約5年ぶり開催『春のVTuber甲子園』各チームの育成配信を総ざらい 大物監督たちが織りなすドラマを見届けよ

不遇・停滞・鬱憤 すべてを跳ねのけて生まれたVTuber高校

 ここまでで振り返った三人が文字通り三者三様のプレイを見せてくれるなか、主催・天開司はどのようなチームを構築したのだろうか。

 まずリスナーに注目されたのが、「天開はだれをメンバーに呼び入れるか?」という点だ。にじさんじ・ホロライブ・Neo-Porteといった事務所所属の出場者たちと異なり、VTuber高校は「3校以外の事務所に所属している」「個人で活動している」VTuberから選ぶのが方針となっており、その人選は天開次第だ。

 おおまかなラインとしては5年前の大会と同様に「自分の知り合いなどに声をかけ、オッケーをもらったひとから選んでいる」とのことで、誰が登場するかという話題に注目が集まった。

 天開が1年目に選んだのは、ガッチマンV、しぐれうい、歌衣メイカ、ぽんぽこ、兎鞠まり、赤見かるびの6人だ。

 『FallGuys』でのコラボをキッカケにしてユニット「ALLguys」として活動を共にする兎鞠まり、歌衣メイカ、ガッチマンVの3人はファンにとっても予想通りだったはず。しかし、これまで配信上でほとんど絡みをみせたことがない赤見かるびが選ばれたのには、コメント欄も驚きの声で溢れていた。

【#春のVtuber甲子園/1年目春~】初めての本戦出場で緊張しております【天開司/Vtuber】

 そんなチームをエースとして支えることになったのが、イラストレーターとしても活躍するVTuber・しぐれういだ。「アンダースロー投法」「低め◯」「ノビA」という新入生ピッチャーが入学してきており、選手アナウンスも「ロリッチ」という呼び方(※)があることも発見しており、「これはもうこうする他ないでしょ」と問答無用でしぐれういは誕生したのだった。

(※編注:『パワプロ』の選手アナウンスは、それまでに同作に収録された実際の野球選手もしくは『パワプロ』オリジナルキャラが中心となっている。かつて南海ホークスと近鉄バファローズに在籍したロン・ロリッチという選手はいるものの、同作に収録されたことはなく、なぜアナウンスが収録されているかは謎である)

 しぐれういの楽曲で、昨年大きなバズを記録したキッカケにもなった“ロリ神”として選手名登録、3年間活躍することとなった。

 意気揚々と育成を開始する天開であったが、その道程は楽なものではなかった。

 育成終了した現段階から振り返ってみると、じつはホロライブ高校以外の3チームは甲子園に出場できておらず、3校は横並びであるとみることもできよう。

 だがVTuber高校に関しては、にじさんじ高校・Neo-Porte高校と違って「大会準々決勝以上に進出できない」状態がつづき、選手育成という点でひときわ厳しい結果が続いた。

 「栄冠ナイン」では大会で1勝するごとにおおよそステータス1つ分がアップするようになっており、それ以外の経験値・絆などの数値も上昇するので、地方大会といえども1勝できたかどうかで大きな差が生まれてしまうのだ。

 そんな状況にあって、彼は『パワプロ』の経験値・知識で差を埋めようと試みる。他3人の出場者とは違って彼には企画を立てた5年前、いや、それ以前から同作品シリーズをプレイしてきた圧倒的な経験値がある。くわえて、彼は今作の攻略本をしっかりと仕入れてきたようで、時にはコメントすらも返り討ちにしながらガシガシと育成していった。

 しぐれういを育成する際には「球速とカーブの兼ね合いがあるから150キロ以上はあげたくない。そういったデータがある」とリスナーを諭すなど、積み重ねてきたナレッジをフルに活かした配信をみせてくれた。

【#春のVtuber甲子園/3年目夏~】決戦【天開司/Vtuber】

「勝つだけ! 勝てば伸びるんだから、 このゲームは!」

 そう気合を入れて進んだ3年夏の大会。まるでベンチから大きな声掛けするかのような口調、しかも時折相手校を「なんなんだよこの野手はよぉ!」「いまゴミ箱叩いてるでしょ? 相手」などと野次りつつプレイしていく天開。その姿は、ホロライブ・にじさんじ・Neo-Porteの3校とは一線を画す“野球ファン"感あふれる姿だった。

「いままでの試合運を払拭するような“何か”が起きてるな」

 最後の大会を駆け抜けるあいだ天開がこう話すように、対戦チームにはエラーが多発し、そのミスに乗じてVTuber高校は得点を掴んでいった。チーム育成をスタートしてから2年、その間の停滞・鬱憤を晴らすように打ちまくり、抑えていったのだ。

 ハイライトシーンは2回戦、6回表のシーンだ。1-3とリードされた場面で、赤見かるびが2点タイムリーを放って同点とし、順がすこし進んだ1アウト・ランナー2塁3塁の場面。ここでフォアボールとなったボールをキャッチャーが後逸した。

 すると、そのエラーを見逃さずにホームを狙って激走したのが、3塁走者の赤見かるびだ。ルール上は走ってもいいのだが、当然ながらアウトになりえそうな場面に、CPUがホーム突入の判断をしたのだ。

 これが間一髪でセーフの判定となり、たった1人で3点を稼ぎ出した赤見かるびの大活躍でチームは逆転。そのまま勢いに乗って勝利をもぎ取ったのだ。

 赤見かるびといえば、普段の配信でも常に前のめりなプレイをみせてくれることで多くのファンから愛されているが、まるで本人の魂が乗りうつったかのような千載一遇のファインプレーにより、過去大会で突破することができなかった2回戦の壁を乗り越えたのだった。

 その後は対戦校を次々と破って決勝戦まで進出を果たすVTuber高校。決勝の相手はA評価の強豪校だ。結果からいえば、勝利寸前まで攻め立てるも一歩届かず、地方大会決勝で破れてしまった。だがこれまで2年間に渡る不遇・不運をはねのけ、粘り強いチームへと成長をみせたVTuber高校には、筆者も非常に胸を躍らせて楽しませてもらった。

 大黒柱はもちろん、エースへと成長したしぐれういだ。ジャイロボール・ノビAの補正がかかった球速150キロのストレートを、アンダースローからズバズバと投げ込んでいく。実際のプロ野球シーンにこんな選手がいたならば、きっとその出で立ちだけで画になるようなピッチャーだ。

 こうして、様々なドラマや変遷を経て4校全てが出揃った。4チームを比べると、やはり秋春夏と大会優勝したホロライブ高校のチーム完成度が全体的に高く、「打倒・ホロライブ高校」をかかげて残り3校がしのぎを削る状況にある。

 今大会の方式ではリーグ戦とトーナメント戦をどちらもこなすため、仮にリーグ戦ではうまくいかずとも、トーナメント戦でチャンスさえ掴めれば上位を打倒することも夢ではないはず。18日からスタートする本戦のなかで、どのような試合が展開されるか。今から楽しみにしておこう。

「ドン勝生活」「Vtuber甲子園」「神域リーグ」……ヒットコンテンツを生み出し続ける天開司が積み上げた5年間とこれから

2017年から2018年にかけて、一気にVTuber、バーチャルYouTuberが話題になってからはや5年。当時は“珍しいもの”…

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