映画監督からゲームクリエイターへ 2人専用協力マルチの傑作を生み出し続けるジョセフ・ファレスのクリエイティブを追う

ジョセフ・ファレスのクリエイティブを追う

 先日『SPLIT FICTION』を発売したHazelight Studios。その代表であり、長きに渡ってエンターテイメント作品を生み出し続けているのがジョセフ・ファレスだ。

 映画監督としてキャリアをスタートさせたものの、ゲーム制作に転身し、以降はトップクリエイターとしてゲーマーたちに認知されている。とてもユニークなキャリアを持っている彼を、あらためて詳しく紹介していきたい。

映画監督ジョセフ・ファレスの誕生

 ジョセフ・ファレスは1977年のレバノン出身で、10歳の頃に内戦を逃れて家族ともどもスウェーデンへと引っ越してきた。兄のファレス・ファレスは俳優であり、彼の映画に何度か出演している。

ジョセフ・ファレス(Gamelab Congreso Videojuegos)
ジョセフ・ファレス(Gamelab Congreso Videojuegos)

 彼が映画監督としてキャリアをスタートさせたのは、2000年の『Jalla! Jalla!』という長編映画。ロドリゴは公園管理の仕事をしており、スウェーデン人女性のリサと付き合っているが、家族からはレバノン人女性ヤスミンとの結婚を強要されている。ヤスミン自身も望まぬ結婚を避けるため、ロドリゴと協力して結婚を回避しようとするが、次第に二人は惹かれ合っていく……という内容。スウェーデンの自由な価値観と、レバノンの伝統的な価値観の衝突がテーマだ。

Jalla Jalla

 スウェーデン国内では人気を博し、彼の名前は一躍知られることになったが、映画批評サイトなどでの評価はそこまで高くはなかった。以降、彼は四本の映画を撮り、監督としてのキャリアを積み上げていく。

初のビデオゲーム監督作『ブラザーズ:2人の息子の物語』

 2010年に最後の映画『Balls』を公開したのち、彼はStarbreeze Studiosというスウェーデンのディベロッパーでビデオゲームを開発していた。

 Starbreeze Studiosといえばのちに『PAYDAY 2』などで知られるスタジオだが、2012年の時点では、EAと共同したプロジェクトが振るわなかったり、メンバーの多くが独立してしまったりと(独立したメンバーはMachineGamesを立ち上げ、のちに『Wolfenstein: The New Order』を制作している)会社として方向転換を求められていた。そこで、自社初のオリジナルIPで、なおかつ小規模タイトルとして『ブラザーズ:2人の息子の物語』を開発することになったのだ。

 クリエイターとして指名されたのはジョセフ・ファレス氏。映画監督として心を揺さぶる物語を求められた彼は、その期待に応えるばかりか、ゲーム史に残る屈指のエンディングを書き上げた。

 本作は2人の兄弟を1人のプレイヤーが同時に操作するゲームだ。左スティックを兄、右スティックを弟として動かし、いろいろなパズルや困難を乗り越え、危篤の父に効く薬を探しに行くという内容である。

 それぞれのキャラクターがそれぞれに得意なことを活かして協力していく、というゲームプレイは、以降のジョセフ・ファレスのクリエイティブの基盤となる。また、世界中で今作が大絶賛されたことにより、彼は2025年現在に至るまで完全に映画製作から離れることにもなった。

映画業界への絶縁状『A Way Out』

 2014年、彼は『ブラザーズ:2人の息子の物語』を開発した中心メンバーとともに、独立ディベロッパーであるHazelight Studiosを立ち上げる。

 デビュー作が発売されるのは4年後になるのだが、2017年、ジョセフ・ファレスのことを語るうえで欠かせないイベントが起きる。それは彼が年末のビッグイベント「The Game Awards」に登壇した際のことだ。

 彼は自身が制作しているタイトル『A Way Out』を宣伝しつつも、ゲームが映画よりも優れているメディアであり、自身がこの業界にいられることに誇りを持っていると話した。そして「F*** the Oscars!」という暴言を繰り返し、カメラに向かって中指を立てるというジェスチャーをした。

