2024年、なぜ「SV重音テト」曲のヒットが多発したのか サツキ×大漠波新×吉田夜世が語る“激動のボカロシーン”

ボカコレは完全なチャレンジャー、ぜひ一緒に戦いましょう(サツキ)
──そんな2025年が明け、気づけば次回ボカコレも開催目前です。皆さんはこれまで何度も参加された“常連組”かと思いますが。
サツキ:実は僕、第1回から2022年春以外全部出てるんです。でも、初めて「TOP100」に入ったのは2024年冬で。長い下積みがある分、正直「ボカコレってすごく残酷なイベントだな」と思うんですよ。僕以外にもランキング順位の低さにへこむ友人や、結果が出なくて心が折れちゃった人、折れかけている人も身近にたくさん見てきたし。そもそも音楽に順位や優劣があるのかって話で。そんな価値観の板挟みは実際に自分も経験しているんです。上位入賞経験もまだないから、僕にとって全然ボカコレは“怖いところ”ですね。未だにビクビクしてるというか。
──ちなみに、第1回『ボカコレ』の開催を知った時はどう思ったか覚えてます?
サツキ:今でこそこんなに大きなイベントになっていますが、当初の率直な印象は「なんだこれ?」でしたね。「みんな出んのかな?」って思いましたけど、せっかくなら出るか、と。いわば腕試し的な気持ちで出たら結果ボッコボコにされて、それを直近に至るまで数年間続けてきた感じです。
──ありがとうございます。続けて、大漠さんにもお話伺いましょうか。
大漠波新:僕も実は、初投稿をボカコレの初回にするか悩んだっていう裏話があるんですよ。いろいろ考えた結果、その時はいろいろ訳あって見送って2021年1月にボカロPデビューしたんですけど。その後2021年春の第2回開催を知って、「じゃあ出てみよう」って初参加した形です。なので僕はボカロPを始めた時から常にボカコレっていうイベントが当たり前にあった環境で、当然最初は箸にも棒にもかからない結果だったし、気づけばルーキーランキングも2年間走り切って。なんというか、いつも身近にあるイベントという感覚はありましたね。
さっきサツキが言ったように、確かにボカコレは残酷なイベントだとも思っていて。ただ、残酷さゆえの良い所もあると思っています。参加する作り手は、やっぱ「ボカコレだから」って単純に気合いが入るし。もちろん内的要因だけで曲作りを頑張れる人もいますけど、ボカコレみたいな外的要因で曲作りを頑張れる人も大勢いますから、シーンの活性化には繋がっているな、と。
──両方の側面があることは否めないですよね。
大漠波新:サツキが言っていた“怖さ”もわかるけど、自分はもはや一周回って本当に“コレクション”、お祭りだなと感じ始めています。結局、「ボカコレで何を目指すか」なんですよね。リスナーの中にはボカコレだから聴きに来る人も大勢いて、さっきの話のように長期的な目で文化・活動を見た時、そういう人たちからいかに長く聴いてくれる人を作るかを考えると、ボカコレってやっぱり大事で。
ただどうしてもわかりやすく順位が付いちゃうから、そこに意識を傾ける人にはお祭り以上に競技性が強くなるというか。参加すると決めたら、数字に向き合うことに腹は括らなきゃいけない。とはいえ作り手も「参加するか否か」は選べるので、結局自分がどこに重きを置くかですね。
あとは参加してもしなくても、こういうイベントが1個あるだけで、自分の活動を見直すことができる。その意義も大きいと思います。普段創作してると、目の前のモノ作るのに必死でそんな機会もなかなかないですから。開催・存在するだけで意義がある。ボカコレは今、そんなイベントになってる気がします。
──なるほど。“皆勤賞”の吉田さんはいかがですか?
吉田夜世:皆勤ですね、今のところ(笑)。僕はボカロPデビューの半年後ぐらいに最初のボカコレがあったので、二人と同じく「何かあるなら出てみるか」という気持ちで参加しました。何回も参加を重ねて少しずつ結果を出してきた身としても、やっぱり有意義なイベントだと感じていて。本気で参加して結果を出せるよう取り組む、その動き自体がすごくいい影響を与えてくれると思ってます。
一方で自分も、以前はボカコレに全力を注ぐべきだと考えていたタイプで。ただ「フォールスマン・ショー」で参加した辺りから、ボカコレの外にも目を向け始めた結果「オーバーライド」のヒットがあったんですよ。なので大漠の言った通り、数字だけじゃなく自分の活動を見つめ直す区切り、マイルストーン、セーブポイントというか。最近はそんな機会として捉えてますね。曲投稿で参加しなくても、ランキングの変動を見たりシーン・界隈の動向を分析したり、そういったイベントとしても有意義ですし。
──「参加しないボカロP」としての目線って、リスナーとも参加ボカロPともまた違う見方でイベントを捉えられそうですね。すごく興味深いです。
吉田夜世:視点が凝り固まっちゃうんですよ、“自分のみとひたすら向き合い続ける作り手”ばっかやってると。半年に1回、参加して他人を強く意識させられたり、あるいはただランキングを眺めたりすることで、それをいい感じにほぐしてくれるエッセンスになるというか。今ぐらいのペースでこういうタイミングがあるとちょうどいいですね。
それにもちろん、大前提として夢があるイベントなんです。ボカコレの結果で生活が一変する人もいますし。ただその夢を掴めるのは何千曲のうちのたった数曲という、現実を見る必要もあって。ボカコレで培った経験・視点で、通常投稿の対策を練っていく。そういう発想も大事だと思います。
──二面性があるという点は皆さん共通で、加えてその中で数字のみに留まらず「何を得るか」が大事だ、と。それをふまえて、みなさんずばり次回のボカコレには参加されますか?
