xRの発展によってヒトの「知覚」は変質するか 空間体験デザイナー・sabakichiに聞く、可能性と課題

空間体験デザイナーに聞く、「xR」の可能性と課題

「空間」の概念と、それを知覚するためのリテラシーはなぜ獲得するのが難しい?

――sabakichiさんは「身体の変質に伴う新しい空間性と身体感覚」の研究もされているかと思いますが、反対にユーザー側の感覚をアップデートしていく、まさに標榜されていらっしゃるように「知覚表現の輻輳〈Multiplex〉」させるためにはどのようなアプローチが考えられるでしょう?

sabakichi:多分いくつかの視点があると思っていて。一つは教育的な視点。昔からメディア芸術とか、ニューメディアのジャンルはありますが、それで育った下の世代からすると、ニューメディアは新しく何ともないんですね。「ニュー」と言っていられる期間ってめちゃくちゃ短いんだと思うんです。

 そういうとても短いサイクルの中で、ある種新しいものをきちんと新しくないものにしていく作業をするのは教育の役割だと思うんです。次の世代に向けて、クリエイターとして新しいものを適切に提供するという意味だと、それは社会にとって必要な営みなのかなと思っています。

 教育面でもうひとつ挙げると、みなさんのリテラシーです。そもそも世の中の全員の「空間」に対するリテラシーを上げていくことが必要だとは、最近特に感じていて。というのも、先ほどから空間の話をしていますが、結局言葉通りの意味での「空間」を知覚する技術、能力は当たり前すぎて言語化できない技能なんです。

 ただ、我々が仕事で使っている「空間」という言葉と一般的な意味合いでの「空間」というものはかなり解像度が異なっている場合が多いです。これはもちろん「空間」という言葉が多義的なものであるということもありますが、そもそも知覚している「空間」という概念が全く違うというか。

ーーあらためてそこの違いについて解説いただけると幸いです。

sabakichi:僕らの言うところの「空間」を説明するとき、まず「ボリュームを見てください」という話を良くしています。

 たとえば、いまこのインタビューを受けている部屋を眺めたときに、空間を意識しようとすると壁や窓ガラスのような構成要素を見てしまいませんか? でも「空間」という言葉について考えてみると、本質的には“何もないところ”を指している概念ですよね。だから、この何もない空気の部分が見えないといけないはずなんです。

 もしそこが正方形の部屋なのであれば、豆腐みたいな形をしている「空間」を容積(ボリューム)としてぱっと知覚することなんです。それが、意外に難しく、一つのリテラシーなのかなという気はしています。建築設計出身の人が「豊かな空間」と言うときには、(主たる構成要素の1つとして)そのボリュームを見ていることが多いんです。

――たしかにそういった「空間」に対するリテラシーは、なかなか普段意識しませんよね。普段の生活のなかで気付きを得づらいものだと思います。

sabakichi:そうなんです。たとえば、建築をどう評価したらいいのかって、ほとんどの人がわからないまま生きるじゃないですか。でも、それっておかしなことだと思うんです。

 というのも、「衣・食・住」の中で、「衣」であるファッションは自分で作れる人もいるし、みんなそれぞれ何がいいかが分かって、自分なりの価値観も持っている。「食」も当然自分の好きなものがなにかわかるし、自分で作ることもできますよね。ただ、最後の「住」だけは、何がいいかわかりづらいし、自分で作ることもできず、自分だけでは扱うことができないものなんです。

 なぜそうなってしまうかというと、そもそも建築活動はタイムスパンがすごく長いんですね。一度建ててしまうと60年ほどは保ってしまいますし、その場で作ってその場で食べる料理に比べると全くサイクルのスピードが異なるので、そもそもノウハウを持っている人の母数が社会にとってそこまで必要とされていないんです。

 それから、建築設計はお師匠さんがその弟子に受け継いでいくような感じで、連綿と受け継がれてきた種のもの作りなんですよね。いまもそれが続いていて、専門家の中で専門性が非常に閉じ込められています。個人的にはそれはあまりよくないのかなとも思っていて。

 現在のxRやVR領域においても、本質的には空間が最も重要なコンテンツや体験の要素であるにも関わらず、どう評価すればいいかわからないしどう作ればいいかわからないという、リテラシーが無の状態からスタートするので、おそらく皆さん当然混乱するだろうし、それがいいものかどうかを判断することが難しいというのが現在の状況につながっていると思います。

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