ゼルダ姫が主人公の『知恵のかりもの』は、“2Dゼルダ”新時代の幕開けを告げるのか?

 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、BotW)、『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』(以下、TotK)の大ヒットにより、『ゼルダの伝説』シリーズ全体と、いわゆる「3Dゼルダ」への印象が大きく変化したこのごろ。

 現状を踏まえると、1986年発売の初代『ゼルダの伝説』から始まった見下ろし型ゼルダこと「2Dゼルダ」は、役目を終える時に来ているのでは。でも、あえて伝統の“アタリマエ”を体験できるシリーズとして続ける意義もあるのではないのか。

 そのようなことを綴ったコラムを『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』(以下、トライフォース2)の発売から10年を迎えた2023年末に執筆したことがあった。

ゼルダの“アタリマエ”を見直した『神々のトライフォース2』と、これからの2Dゼルダに思うこと

12月26日で『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』の発売からちょうど10年を迎える。本稿では、ゼルダの“アタリマエ”を見直し…

 それから半年が経った後、2Dゼルダの完全新作『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』(以下、知恵のかりもの)が発表。あっという間に発売日を迎えた。

ゼルダの伝説 知恵のかりもの [Nintendo Direct 2024.6.18]

 件のコラムを書いた身としては、『知恵のかりもの』の発表には心底驚かされた。もともと、2019年の『ゼルダの伝説 夢をみる島』(以下、夢をみる島)のリメイク版発売から4年以上が経過していた背景もあるが、まさか『TotK』の発売から1年後のタイミングで出してくるとは夢にも思わず。しかも、主人公はゼルダ姫。本物の『ゼルダの伝説』である。「そういうのもあったのか!」と、感服するしかなかった。

 同時に「見下ろし型ゼルダ(2Dゼルダ)のアタリマエを見直す」と公言され、新要素「カリモノ」による自由な攻略スタイルが紹介された際にはほんの少し寂しさを覚えもした。初代『ゼルダの伝説』から続く従来スタイルを踏襲した作品は、リメイクではあるが、2019年の『夢をみる島』が最後になったのか、と。

 とはいえ、それは避けられない運命だったのかもしれない。2Dゼルダの基礎は、『トライフォース2』の前作に当たる『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』(以下、トライフォース1)ですでに完成され、以降はそれを土台に新要素を乗せる傾向の作品が長らく続いていたためだ。

完成されきった“土台”が大きな影響力を及ぼしていた2Dゼルダ

 『トライフォース1』の土台に新要素を乗せる作品が続いていたとは言うものの、2013年発売の『トライフォース2』は『ゼルダの伝説』シリーズにおける“アタリマエ”の見直しに挑んだ意欲作でもあった。

 あらためて『ゼルダの伝説』のアタリマエについておさらいすると、「ストーリーに沿って順番にダンジョンを攻略すること」「ひとりで黙々と遊ぶスタイル」が代表的なものとして挙げられている。

ゼルダの伝説 神々のトライフォース2 紹介映像

 『トライフォース2』は「ストーリーに沿って順番にダンジョンを攻略すること」の見直しに挑み、「アイテムレンタル」というダンジョン攻略に必須のアイテムを先行して貸し出せるシステムを採用し、自由で並列的な攻略スタイルを実現させた。

 また、アイテムの残数廃止(「がんばりゲージ」の導入)や、当時の『ゼルダの伝説』シリーズとしては珍しい前作『トライフォース1』と構造が一緒のフィールドマップを採用するという試みにも挑んでいた。後者に関しては、『TotK』が発売された現在を思うと、同じフィールドマップを使って新しい遊びに挑んだ続編の始祖とも言えるだろう。

 そんな新しい2Dゼルダの新作として出された『トライフォース2』だったが、謎解きに対する回答は基本的にひとつ、最終ボスに挑むには全ダンジョンの攻略が必須など、細かい部分は従来のアタリマエを踏襲していた。同時に……もともと、直系の続編ゆえ当然の側面もあるが、『トライフォース1』で確立された土台からの脱却には至れていなかった感じだ。

『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』(スーパーファミコン Nintendo Switch Online)より

