“専門用語の洪水”を整理し、ルール不明のデュエルに勝て! 暗中模索カードゲーム『鏡のマジョリティア』レビュー

暗中模索カードゲーム『鏡のマジョリティア』

 ジャーゴン――仲間内にだけ伝わる用語を指す言葉であり、その言葉自体がジャーゴンのようなものであるが、これだけで会話をしていると、その場での連帯感が生まれ、秘密の遊びに興じているような高揚感も沸いてくる。特にトレーディング・カード・ゲーム(TCG)のようなコミュニティでは、ジャーゴンを学ぶ過程すら楽しく感じる瞬間すらあるだろう。

 パルソニック氏が開発したフリーゲーム『鏡のマジョリティア』は、そんな狭いコミュニティで使われている専門用語を洪水のごとく浴びながら、ルールが一切わからないカードゲームで勝ち抜いていくことを目的とした作品だ。

販売ページ(BOOTH):https://booth.pm/ja/items/5829385

 しかしながら、思いつきの一発ネタというわけではなく、ホビーアニメを意識したストーリーテリングもなかなか秀逸で、最後の最後まで目が離せない展開が待っていた。

言語解読パズル&一人用カードゲームの良いところ取り

 本作は左画面でアドベンチャーパートとカード対戦を交互に行いながら、右画面でそれまでに出てきた専門用語を整理していくゲームだ。この専門用語の整理という遊びは、いわゆる言語解読パズルに近く『7 Days to End with You』や『Chants of Sennaar』といったヒット作により、にわかに活気づいているジャンルだ。

7 Days to End with You [Indie World 2022.11.10]

 といっても、本作は英語とカードゲーム用語が多少わかればそこそこ見当がつく用語も多く、先行作に比べるとやや緩い難易度になっている。くわえて、ゲーム中に何度もNPCが用語の正誤をチェックしてくれるので、いつまでも皆の会話から蚊帳の外……ということにはならないので安心していただきたい。

ネタバレ防止のため、ゲーム内用語の推測ができている箇所はぼかしを入れている
ネタバレ防止のため、ゲーム内用語の推測ができている箇所はぼかしを入れている

 そんな言語解読パズルをこなしていくと、本作のカードゲームのルールが徐々にわかってくる。本作は作者が『マジック・ザ・ギャザリング』『遊戯王』『カルドセプト』などに影響を受けたと話している通り、かなりオーソドックスなスタイルのカードゲームである。

 マナを溜めて強力なカードを出し、相手の体力値をゼロにする、デッキアウトさせるなどのいくつかの勝利条件を満たせば勝利となる。

 とはいえ、対戦相手はほぼ全員がコンセプトデッキであり、勝利条件や定石を歪めてくるので、実質的にはカードを使ったパズルゲームという方が近い。そういう意味では『ウィッチャーテイルズ:奪われし玉座』などを彷彿とさせる遊びで、相手の目論みを上手く回避する面白さに満ちていた。

ホビーアニメの王道を貫くストーリー

 本作の魅力はゲーム部分だけでなく、ストーリーにもある。

 起動すると、主人公の少年であるTAIGAが母親に呼ばれるシーンから始まる。左腕に「マジョリティア」というボードゲーム盤を取り付けられるが、なんとも据わりが悪い。どうやらTAIGAは記憶を失くしてしまったようだ。

 母親に言われるがままに、普段から遊んでいる少年たちに会うと『鏡のマジョリティア』というカードゲームに誘われる。ガキ大将のゴリダ、頭脳派のスペクタ、裏表のありそうな少女モッキー。彼らと話を合わせながら、記憶喪失がバレないようにカードゲームを遊び、一日目をやり過ごすと、ある人物から連絡が届く……。

 本作は「コロコロコミック」や「コミックボンボン」などで連載していたような、いわゆるホビーアニメのノリで展開する作品だ。少年少女が楽しく遊んでいたカードゲームが、実は大きな魔力を秘めており、次第に彼らは運命に巻き込まれていく……という、筆者の世代にはちょうどブッ刺さる内容である。

 ちょっと大袈裟で、説明セリフが多いけれど、かけがえのない友情とゲームへのひたむきな思いが物語を駆動させる鉄板の展開に、懐かしさから涙してしまいそうになった。もちろん、細かい伏線やフレーバーテキストとのシンクロなど、カードゲームアニメに必要な要素もしっかり詰まっている。

 卑怯だけどニクめないライバルや、カードにのめり込みすぎて常軌を逸してしまったオトナなど、どこかで見たことのあるキャラクターたちが脇を固めるストーリーは、あのころにホビーアニメにハマった人なら絶対にチェックしてみてほしい内容であった。

 手描きのグラフィックやフリー素材のSEなど、個人製作特有の手作り感は好みが分かれるところだ。また、ドローのたびに主人公が黙考するのをクリックで飛ばさないといけない点なども気になったが、全体的な完成度はフリーゲームの枠をゆうに超え、充分に商業媒体のゲームと遜色ない出来になっている。

 以上『鏡のマジョリティア』をレビューさせていただいた。ここまで読んでいただいたライアーのみなさま、大変ありクイ。ぜひとも遊んでコニコになってほしい(筆者がなにを言っているのかは、このゲームをクリアしたライセンサーならわかることだろう)。

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