サツキ:……僕は、出ます。
大漠・吉田:おお~~~。
サツキ:今までずっとやってきて、ここで上を狙わないのも嘘かな、というか。特に去年はいろんなことがあって、有難いことに大勢の方が曲を聴いてくれるようになって、「じゃあ、今の自分が出たらどうなるの?」という部分が第一で。やるからには上を狙いたい人間でもあるから、やっぱり1つでも上の順位を獲れたら嬉しいですよね。
大漠波新:僕は「TOP100」で出ることはしばらくないです。出るとしても数年後とかですね、多分。
吉田夜世:僕はまだ悩み中ですね。過去に「オーバーライド」の勢いがある中リミックスで参加してるので、サツキが言ってた「試す以上は上を狙いたい」もすでに経験済みで。一度近い状況を経てわかったのは、そんな波に乗ってる状態でも赤子の手をひねるように自分の上を行く人はたくさんいる、と。僕の場合は、ですけど。ボカコレって単体でもヒット曲になり得る作品が殴り合う場なので、そういう意味では曲がもったいない事になるケースもあって、それも慎重な理由のひとつなんです。
あと、今年はなるべく何にも縛られず自由に創作したい、のびのびやりたい気持ちもあって。ボカコレに出すことに納得のいく作品ができれば参加しますが、納得いってない物を無理やり帳尻合わせて出すのは違うな、って感じです。これは次回に限らず、今後もそうですね。納得いく作品とのタイミングが嚙み合えば、参加ももちろん視野に入れます。皆勤の称号より、そんな自分の方針を今後は優先したいですね(笑)。
ボカコレはもともと、自分にとって一発逆転を狙う場で。そんなモチベーションでやってきた中、「オーバーライド」のおかげでその価値観にも変化があったので、それこそボカコレへの向き合い方を今一度考えるタイミングかな、と。
──三者三様の方向性、ですね。そんなボカコレ含め、今のボカロシーン全体に皆さんがどんな印象を持っているかも、ぜひざっくばらんに聞かせてください。
サツキ:……そうですね……。
──飲みに行った時とか、そういうお話もされたりしません?
サツキ:飲んだ時……何話してるっけ?
吉田夜世:「この店、蛇口からハイボール出てくるのバカじゃね?」とか(笑)。
大漠波新:音楽の話もしてるはずなんだけどな(笑)。なんだろう、今のボカロシーンって、いろんなジャンルの音楽が集合してるし、人も増えすぎてるので、端的に言えないことが多すぎるというか。何となくの印象はあっても、界隈の細分化も進んでいるから自分が見えていない場所も多々あるし、だからこそ簡単に言えないんですよ。
ただ去年は「メズマライザー」があれだけ聴かれた後、サイバー攻撃等々でニコニコもボカコレも一度止まっていましたから、“今のボカロシーン”が見えるのは、それこそ次のボカコレなんじゃないかと思います。その点でも、やっぱりボカコレは、これだけ広いシーンの一角がわかりやすく見える機会でもあって。なので2025年冬のボカコレは面白いことになりそうだし、みんな面白いことを仕掛けてくるでしょうね。
自分もそうやって「盛り上げたいな」という気持ちもあるし。振り返ると2024年はあまりにも特殊で激動の年だったから、2024年以前と以後でいろいろ変わるだろうな、とも思います。
──その点でも、今度のボカコレは非常に楽しみですね。
大漠波新:楽しみですね、特にルーキーランキング。もちろん僕らは参加できないし、いつもより参加対象が広がった(※通常はデビュー2年以内だが、今回は前回の中止回時点でルーキーだったデビュー約2年半以内のボカロPも対象)うえでの開催ですから。はりきって準備してる人も多いはずで、今までの傾向も鑑みると単純に過去最高の参加人数になりそうだし。ルーキーランキングって、本当にシーンの先端の先端で。歴関係なく、音楽性や手法も新しいものを持ち込む人がたくさんいるので、ここは間違いなく次回ボカコレの注目所でしょうね。
サツキ:毎年一定のトレンドがある中でも、最近は本当に多種多様だな、というか。原口沙輔さんを始めとして、CDsのメンバーのような少し尖った、アングラなボカロ外の音楽シーンにルーツがあるような方々や、大漠みたいにまっすぐな曲を書く人、なみぐるさんみたいなボーカルのキャラクター性を全面に押し出したものや、夏山よつぎさんのようなジャジーなエレクトロスウィング、(椎乃)味醂さんみたいなUKガラージとか、いろんなものがごっちゃになってるの、僕はめちゃくちゃ面白いなと感じてます。前回のボカコレ上位10曲だけを見ても全然性質が違うし、今のボカロシーンは、何をやっても自分がそれを信じて貫き続ければ評価される場だと思います。