 1991年、すでに30年以上も前に発売された『トライフォース1』は、まさに2Dゼルダの基礎を確立させた作品だった。ゲームデザインの骨格そのものは初代『ゼルダの伝説』の時点で確立されていたが、それをさらに洗練させ、3Dゼルダにも継承された遊びやストーリーを始めとする演出の基礎を確立させたのは『トライフォース1』だったように思える。

 そして、土台が極まったレベルで完成されてしまったがゆえ、以降の2Dゼルダシリーズにはひとつの傾向が目立っている。『トライフォース1』の土台に新要素を乗せるというものである。厳密には細かなシステムの違いなどがあって、すべて同じではないが、ストーリーに沿ってダンジョンを順番に攻略していく遊び方、そのダンジョン内で新たなアイテムを入手して道を切り開いていく「ゼルダの方程式」とも称される構成は一貫している。

『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実 大地の章』(ゲームボーイ Nintendo Switch Online)より

 特にカプコンと共同で開発された『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実』、『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』の2作は、その傾向が目立っていたように思える。ニンテンドーDSで発売された『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』(以下、夢幻の砂時計)、『ゼルダの伝説 大地の汽笛』(以下、大地の汽笛)は、3Dの要素(特に『ゼルダの伝説 風のタクト』由来の要素)も含んだハイブリッドな作りになり、中でも操作周りでは大きな変革が実施されている。しかし、遊び方や本編全体の構成にはそれほど大きくメスが入れられていない。むしろ、そこにメスが入れられたのは『トライフォース2』でのことだった。

 決して、『トライフォース2』より前の2Dゼルダ作品の出来が悪かったとは口が裂けても言うつもりはない。ただ、あらためて変遷を振り返ってみると、2Dゼルダは『トライフォース1』の土台がもたらす影響力が大きい。それは大きな見直しを図った『トライフォース2』にも多少残っていたことから、進化の頭打ちに来ていたところも感じられた。

ゼルダの伝説 トライフォース3銃士 紹介映像

 マルチプレイ対応のアクションアドベンチャー『ゼルダの伝説 4つの剣』(4つの剣+)、『トライフォース三銃士』のような作品も存在するが、そこまでいくともはや別ゲームに等しく、本流から外れた印象も強くなってしまう。(実際はどの作品のストーリーも『ゼルダの伝説』シリーズ全体の年表に含まれている、紛うことなき直系の作品だが)

 思えば、2019年発売の『夢をみる島』のリメイク版は、暗にその事実を示した作品だったのかもしれない。従来スタイルの2Dゼルダ新作として出た『トライフォース2』の次がリメイクだったのだ。くわえてリメイク版『夢をみる島』の操作周りはオリジナルのゲームボーイ版から『トライフォース1』に近しいものに刷新されている。もはやこれ自体が『トライフォース1』の影響が絶大であることの証左になっている感じだ。

 「あえて伝統の“アタリマエ”を体験できるシリーズとして続く意義もあるのではないのか」と、以前書きはしたが、考えてみると『トライフォース1』の土台に乗っかる新作があまりにも長く続きすぎている。

 その実態を踏まえれば、『知恵のかりもの』での見直しは必然だったとも言える。2Dゼルダもまた、土台となった作品から本格的に脱却しなければならない時を迎えたのだろう。

“土台を乗り越える”番が2Dにも回ってきた……?

 2Dゼルダに限らず、3Dゼルダも完成された土台の影響が長引いたシリーズだった。

 土台とはその第1作にして、Z注目システムを始めとする完成形を確立させた『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(以下、時のオカリナ)だ。

 しかし、『トライフォース1』の影響が長引いた2Dゼルダに比べると、3Dゼルダは影響を払しょくするための挑戦を続けていた感じだ。

『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』(NINTENDO 64 Nintendo Switch Online)より

 とりわけ思い切った挑戦と言えたのが『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』(以下、ムジュラの仮面)。ゲーム内時計で3日が経過すると月が落下し、世界が滅ぶという「3日間システム」を導入し、「ゼルダの方程式」たる部分に大胆な変化を試みている。肝心の方程式にあたる部分も、メインダンジョンの数が『時のオカリナ』より減った反面、中間のイベントを増量させるという工夫を凝らしている。

