月ノ美兎のイズムを体現した“異形のMV” 「てんやわんや、夏。」監督・UBUNAが語る誕生秘話
魔法使いになる夢破れた幼少期 映画との出会いで「魔法使いを作る」側へ
――ここからは映像作家としてのUBUNAさんの経歴についてもお聞きしたいと思います。最近では先ほどもお話いただいたドラマ『サバエとヤッたら終わる』がヒットしましたが、そもそも映像の道に進もうと決めたのはいつ頃からなんでしょうか?
UBUNA:小学2年生ぐらいの時からです。
――小学2年生!?
UBUNA:保育園の頃から、なりたいものがいっぱいあったんです。魔法使いにもなりたかったし、くノ一になりたかったし、スパイになりたかった。でも、その時になりたかった夢はすべて現実的じゃないというのを知って、子どもながらに衝撃を受けたんです。
そのときにちょうど、親に連れられて映画館で『ハリーポッター』とか『チャーリーとチョコレート工場』を観たんです。世界観も好きでしたが、なによりエンドロールを見た時に一番の衝撃を受けたんですよ。『ハリーポッター』とかって、エンドロールがすごく長いじゃないですか。そこに並ぶ名前を見て、「これ、全員人間なんだ!」「関わっている人間がこんなにいるなんてすごい!」と思って。
魔法使いになれるわけがないと言われた後に見たので、この不思議な世界観を大人たちが真面目に作っているのが衝撃だったんです。「いい仲間たちが沢山いるじゃん」って、子供心に思ったんですよ。
――役者ではなく、監督を志したのは何故ですか?
UBUNA:物語を作って、このキャラクターを誰に演じてもらうか、その役者さんがお芝居してる時に、どこから日差しが入ってどういう音楽が乗ってるのか、表情をどうやって切り抜くのかなどなど……そういった総合芸術的なところがすごく楽しいなと思ったんです。それで高校からは専門的な学校に入って、色々勉強してすぐに実践をやりたいなと思っていたので、高校の卒業式の3日後くらいには撮影の映画の現場に入っていましたね(笑)。
――ええっ!? そんな早く入れるものなのですか?
UBUNA:珍しいと思います。自分は、幼馴染みのお母さんが映画やドラマの衣装担当をされている方だったので、そのツテで高校を卒業してすぐに入れてもらいました。
——当時印象に残っている思い出はありますか?
UBUNA:これは自分の中の黒歴史でもあるんですが……衣装部としてある映画の撮影で群馬にいて、作業をしていたらプロデューサーの人に「お前映画監督になりたいんだろ?」って話しかけられたんです。
その時私は18歳で「あ、はい、なりたいです」って答えたら「そのままだと衣装部のお姉ちゃんだと思われるだけだぞ」って言われたんですよ。「映画監督志望ってことをもっと全面的にみんなに言っていかないとだめだよ」って言われて。
その時の私はめちゃくちゃ純粋だったのでそれを間に受けて、ホテルに戻って自分の無地のTシャツに「監督志望」って手書きで書いたんです。それを着て翌日現場に行ったら、衣装部の先輩にめちゃくちゃ怒られました(笑)。
――なんというか、UBUNAさんは熱血タイプなんですね(笑)。
UBUNA:いやあ、それでも「さすがに、これは怒られるよな」って思いました(笑)。でも、俳優さんやその他のスタッフさんには覚えてもらえました。やっぱり夢は言っていかないとダメだなと思いましたね。
――自主制作なども並行して行っていたんですか?
UBUNA:自主制作映画は結構撮っていたんですよ。18から22歳くらいまでは、周りのアーティストや役者の子とかと集まって、制作費を持ち寄って作っていました。
『ジムに通ってるおっさん7割不倫してると思う』とか『ガールズキャッチ』とか、ポートフォリオの下の方にあるのはほとんどが自主制作作品です。助監督の仕事を数年くらいやっていたときに自主制作作品を作っていたんですが、自分と同じ監督志望の子と、「このままだと監督にはなれないんじゃないか」というような話をしていたのを覚えています。
――厳しい世界ですね……。
UBUNA:でも、そこで一緒に「会社を起こそう」という話を持ちかけてもらって、それでPOPBORNができたんです。会社を立ち上げたのが24歳ぐらいだったんですけど、そこから会社にするのがまた大変で……。私は自分の売り込みが苦手な性格なんです。けれども社長の子はめちゃくちゃ売り込みがうまいんです。その子も監督・脚本志望の子なんですが、私が今まで制作してきた作品を営業に回しまくってくれて。その影響もあって、「自分がこれを作りました」と、堂々と言えるようになろうと考えるようになって、今4年目くらいです。
――SNSでバズが起こり始めて、UBUNAさんとしてはまさにいまが爆発している最中じゃないですか?
UBUNA:もっともっと爆発させたいですね。映画とかドラマはひとりで作ることに限界があって、チームにしちゃった方がいいなって思う場面がいっぱいあるんです。だから会社を立ち上げられて良かったなと思います。フリーランスでやっている方も多いんですが、私は仲間がいた方が自分のやりたいことに集中できるので、向いているなと。
――今の話をお聞きすると、夢中になって観ていたエンドロールにつながる何かを作っている最中なのかなと思いました。
UBUNA:そうなのかもしれません。映画とかドラマとかって、監督だけが評価される世界ではないと思うので、チームを引っ張ってビッグになれたらいいなと思いますね。
今回のミュージックビデオも、役者さんたちが自由に動いてくれて、カメラマンさんもすごくいいカットを切り抜いてくれたし、ヘアメイクさんもいい感じに3人を可愛くしてくれたし、あちこちを回ってロケ地を探してくれた人もいるし、一緒にこのアイデア考えてくれる人もいましたし……。とにかく、ひとりじゃできないことなんです。
――「てんやわんや、夏。」について、撮り終わった後の達成感はどのようなものでしたか?
UBUNA:心残りなく、もうこれ以上ないな、というくらい良いものが作れたと思います。スタッフや役者はもちろん、色々なことを許してくれたANYCOLORさん、応えてくれたファンの方々がいるからこそ、「もう悔いはない」と思えています。
そういえば、視聴者の方でいうと、「てんやわんや、夏。」が公開されたあとに女性コスプレイヤーの方たちが「レゲエのすがた」3人のコスプレをした写真を上げていて、それにも感動しましたね。作品の二次創作をしてもらったのは初めてのことだったので、めちゃくちゃ嬉しかったですね。本当に続編がやりたいです(笑)。