──まさに冒頭の「エゴを貫き続ければ」と。
サツキ:そうですね。やっぱりエゴの強い人が最終的に伸びたり注目されたり、今後も長く愛され続ける場なんじゃないかな。
──有言実行した、サツキさんならではの説得力ある視点ですね。
吉田夜世:あらゆるトレンドって、当然波がありますが、僕的に2024年は流行がわかりやすい年、トレンドが色濃く出た年だったなと。ひとつの流行が出来るとそれに対するカウンターが出てきて、その中から金脈を掘り当てた人が次の流行のパイオニアになって。手前味噌ですが、「オーバーライド」はその金脈を掘り当てた曲だったと思うんです。ただそれも徐々に落ち着いてきた印象はあって、次に何が流行るかをみんな模索してる雰囲気もなんとなく感じています。次は誰が金脈を当てるのか、どんなカウンターがくるのか、僕も楽しみにシーンを見てる感覚はありますね。自分がもう一度金脈を当てろ、という話でもありますが(笑)。
──まさにその金脈が、次のボカコレで決まる可能性もありますよね。
吉田夜世:シーントレンドの波発生装置としてのボカコレ、それも全然あると思います。楽しみですね。
──ありがとうございました。最後にボカコレにまさに挑もうとしている、あるいは挑もうか悩んでいる方々へ、みなさんからメッセージ・アドバイスを頂けますか。
吉田夜世:参加する以上は納得できるものを。適度にボカコレ外にも目を向けつつ、参加が実になるようなマインドでいれば、心を壊しすぎることなく上手く向き合えると思います。楽しみましょう、楽しまきゃいけないです(笑)。荒んだ心になるのはお祭りの主催側も望んでないので!
サツキ:僕も、ことボカコレにおいては完全にチャレンジャーなので、これを読んで下さってる方と同じ土俵です。なのでアドバイスというよりは、ぜひ一緒にランキングで戦いましょう。「対戦よろしくお願いします」ですね(笑)。
大漠波新:迷ってるなら出た方がいいです。ボカコレみたいに楽しい事も傷つく事も、生きていたら普通にあります。けど、日常の中でこうやって「怖いな」「勇気がいるな」「ソワソワするな」ってなれるイベントはあんまないと思うので。それらもすべて糧にできるのが創作の良さですしね(笑)。「敢えて参加しない」でも「貪欲に上を狙う」でもなんでもいいです。ボカコレっていうテーマで、ぜひ何かしら自分の事を考える機会にしてください。
■イベント概要
『The VOCALOID Collection ~2025 Winter~』
開催日時:2025年2月21日(金)~24日(月・祝)
開催場所:ニコニコTOPページなどのネットプラットフォームほか
公式WEBサイト
公式Xアカウント
協賛:東武トップツアーズ
メディアパートナー:テレビ朝日ミュージック/interfm/AIR-G'/RADIO MIKU/GAKUON!/Music House/smart/関内デビル/SCHOOL OF LOCK!/クリエイターズ・スタジオ with ボカコレ/SBS
『ボカニコ 2025 Winter POWERED BY ボカコレ』
ボカロファン待望、『ボカニコ 2025 Winter POWERED BY ボカコレ』がついに開催決定! 豪華なDJキャスト陣による、ボカロ楽曲満載のノンストップライブ! 音楽とともに、パフォーマンスや仲間たちとの出会いが詰まった特別な1日があなたを待っています。渋谷HARLEMを舞台に、ボカロの冬フェスで最高の時間を一緒に楽しみましょう!
開催日時:2025年2月24日(月・祝) 開場14:30/開演15:30
開催場所:渋谷 HARLEM
チケット:前売り4,000円(税込)オールスタンディング ※別途ドリンク代600円
チケット情報(一般発売):2025年2月6日(木)19:00 ~
出演アーティスト:R Sound Design、市瀬るぽ B2B いるかアイス、サツキ、椎乃味醂、大漠波新、駄菓子O型、タケノコ少年、DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ、夏山よつぎ、なみぐる、picco、Fushi、宮守文学、もちうつね、吉田夜世、LonePi(五十音順)
チケットの申し込みはコチラ! この冬、ボカロ愛を分かち合う最高の1日にしよう!
DECO*27×いよわが語り合う、ボカロPとしての“矜持”と“希望” 現在のシーンに欠かせない存在とは
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