 『ムジュラの仮面』の次に発売された『ゼルダの伝説 風のタクト』(以下、風のタクト)もグラフィックのスタイルを大きく改めると同時に、陸地を限定的にし、大海原を冒険における主な舞台とする変化を試みている。この要素は2Dとのハイブリッド作である『夢幻の砂時計』、『大地の汽笛』にも形を変えて継承されるに至った。

 続く『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』は『時のオカリナ』の形式に回帰したが、その次の『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』では、フィールド全体(具体的には地上世界)がダンジョンのように入り組んだ構造へと改める刷新を図っている。

『ゼルダの伝説 風のタクトHD』(Wii U)より

 それでも土台たる『時のオカリナ』が2Dゼルダの定番をそのまま3Dにした、王道の作りで高く評価されたのもあって、挑戦の数々は返って批判を招くこともあった。『風のタクト』は最たる一例だろう。2024年現在はそのような批判もほとんど鳴りを潜めたが、発表当時は特にグラフィック全般の刷新が、発売後には大海原の探索におけるテンポの悪さと後半のイベント構成に対して指摘が出た。

『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセスHD』(Wii U)より

 逆にグラフィックも含め、『時のオカリナ』の正統進化を目指した『トワイライトプリンセス』は特に海外で大歓迎されるなど、その土台がいかに強い影響力を持っていたかが察せる。しかし、そんな土台の影響力も『BotW』を機に薄まり、次の『TotK』の発売初日からの大ヒットによって、『ゼルダの伝説』シリーズ全体の歴史と、3Dゼルダのイメージをも変えてしまったのは語るまでもないことだ。

 そのように3Dゼルダが『時のオカリナ』という土台の影響力に苦心した過去を思えば、ある意味、2Dゼルダにもその番が回ってきたとも言える。3Dゼルダに比べると、遅くなった感は否めないが、もともと、2Dゼルダは3Dゼルダの誕生を契機にシリーズの第一線からは一歩引いていた。また、『夢幻の砂時計』のようなハイブリッドの誕生も試みていたことを踏まえれば、遅くなるのは致し方なくもある。

『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』(Nintendo Switch)より

 その意味でも、今回の『知恵のかりもの』は転機となるのだろう。同時にそれは、本当の意味で伝統的なアタリマエを守り通してきた『ゼルダの伝説』の終わりを告げることになるのかもしれない。謎に対する回答がひとつではなく、プレイヤーそれぞれで異なり、その自分だけが得た答えが話のネタとなり、ほかのプレイヤーとの会話を発展させていく『ゼルダの伝説』の新たなアタリマエとしての昇格だ。『TotK』ですでにそれは昇格済みとも言えるが、『知恵のかりもの』は2Dゼルダにもそれを導入する作品となるから、まさしく決定打となるかもしれない。

 現に『知恵のかりもの』の発売を前にして、任天堂公式サイトに掲載された「開発者に訊きました」でも、プロデューサーの青沼英二氏が「最近は決められた一本道を進むのではなく、プレイヤーが自由に考えていろんなことができるような遊びじゃないと、遊び続けてもらえないんだろうなって感じていて。」とコメントしている。

※参考リンク:開発者に訊きました : ゼルダの伝説 知恵のかりもの
https://www.nintendo.com/jp/interview/bdgea/index.html

 あとは『BotW』と『TotK』の成功を踏まえ、2Dゼルダも大作志向になるのかだが、こればかりは実際に『知恵のかりもの』本編を遊んでみないことには何も言えない。ただ、いちプレイヤーとしては、たとえ2Dゼルダが今回の『知恵のかりもの』でアタリマエからの脱却を果たしても、手軽に遊べる『ゼルダの伝説』としての魅力は維持されることを願う。

 敵や地形との距離感を始め、3Dゼルダでは多少コツが必要になるのに対し、2Dゼルダは見た目の印象で分かりやすいこともあって、直感的に遊べるという強みがあるからだ。そこはたとえ遊びの根本が変わっても、そのままであることを望むばかりだ。

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