"F**k The Oscars" Says Developer At The Game Awards

 このスピーチは当然ながら何度もミーム化しており、彼ののちの作品『It Takes Two』でもイースターエッグとして登場している。映画業界に対する私怨や、ゲームというクリエイティブに対する期待感など、あらゆる側面が垣間見れるエピソードであるが、いずれにせよこれによって彼が映画業界に対して絶縁状を叩きつけたのは間違いない。

 それから1年後の2018年、彼の独立一作目である『A Way Out』が発売。

A Way Out Official Gameplay Trailer

 本作は1970年代のアメリカを舞台に、レオとヴィンセントという2人の犯罪者を操り、自由を求めて逃亡するという内容のゲームだ。

 彼は今作以降、すべての作品で「2人プレイ専用」と「画面分割プレイ」を採用した。ひとりが看守の注意を引いているあいだに、もうひとりが脱獄の準備を進めるなど、前作でもあったような協力プレイの楽しみが存分に詰まっている作品である。

 彼のビデオゲームキャリアにおいてはもっともシリアスな作風の本作もぜひチェックしてみてほしい。

GOTYに選ばれた傑作『It Takes Two』

 2021年、Hazelight Studiosの二作目として、世界中の注目を浴びながら発売された『It Takes Two』は、これまでの彼の創作キャリアにおいてもっとも評価されたタイトルである。

 本作もまた2人プレイ専用と画面分割プレイが採用されている。離婚寸前のコーディとメイという夫婦が、ひょんなことから小さくなってしまい、自身の家や庭を舞台に大冒険を繰り広げ、かつての絆を取り戻すといった内容だ。

 前作以上に磨き上げられた協力プレイの面白さは、もはや唯一無二の境地にまで達したといってもいい。同じアイデアが何度も擦られることはなく、次から次へと面白い遊びを提供してくれるゲームプレイは、大人から子どもまで楽しめること請け合いだ。

 反面、彼の持ち味だったストーリーテリングについてはかなり単純化しており、泣ける展開や深刻なシナリオを期待していた人は肩透かしを食らったことだろう。特にゾウのぬいぐるみが理由なく酷い目に遭うシーンは議論が巻き起こった。

 本作は最も権威あるビデオゲームの賞であるThe Game AwardsのGame of The Yearに選出された。独立スタジオのインディーゲームがこの賞を取ったのは初めてであり、快挙として多くのゲームメディアに取り沙汰された。まさしくキャリアの絶頂といった感じだが、ここからさらにクリエイティブを尖らせていくのが彼の凄いところだ。

最新作にして最高傑作『SPLIT FICTION』

 2025年3月6日、Hazelight Studiosは『SPLIT FICTION』を発売。ジョセフ・ファレスの4作目となるゲームだ。

 SF作家の卵であるミオと、ファンタジー作家の卵であるゾーイーが、悪徳出版社によってVRシミュレーションに閉じ込められ、協力して脱出しようとする話が本作である。

 本作のゲームプレイはこれまた素晴らしい。大量のアイデアを惜しみなく見せつけ、それらをすべて即座に投げ捨て、また新たに面白いパズルやアクションをプレイヤーに投げかける。そのどれもが高水準でありながら、難しすぎず、ちょっとした工夫で解けるようになっている。

 ストーリーも相変わらず単純ではあるが、前作にあった長々しい会話劇はカットされており、ゲームプレイへの自然な導入として機能している。

 それでいて、映画的なカットも多用しており、画面分割のゲームらしいゲームでありながら、冒険映画を観ているかのようなダイナミックな演出が随所に盛り込まれている。映画の技術とゲームの知見がなければ成しえなかった創作だろう。

 詳しくはレビューも載せているのでそちらも読んでいただきたい。

 映画監督業から数えればすでに25年のキャリアを持つベテラン、ジョセフ・ファレス。あらゆるエンタメを行き来した結果、2人プレイ専用ゲームという境地へと至った流れは非常にユニークだ。今後も彼のクリエイティブに注目していきたい。

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