連載:作り方の作り方(第十三回)
借金7000万円ディレクターが危険地帯に潜入…『不夜城はなぜ回る』などを手掛けた大前プジョルジョ健太×白武ときおが語る“映像制作のルーツ”

自分の熱量と視聴者視点のバランス 意識している“高橋弘樹から言葉”
白武:そもそも『国境デスロード』という番組を作ろうと思った理由はなんですか?
プジョルジョ:僕の母親がインドネシア人で、国境を超えてきて僕が生まれたという背景があります。生まれながらにして家の中に国境があった。母はイスラム教徒で、父は仏教徒だから、その時点で宗教の違いがあります。そういった背景をきっかけに始めた企画です。
白武:生活のなかでいうと、どれくらい違うことがあるんですか?
プジョルジョ:まず朝4時に、お祈りのための音声が爆音で流れます。僕は母の影響で幼い頃からお祈りをしていたんですけど、父の実家へ行ったらお寺で手を合わせる。でも母は手を合わせないんです。
母はお肉を食べないし、お酒も飲まない。父は会社を辞めてアルコール中毒になったんですけどね。そういう環境で生まれ育ったからか「違い」というのが好きなんだと思います。
白武:プジョルジョさんは、仕事のなかでどんな部分に喜びを感じますか? 撮るのが好きなのか、編集が好きなのか、反響をもらうと嬉しいとか。
プジョルジョ:取材相手が自分にしか見せてくれない表情を撮れたときは、もう最高に嬉しいです。僕が影響を受けるだけじゃなく、相手も影響を受けて、僕が相手だからこそ話せるのだろうと思えることが出てきたりすると、すごく気持ち良くて。そのためにずっとやっているところがあります。
白武:そうして取材したものが世に出て、反響をもらったときも嬉しいんですか?
プジョルジョ:世間の反響というよりは、取材相手から感想をもらったときが一番嬉しいかもしれません。いまABEMAで高橋弘樹(元テレビ東京)さんのチームにいるんですけど、高橋さんからもう1万回くらい「視聴者のことをもっと考えなさい」って叱られてます。
白武:僕も弘樹さんは一時期番組でご一緒していて、かなり影響を受けた先生のように思ってるんですけど、弘樹さんが言う「視聴者のことをもっと考える」っていうのはどういうことを言われるんですか?
プジョルジョ:「視聴者がどう思っているか。観て、なにを考えるかだ」と口酸っぱく言われています。つい「僕はこうしたい」と自分が主語になってしまいがちなので。
白武:弘樹さんは、自分が視聴者として観たいものを追求する人ですね。『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)の番組を通す時、自分で勝手にプロトタイプとして映像を撮ってきて、それを企画書として出したりする人。他局がタレントバラエティなのに対して、視聴者として見たいものをディレクターが汗をかいて取材するというテレビ東京イズムみたいなものがあると思います。
プジョルジョ:そうですね。だからこそ僕のことを買ってくれて、今回もやらせてもらえることになって。だからいまは「これを観る視聴者がどう思うか」をものすごく考えて作っています。なかなか難しいんですけどね。
「結局大事なのはお金」ドキュメンタリーを撮る者の“世知辛い現状”
白武:プジョルジョさんはTBSで情報、報道、バラエティといろんなジャンルの番組を作ってきたわけですけど、特になにを作っていきたいとかはあるんですか?
プジョルジョ:全部やりたいというか、日々変わってます。白武さんはありますか?
白武:いま僕は児童書やマンガを作りたくて、少しずつ進めています。あとはバラエティも『ドキュメンタル』(Amazonプライム)とか『SASUKE』(TBS)みたいに海外にも広がるフォーマット的なものも作りたいとは思います。そうやって、いくつか動かしているものはあります。
プジョルジョ:すごいな。いくつも動かすっていうことがまず僕にない発想というか、一度にひとつのことしかできないんですよ。
だからいまも『国境デスロード』しかやってないですし。だからこれが終わったらまた無職に戻ります。フリーランスって普通は、並行していくつも進めているものですよね?
白武:そうですけど、憧れます。尾田栄一郎先生が『ONE PIECE』(集英社)を命を懸けて描いているみたいな。ひとつに全集中できる状態はすごく憧れますけど、やっぱりそうやって生きるのは怖いから、何本も走らせたりするわけで。
プジョルジョ:だから僕はお金がないんです。
白武:でも別に、お金がすべてではないですし、プジョルジョさんの喜びはいま自分にしか撮れないものを撮るところにあるわけですし。ただ、国境を超える人たちは、生きていく術としてお金のために動いている人もたくさんいるわけじゃないですか。そういうのを目の当たりにしてどう思いますか?
プジョルジョ:それこそ「お金くれよ」って大抵言われるんです。それは海外に限らず日本でロケをしていても、取材する側じゃなくされる側に利はないのかと。それはその通りだと思います。
でも「100万円払え」と言われても払えないし、少額でも都度払っていたら予算がなくなってしまう。「お前は俺を撮って儲けてんじゃねえか」と言われたら、なにも言えなくなっちゃうんです。だからこそ、結局大事なのはお金だなと思います。
白武:事実として見ればそうだけど、思いとしてはそうじゃないって話ですよね。
プジョルジョ:そうです。でも思いがどうだとしても結局はそうだから、自分が認識をしておかないといけないなと。じゃないと、本当の意味で話を聞くことはできないだろうなと思います。
白武:なるほどなぁ。そろそろお時間ということで。今年、話した人の中で、一番自分と感性が違う人でした。とても面白かったです。ありがとうございました。

























