『Apple Music Classical』はなぜ別アプリに? リリースイベントで語られたクラシック音楽ならではの“特殊な事情”

『Apple Music Classical』別アプリで登場のワケ

 1月24日、Appleはクラシック音楽のためにデザインしたアプリ『Apple Music Classical』をリリースした。すでに米国、ラテンアメリカ、ヨーロッパでは先んじてリリースされていた本アプリケーションだが、今回を機に日本、韓国、中国でも利用できるようになった。

 すでに「Apple Music」のサブスクリプションに登録しているユーザーは、追加料金無しで同アプリを利用することができる。ここでは同アプリの詳細と、先んじて22日にApple 表参道で行われたリリースイベントの様子を合わせてお伝えする。

 イベントでは『Apple Music Classical』を統括するジョナサン・グルーバー氏がアプリについて紹介した。『Apple Music Classical』は既存のApple Musicのサービスに含まれるが、独立したアプリケーションとして提供される。

 その背景にはクラシック音楽の持つ特殊なデータ構造があるという。つまり、クラシック音楽はポピュラー音楽のジャンルとは異なり、同じタイトルの楽曲が世界中で演奏されており、関わる人物の数も膨大であることから、既存のカタログ(とアプリ)ではなく、クラシック音楽に特化した専用のアプリケーションを作ることで閲覧性を高めているということだ。

 今回のローンチでは日本語を含む各国語版のアプリが用意され、カスタマイズされたローカルな体験が提供されるという。たとえば日本語版のアプリでは日本と世界のクラシックシーン、両方の良さが取り入れられている。

 アプリ下部の「見つける」タブには作曲家・ジャンル・指揮者・時代など、膨大なクラシックカタログを検索するための豊富なガイドが用意される。たとえばバロックなど特定の時代の音楽にアクセスしたり、ヘンデルなどの作曲家について詳しく調べたりといったことができ、ヘンデルが作曲したすべての作品に目を通し、楽しむこともできる。

 また『Apple Music Classical』のすべてのレコーディングは最低でもロスレス・CDクオリティから、最高で24bitのハイレゾロスレスまで、ストリーミングで利用可能な高品質のオーディオが提供されるほか、 Dolby Atmosによる空間オーディオも提供される。

 「ライブラリ」のタブではユーザーが同アプリで提供されている音楽を自由に追加でき、ここで追加した楽曲は「ミュージック」アプリのライブラリにも同期される。

 また、「検索」タブでは作曲家、作品名、作品番号、アルバム名、アーティスト名などで検索できるほか、「ベートーベン 第5番」などと曖昧な検索ワードを入力しても、正確な検索結果を得ることができる。

 作曲家と楽曲のページでは、それぞれについてより詳細なテキストを読むこともでき、こうしたテキストと合わせてあらゆるレコーディングを楽しめる。

 また、コンサートホールやオーケストラと協力し、独占コンテンツを提供することも語られた。なかにはドルビーアトモスによる空間オーディオに対応したものもあり、すでにウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏が空間オーディオで配信されている。

 もちろんこうした独占コンテンツも含めて、既存のApple Musicのサブスクリプションに追加費用なしで視聴可能ということだ。

 リリースイベントでは指揮者の佐渡裕氏とギタリストの村治佳織氏のトークセッションも行われた。佐渡氏はクラシック音楽が現代の様々な音楽に影響を与えていることを踏まえたうえで、『Apple Music Classical』のリリースによってクラシックの世界により多くの人がアクセスできることに「新しい時代が来るのかな」と喜んだ。

 村治氏は膨大な楽曲のカタログ化における多くの部分が人力で行われているということにフォーカスし、人の温かみを感じたと語った。

 検索機能の使い心地について、佐渡氏は「指揮者」「バイオリニスト」など、こまかな検索ができることに魅力を感じていると語り、村治氏はこの検索機能が子どもたちにも有益なツールになるだろうと指摘した。

「よく、『指揮者によって演奏は変わるものですか』と質問を受けるんですが、たとえばベートーベンの第5番『運命』にしても、カラヤンとバーンスタインでは全然テンポが違う。テンポの指定があるにもかかわらず、ひとつの交響曲で誰が聴いても『こんなにも違うものか』と驚くはずです。これが、他の指揮者だったらどうなるのか? これはひとつの例ですけど、ピアニストによっても違うし、バイオリニストによっても違う。たくさんのバージョンを簡単に聴き比べて、そうしたことが手に取るようにわかるので驚きました」(佐渡)

「私は演奏家として小学校・中学校でコンサートを行うことが多々あります。子どもたちに演奏が終わった後にも音楽をどうやって楽しんでもらえるか考えると、やっぱり授業で習った国の名前や思いついた年号なんかを入れてみるのも面白いと思うんです。『こんなに昔からクラシック音楽があったんだ!』という衝撃もあるかもしれない。いろんな国でいろんな時代にクラシック音楽が演奏されているんだと伝えたいし、そのツールとしても最適だと思います」(村治)

 イベントでは村治氏によるギターの演奏も行われた。楽曲は「エターナル・ファンタジア-薬師寺にて」「愛のロマンス」「タンゴ・アン・スカイ」。演奏された楽曲はいずれも村治氏が演奏したものが『Apple Music Classical』で配信されており、そのうち「愛のロマンス」は空間オーディオでの再生にも対応しているので、「Apple Music Classical」をインストールしたらぜひ聴いてみてほしい。

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