「世界一退屈な携帯」とは? ハイネケンの『The Boring Phone』に触れて分かった“リアルへの回帰”

「世界一退屈な携帯」

 スマートフォンの進化は日進月歩で、最近ではAI機能を搭載したモデルも増えている。いまやスマートフォンさえあれば本格的な写真撮影も可能で、美しい作品をSNSですぐにシェアすることもできる。ところが誰もが高性能なスマートフォンを使う中で、ハイネケンから突如、「世界一退屈」という携帯電話が発表された。いったいどんな携帯電話なのだろうか? 実際に実機を触ってみた。

heineken

ハイネケンから世界一退屈な携帯電話が発表

 『The Boring Phone』はビール製造大手のハイネケンと、ファッションブランドのボディガのコラボで生まれた携帯電話だ。半透明なボディーは折り畳み式で、外側には小型のディスプレイを備えるがそこに表示されているのは緑色のハイネケンのビール瓶。ここには時刻を表示することもできるが、あえてイラストを表示したほうがレトロで新鮮な感覚だろう。ボディーを通して見える携帯電話の基板は一般的な緑色だが、ハイネケンのカラーと相まっているのは偶然だろうか?

heineken
半透明ボディーのフリップ型携帯電話

 本体を開くと2.8インチのディスプレイが現れる。こちらもカラー表示が可能だがメニューなどは緑をベースにしたモノクロ表示だ。カラー写真を表示することができるが、この画面サイズではぼやけた感じにしか見えないだろう。なお、背面にカメラはあるが、画質は30万画素しかない。

heineken
モノクロ表示の画面では写真を楽しむこともできそうにない。

 ディスプレイはタッチ操作には対応していないので、すべての操作は数字キーを使って行う。ボタン類は最小限であり大したことはできないだろう。もちろんアプリを後から入れることにも対応していない。買ってきたらそのまま使う、無い機能は使わない、至ってシンプルな製品だ。

heineken
タッチ操作はできず10キーを使う

 メニューはいたってシンプル。電話、電話帳、ショートメッセージと携帯電話の最小機能は搭載されている。他はカメラやギャラリーがあるが、写真は30万画素にもかかわらず10枚しか保存できない。

heineken

 とはいえ低画質なカメラで撮影した画像には、今のスマートフォンにはないアナログのような味わいを感じることができるだろう。最近では昔のコンデジをわざわざ購入したり、古いスマートフォンを2台目に使う人が増えているという。最新のスマートフォンでは撮れない「エモい」写真を撮ることができる点が人気の理由だ。The Boring Phoneのカメラでもそんな写真が撮れる。しかも10枚しか保存できないので、むやみに撮影するのではなく本当に気に入ったシーンの撮影に集中できるだろう。

heineken
カメラの画質は期待できない。それが実はいいのだ。

 メニューを見ると「スポーツチェック」と「タクシー呼び出し」というアプリもある。この2つがあるだけでもスマートフォンの代わりになるかもしれない。しかしアプリを起動してみるとその機能に驚いてしまう。スポーツチェックは贔屓のチームの登録もできないし、タクシーアプリはUberなどのアカウントも登録できないのだ。

 試しにスポーツチェックを起動すると、画面には「自分の好きなチームは、きっとうまくやっているよ」と表示されるだけ。バーでお酒を飲みながら友人たちと楽しんでいる時間に、こっそりサッカーチームの試合経過を確認するなんてことはしなくてもいいじゃないか、ということなのだ。タクシーアプリも同様で、タクシーを呼び出す機能はない。「タクシーを呼んでもらえばいい」そんな文字が表示されるだけだ。

heineken
スポーツチェックアプリを起動するとメッセージが表示される。

スマホ漬け生活に嫌気がさした人の救世主となる?

 前述した通り、最新のスマートフォンはそれ1台で何でもできる、完成された製品だ。何かやりたいことがあれば、スマートフォンを使えば何でもサポートしてくれる。しかしその反面、目の前にいる人とのコミュニケーションが希薄になることはないだろうか?楽しく話が盛り上がっている中でSNSの通知を見たり、あるいは食事中に写真を撮ってすぐにシェアする、そうやって気が付けばスマートフォンを中心にした生活を過ごしてしまっていないだろうか?

 シンプルで簡単な機能しかない携帯電話は、スマートフォンに奪われた時間を日常生活から取り戻してくれる。身の回りにいる家族や友人、恋人と有意義な時間を過ごすことが可能になるのだ。『The Boring Phone』は限定5,000台の発売だが、発表直後から大きな反響を受けているという。それだけ「スマホ生活」に疲れた人も多いのだろう。スマートフォンを通してあらゆる人とモノが24時間つながりっぱなしのいま、時間を一時的に止めることのできるアナログ感覚のデジタル製品が人気になるのもうなずけるような気がする。

推し活にも最適な『Galaxy S24 Ultra』、それは街歩きを何倍も楽しくしてくれるAIスマホだった

『Galaxy S24 Ultra』ではSnapdragon 8 Gen 3 for Galaxyを搭載し、高速動作を実現。AI…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる