『ユニコーンオーバーロード』支持の理由はシステムの“調和”にあり ヴァニラウェアのゲームづくりにおける神髄とは
3月8日、『ユニコーンオーバーロード』が発売を迎えた。
存在が明らかとなるやいなや大きく注目され、発売後には期待どおり、もしくはそれ以上の評価を獲得するに至っている同タイトル。その面白さの源泉はどのような点にあるのか。古き良きゲームデザインのなかに散りばめられた新しさについて考えていく。
ヴァニラウェア×アトラスのタッグが贈る新作シミュレーションRPG『ユニコーンオーバーロード』
『ユニコーンオーバーロード』は、ヴァニラウェア×アトラスのタッグが贈る新作シミュレーションRPGだ。舞台となるのは、独立した5つの国家で形成されるフェブリス大陸。そのうちのひとつであるコルニア王国は、将軍・ヴァルモアの反乱によって亡国へと成り果てた。女王である母・イレニアと、その側近・ジョセフの機転によってなんとか難を逃れた王子・アレインは、ヴァルモアによって興された新生ゼノイラ帝国から大陸全土を解放するための冒険へと旅立つことになる。
「1990年代の名作シミュレーションRPGが持つ重厚な雰囲気や戦術性を継承」と公式が謳っていることもあり、『ユニコーンオーバーロード』は「Nintendo Direct 2023.9.14」でその存在が明らかとなったときから、『タクティクスオウガ』や『伝説のオウガバトル』といったジャンルの金字塔の名で形容されてきた。『オーディンスフィア』や『ドラゴンズクラウン』『十三機兵防衛圏』といった人気作品を世に送り出してきた、ヴァニラウェアとアトラスのゴールデンタッグによる新作ということもあり、発表当初から大きく注目を集めてきた経緯がある。
2月21日に満を持して体験版が配信開始となると、同タイトルに期待する声はさらに大きくなっていった。発売後の評判も上々で、SNSでは「ユニコーンオーバーロード」というワードがトレンド入り。3月12日には、多くの販売店でパッケージ版が品薄もしくは品切れの状況にあることを、発売元のアトラスが同社公式サイトにて謝罪した。
『ユニコーンオーバーロード』は、PlayStation 5/PlayStation 4/Xbox Series X|S/Nintendo Switch向けに発売中。価格は、通常版が8,778円、限定版が17,578円、ダウンロード豪華版が13,178円(すべて税込)となっている。
『伝説のオウガバトル』的ゲームデザインに加えられた現代性が面白さの根幹に
『ユニコーンオーバーロード』が支持を集める理由は、往年の名作にインスパイアされた骨太なシステムと、時代にあった新しいシステムを高次元で調和させている点にあると考える。
同タイトルでは、複数のキャラクターでユニットと呼ばれる小隊を形成し、それらをリアルタイムに指揮することで、バトルパートを進めていく。往年のシミュレーションRPGの金字塔に触れてきたプレイヤーにとってみれば、それは『伝説のオウガバトル』のシステムそのものだ。すでに答え合わせが済んでいる仕組みであるため、面白くないわけがないのである。特に同ジャンルに傾倒しているファンにとっては、「各キャラクターで構成された小隊を指揮する」というシステムが待ち望まれていた面もある。復刻を期待されながら一向に明るいニュースが聞こえてこない『伝説のオウガバトル』をめぐる動向も、『ユニコーンオーバーロード』には追い風として作用したのではないか。
一方で、同作と大きく異なる点があるとすれば、登場キャラクターすべてにアイデンティティがあること、「作戦」と呼ばれる要素によってユニットを構成する各キャラクターのバトル中の行動を緻密にコントロールできることだろう。これらの点は、『ユニコーンオーバーロード』に含まれる現代的なゲーム性であると言える。プレイヤーによっては、推しのキャラクターを積極的にユニットに組み込んだり、そのキャラクターを活躍させるためだけにユニットの構成を考えたりもできる。こうした楽しみ方は『伝説のオウガバトル』には存在しなかったものだ。
また、「探索」と呼ばれるフィールドパートでは、RPGのように主人公を自由に操作しながら、ある種オープンワールド的に、街への来訪、素材の収集、砦での部隊の強化、クエストへの挑戦といった行動をとっていく。『ユニコーンオーバーロード』の比較対象となっているシミュレーションRPGジャンルの名作たちにおいては、バトルパート以外の部分にプレイヤーが能動的に関わる余地がなく、ほぼ自動的にストーリーが進行していくパターンが多かった。このようなアプローチもまた、同タイトルがシミュレーションRPGを現代的に昇華している部分であると言えるだろう。
『ユニコーンオーバーロード』が持つ2つの現代性は、自由度の高さ、やりこみ要素の豊富さにもつながっている。往年の名作の名を出せば、それを模倣したもののようにも映ってしまうが、現代に誕生した新作として十分な完成度を持っているのが『ユニコーンオーバーロード』というタイトルなのだ。
TCG、モバイルRPGとの意外な共通項
『ユニコーンオーバーロード』のインプレッションにおいては、他ジャンルのエッセンスを上手に取り込んだ部分も目立っていた。たとえば、先述したユニット編成では、各キャラクターの個性やクラスの特徴、スキルの種類などを考慮しながら、ユニット間/ユニット内のバランスを見つつ、構成員を決めていくが、スキルのなかには、特定の組み合わせにおいて絶大な効力を発揮するものが存在しており、そこにあるシナジーを見つけることが、『ユニコーンオーバーロード』のユニット編成における醍醐味のひとつとなっていた。そうした体験は言わば、トレーディングカードゲームのデッキ構築にも似たもの。「作戦」という『伝説のオウガバトル』にはない新たな要素によってもたらされた、独自の面白さだと言えるだろう。
また、各キャラクターのあいだには「親密度」というパラメーターが存在しており、一定のしきい値を超えて上昇させることで、3段階の親密度イベントを見られるが、閲覧に対する報酬として、クラスチェンジやユニット枠の拡張、ユニットに編成できるキャラクター数の増加などに用いる通貨「勲章」が与えられる点が新鮮だった。
親密度というパラメーターの存在だけで言えば、直近に発売されたシミュレーションRPG作品にも広く実装されていたが、それに付随するイベントを見ることで、攻略上、重要度の高いアイテムが与えられる仕組みは、新しいアプローチだったと言えるのではないか。同要素における報酬構造は、モバイルRPGからの影響を感じさせるもの。同ジャンル、特に基本プレイ無料/アイテム課金型のタイトルは、キャラクターとの親密度を上昇させ固有のイベントを見ることで、ガチャに必要な通貨を配布する仕組みを持つ例が多い。そこには「プレイヤーをストレスなく楽しませるためなら、ジャンルやマネタイズモデルの枠を超えてゲームをデザインする」というヴァニラウェアのゲームづくりの神髄のようなものを感じさせられた。
大きな注目のなかでリリースを迎え、期待どおり、またはそれ以上の評価を獲得している『ユニコーンオーバーロード』。比較対象として名前が挙がりやすい『タクティクスオウガ』や『伝説のオウガバトル』がそうであったように、同タイトルもまた、数十年単位でシミュレーションRPGの金字塔として語られていくのではないだろうか。
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