く知られている。「リアル脱出ゲーム」とは、会場に集まった他の参加者たちとともにヒントを収集しながら、謎の解明、その場からの脱出を目指す体験型のイベントだ。インターネット上にある、いわゆる「脱出ゲーム」をリアルに落とし込んだものであり、「リアル脱出ゲーム」という名称は同社によって商標登録もされている。この手のレジャーを愛好する人はもちろん、遊んだことがない人にとっても、その草分けとして認知されているのが、SCRAPの名前である。
過去には、サンリオピューロランドや幕張メッセ、東京メトロ、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンといった大規模施設、「名探偵コナン」や「バイオハザード」「ラブライブ!サンシャイン!!」といった人気IPともコラボレーションを行い、そのすべてが話題を集めた。最近では体験型イベントの枠にとどまらず、書籍やテレビ、インターネットなど、他の分野へも活躍の場を広げている。
『プレイ禁止』の制作もまた、そうした取り組みの一環であると言えるだろう。これらすべてに共通するのは、「体験」を重視するというSCRAPの姿勢だ。実際に同社のコーポレートサイトには「『謎解きを通しての“物語体験”』『体験型エンターテイメント』を提供している」と、事業の紹介がされている。
そうしたSCRAPのあり方を踏まえると、ビデオゲームという新たな挑戦の舞台にホラーが選ばれたことにも納得がいく。同分野は、「体験」という言葉ともっとも距離の近いジャンルであるからだ。古くから書籍や映画、テレビ、ラジオなど、さまざまな分野で題材とされてきたホラーは、そうした創作の世界から現実へと視点を戻してからも、得られた恐怖の感情が継続しやすい傾向にある。もちろんゲームで言えば、RPGやアドベンチャー/ノベルといった物語性のあるジャンルも同様の余韻をもたらすケースはあるが、一部の傑作にとどまるというのが実情だ。その点、ホラーはおなじ効果を得るにあたっての、作品のクオリティへの依存度が低い。現実性のある体験とリンクさせたいSCRAPにとっては、これ以上ないゲームジャンルであっただろう。

他方、昨今、ホラーとセットで語られやすいゲームの実況・配信文化もまた、体験という言葉でくくることのできるものであると言えるのかもしれない。ホラーは、ゲーム分野における対極として紹介したRPGやアドベンチャー/ノベルに比べると、実況・配信を通じてコンテンツを摂取することに対するハードルが低い。なぜなら、同ジャンルは「(相対的な)物語の短さ」「わかりやすい面白さ」を特徴として内包しているからだ。また、制作側から実況・配信を認められやすいジャンルであることも、好相性に前向きに作用している面がある。こうした特性、取り巻く環境も、ホラーと現実の体験の距離を縮めるひとつの要因であり、SCRAPにとっての好条件のひとつのなったはずだ。
一方、詳細の含まれない“輪郭のみ”のアナウンスを、このタイミングで発信したことには別の意図も見え隠れする。それは「都市伝説的な要素を扱うタイトルとして、直近の都市伝説ブームにあやかろう」というものだ。ご存知のとおり、ゲーム業界では、墓場文庫と集英社ゲームズによるミステリーアドベンチャー『都市伝説解体センター』が話題を集めている。その名前にあるようにおなじく都市伝説を扱う同作は、2025年2月のリリース以降、飛ぶ鳥を落とす勢いで支持を拡大してきた。Steamプラットフォームに集まるユーザーレビューでは、全体の9割近くが「おすすめ」とし、上から2番目のランクである「非常に好評」へと分類されている。2月26日には、発売元の集英社ゲームズが、リリースからの10日間で10万本の販売を突破したことを発表。マイニンテンドーストアのダウンロードランキングでは、発売から約2か月が経過した現在もなお、上位へのランクインを続けている。
2025年という少し先の発売ながら、SCRAPがプレスリリースだけでなく、Steamのストアページも公開した背景には、都市伝説に集まる注目を活用しようとする意図があったと推測する。なかには、見えている輪郭や、同社と213°Fによるゲーム作品であることなどと同程度に、「都市伝説」という言葉に惹かれ、ウィッシュリストに追加した人もいたのではないか。このようにトレンドをうまく利用したことで、今回の発表は、マーケティングとして最高のタイミングとなった可能性がある。
さまざまな背景から、すでにあり余る注目を集めている『プレイ禁止』は、フリークたちの期待に応えるタイトルとなれるだろうか。続報の到着を待ちたい。























