リメイク版『SILENT HILL 2』が「圧倒的に好評」獲得 先行アクセスが“初動増加”を生む画期的な前例に
10月8日、『SILENT HILL 2』(以下『サイレントヒル2』)リメイク版が発売となった。
2024年屈指の注目リメイクとして発表当初から話題を呼んできた同タイトル。集まる高評価と、展開されたマーケティング施策から、『サイレントヒル2』リメイク版がゲーム市場に持つ意味を考えていく。
シリーズ第2作として開発された『サイレントヒル2』のフルリメイク
『サイレントヒル2』は、コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)が開発/発売を手掛けるホラーアドベンチャー「SILENT HILL」シリーズの第2作だ。1999年発売の初作『SILENT HILL』に続く作品で、切なく胸を打つストーリーはホラーゲーム史においても並ぶものがないとされている。シリーズの代名詞となりつつあるクリーチャー「レッドピラミッドシング」(三角頭、三角様の通称でも知られる)が初登場したのもこの作品。同キャラクターは現在、非対称型の対戦サバイバルアクション『Dead by Daylight』にキラーとして参加している。
舞台となっているのは、トルーカ湖南岸の簡素な住宅地・サウスヴェイル地区。物語の主人公であるジェイムス・サンダーランドは、3年前に死んだはずの妻・メアリーから「思い出の場所であなたを待っている」と書かれた手紙を受け取る。もう一度会いたいという気持ちを拭い去れなかった彼は、かつて新婚旅行で訪れた観光地「サイレントヒル」へと向かう。しかし、ゴーストタウンと化したその地で待っていたのは、おぞましいクリーチャーたちだった。
『サイレントヒル2』において、プレイヤーは主人公のジェイムスを操作し、不気味な街を探索していく。その過程で襲い来るクリーチャーを攻撃アクションなどによって撃退しながら、物語の真実へと迫ることが同タイトルのゲーム性だ。
オリジナル版が発売されたのは、2001年9月のこと。第1作の評判から大きく話題を集めた同作は結果的に、“シリーズ最高傑作”と呼ばれるまでの評価を獲得した。そのような経緯もあり、20年以上ぶりにフルリメイクという形で復刻されることが発表された際には、往年のファンたちがこれ以上ない喜びの声を上げた。
対応プラットフォームはPlayStation 5とPC(Steam)で、価格は、ゲーム本編のみを収録したスタンダードエディションが8,580円、上記にゲーム内で使用できる各種スキンアイテムとデジタルアートブック、デジタルサウンドトラックを同梱したデラックスエディションが9,790円となっている(ともに税込)。2024年屈指の話題作のひとつがようやく発売を迎えた。
Steamで「圧倒的に好評」を獲得 高評価から見えてくること
大きな期待のなか、満を持してお目見えとなったリメイク版『サイレントヒル2』。リリースから数日間で集まった反応を見るかぎり、その評価は上々だ。
アメリカのレビュー収集サイト・Metacriticでは、佳作レベルとも言える87点のメタスコアを獲得。Steamプラットフォームに寄せられたユーザーレビューにおいては、6,000件超の評価数のなかで全体の95%が「好評」とし、最も上位のランクである「圧倒的に好評」へと分類されている(2024年10月9日時点)。
数あるレビュアーの声は概ね、「期待を裏切らない出来」「シリーズ初挑戦でも十分に楽しめる」「原作リスペクトの素晴らしいリメイク」「20年以上も前の作品とは信じられない」「怖すぎて進めるのに躊躇してしまう」「ジャンプスケアではなく、真っ当な映像演出、音響演出で恐怖感を煽るゲームデザインが好印象」あたりに着地する。そのすべてが制作側にとっては、最大級の賛辞であると言える。
現状では『サイレントヒル2』の特長のひとつであるシナリオに対する反応は少ないが、おそらく今後、多くのプレイヤーがエンディングへと達すれば、必然的に評価の声は大きくなっていくに違いない。なぜなら、シナリオはリメイクの前後で変化する可能性がもっとも低い箇所であるからだ。
また、集まる高評価からは、現代のリメイクに求められる要素も見えてくる。プレイヤーが望んでいるのは、「必要以上に原作を改変しないこと」「それでいて(特にグラフィックや音楽、UIなどの面で)新作に見劣りしないデザインとなっていること」の2点なのではないか。
少なくとも直近のゲーム業界で乱発されているリメイク作品を振り返ると、後者を追い求めるあまり、前者がないがしろになっているものが多いように見受けられる。その意味において、リメイク版『サイレントヒル2』の好評は、制作チームのバランス感覚の賜物であるとも言えるだろう。このような完成度のリメイク作品が増えていけば、乱発のトレンドに対するフリークの嫌悪感も幾分和らぐと考えられる。同タイトルがリメイクのモデルケースのように語られる未来もあるのかもしれない。
先行アクセス権の付与によりもたらされた“副産物”
一方、リメイク版『サイレントヒル2』では、珍しいマーケティング施策も展開された。デラックスエディションに48時間の先行アクセス権を付与するというものだ。
PCプラットフォームにおいては昨今、特にインディースタジオ発のタイトルにおいて、アーリーアクセスという手法が定着しつつあるが、一見すると類似する施策のようにも思える両者のあいだには、大きな違いがいくつかある。「コナミという大手から開発/発売されたタイトルであること」「コンソール機でも同時に展開されたタイトルであること」「開発途中のβ版が早期提供されたわけではないこと」「先行アクセスから発売までが比較的短期間であること」などだ。このような観点に立つと、資金調達的な意味合いが強いアーリーアクセスとは異なる目的のもとで行われた施策であると推測できる。おそらくは、(スタンダードエディションより高い値段で展開される)デラックスエディションの訴求力を高めるために盛り込まれた特典なのだろう。
ここで取り上げたいのは、その是非ではない。同施策が望外の成果を上げている可能性があることについてだ。先にも述べたとおり、リメイク版『サイレントヒル2』は、リリース直後から好評を博しており、Steamプラットフォームには発売日以前からユーザーによる高評価レビューが投稿されていた。もしかすると、そうした声を閲覧した結果、発売日に購入することを決めたプレイヤーもいたのではないか。
「思い入れるタイトルは誰よりも早くプレイしたい」というゲーマー心理を考えると、「48時間の先行アクセス」という施策が効果的であったことと同様に、「レビューを見たうえで、発売日に手に入れられること」も重要な意味を持った可能性がある。結果として大成功と言える評価を獲得しているリメイク版『サイレントヒル2』だけに、珍しい施策によってもたらされた“副産物”は、初動に少なからず影響したはずだ。コナミにとっては、一挙両得の画期的な施策となったに違いない。
他方、コナミは2024年、『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER』のリメイク版である『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』の発売も予定している。『サイレントヒル2』で得た上述の経験は、同タイトルのマーケティングにも生かされていく可能性がある。しかしながら、注意しておかなくてはならないのは、不評を買う仕上がりとなってしまった場合、先行してついたレビューがマイナスにも作用しうるということだ。
さまざまな面において、大きな意味を持つことになったリメイク版『サイレントヒル2』。先行アクセスという施策は今後、AAAタイトルのマーケティングにおけるスタンダードとなっていくのかもしれない。
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