監督・山村浩二×原作・小川洋子が送るVR作品『耳に棲むもの』制作陣が語る、“新たな挑戦”

山村浩二×石丸健二『耳に棲むもの』対談(後編)

技術が上がっても企画はゼロから XRコンテンツへの興味

--山村さまは、今回の制作を通してどのような驚き、あるいは知見を得られましたか?

山村:VR酔いと関係する部分なのでセーブしましたが、カメラの移動、トラッキングみたいな感覚は映画の体験では得られないので、自分が演出していく中、見た時に驚いたし、こちらに入り込んで来るような、肉体感覚に迫るものがあって、バーチャルリアリティーというより、実際にはない特殊な現実感が面白かったですね。

 特に、少年と大人が入れ替わって入っていくところは肉体感覚というか、現実では起こり得ないんですが、色々なVR作品を見て演出的に取り入れたいと思った部分なので、『耳に棲むもの』でもこの表現を採用しました。そこはたぶん体感されて驚かれた方もおられるので、うまくいったんじゃないかなと思っています。

--たしかに、そのシーンはいろいろな気付きがあって個人的にも驚かされました。小川洋子さんといえば、とにかく「描写」を重視される作家ですが、小川さんの反応はいかがでしたか?

石丸:小川さんは、ご自分の原作ではありますが、僕と山村さんとのやり取りの中で改変する作業をスゴく楽しまれていた気がします。我々もとても相談しやすく、小川さんの修正案がさらに面白く、VR的にも効果的だったりして一緒に作り上げた感じを強く持っています。

 結果をご覧になっても「きちんと自分の作品らしさがある」とおっしゃっていただけました。小川さんらしさを守ることに最新の注意を払ってきたので、この言葉をいただけた時には非常にうれしく思いましたし、ホッとしました。

--講談社VRラボとしては3作品目のVR作品となりましたが、制作していく中でどのような知見が得られていましたか?

石丸:そこに関しては、知見が貯まってきている部分とそうでない部分があって。3作品とも監督もストーリーもテイストも違うので、どの作品でも試行錯誤の連続です。ただ、共有できる部分はかなりあって、たとえばVR酔いを避ける手法や肌感が増えてきたといったところや、前作で使ったテクニックを応用してクリエイターの作るスピードもあがってきていると感じています。

 ただ、企画的なところは毎回ゼロからやっている気分です。上がってきたプロットをどうやって、どのようにVR化しようかと毎回頭を悩ませているので、練度が上がっているような、上がっていないような、そんな感じです。

 山村さんもお詳しいとおもいますが、国際映画祭は「この映画祭はこういうテイストが好まれる」といった傾向があるように感じています。弊社は映画祭で評価してもらうことを1つの目標にしていて、どういう作品にしたら賞を狙えるか、評価されやすくなるか、といった感覚値は身についてきてる気がします。

 ただ、一方で映画祭に合わせるばかりではなく、VRというメディアを使って世の中のためになる作品を作りたい、色んな可能性を広げていきたいという気持ちも非常に強いので、VRならではのトピックの選び方もなんとなく磨かれてきていると感じます。また小川さんをナチュラルにVR脳だと感じたように、VR的な発想のあるクリエイターに対する感度も高くなっていると思います。

講談社VRラボ・石丸健二氏

--少しVRとは離れますが、Appleが日本でもとうとう『Vision Pro』を発売しました。講談社VRとして、これまで取り組んできたVRではなく、いわゆるMRコンテンツ・XRコンテンツへの興味は持っていますか?

石丸:興味はスゴくありますね。実は、弊社でも『Vision Pro』を購入したのですが、ちょっと驚きましたね。未来を感じました。これは他のデバイスでも出来る機能ではあるのですが、『Vision Pro』をかけてるのに外が見えて、なおかつその解像度がやたら高くて本当に自分の目で見ているのではと思えてしまうクオリティ高さ。かけっぱなしでも酔うことがなくて、なんというか“抵抗がない”感じです。かけたまま写真や動画も撮れるのですが、空間写真や動画を撮影してそれを再生した時に、ある種、他人の視界や記憶をジャックして追体験している気分になりました。

 これは、人々の生活やツーリズム、ジャーナリズム、エンターテインメントを大きく変えるだろうなと想像しています。将来的にこのクオリティで他者とビデオチャットができるようになったら……と考えると、他者の視線をジャックできる『攻殻機動隊』のような世界がそこまで来ているのだなと、肌で感じました。

 全部CGモデルで作られた世界ではない、生身の人間がやるコンテンツの面白さ・迫力・熱量というのは、間違いなくあって、リアルな世界とCGがミックスされる世界が当たり前になったとき、いろいろな人がこれまでにない全く新し世界を切り開いてくれるとおもうし、僕らのコンテンツ作りも変わっていかなければならないと感じています。

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