xRの発展によってヒトの「知覚」は変質するか 空間体験デザイナー・sabakichiに聞く、可能性と課題

空間体験デザイナーに聞く、「xR」の可能性と課題

これからの「空間設計」に求められることと、アプローチの方法

ーーあらためて実績を拝見すると、VRはもちろんそれ以外にもかなり幅広く手がけていらっしゃる印象です。

sabakichi:そもそも僕の出自が「空間設計」なので、どちらかというと“リアル寄りの人”というか、『VRChat』コミュニティのみなさんからしても「外の業界から来た人」みたいな見え方をしていたと思うんです。人によっては中途半端な立ち位置に見えたとは思うんですけど、どちらもできますし、それが自分の強みだと思っていたので、当時からMRやAR、VRとさまざまな案件を同時に進行していました。

――ご自身の中で、ターニングポイントとなった案件やプロジェクトはありますか?

sabakichi:ひとつは松竹さんと取り組んだ『Reverse Reality KABUKI Performance "Shakkyo"』というMixed Realityのコンテンツです。これはかなり記憶に残っていますね。

 これはスマートフォンの専用アプリもしくはMRグラスを起動し、YouTubeで特定の日時になると配信される専用の動画にかざすと、片岡愛之助さんの舞を3Dボリュメトリックキャプチャした姿がアプリ側で重畳され表示されるというコンテンツでした。動画側は歌舞伎の舞台にある書割を再解釈し、再構築したものなんですが、愛之助さんの舞とその動画が、アプリを通して観るとバッチリハマるという、メディアをまたいだ取り組みなんです。

 歌舞伎といえば、伝統的なパフォーミングアーツのジャンルですが、めちゃくちゃアナログのものなので、それをデジタルとして残すのは難しい。でも、人間から人間へ受け継いでいく良さがある一方で、それがずっとデジタルと離れたままでいいのかというのは疑問でもあったんです。

 スマホで目の前にあるものの情報をすぐ得られるようになっていく中で、お客さん側から見ているものがそうしたメタ情報のない完全なアナログのままでいいのかとか、僕たちの価値観に対していろんな問いがあるじゃないですか。そうしたところにアプローチをしようというプロジェクトでした。

『Reverse Reality KABUKI Performance "Shakkyo"』

――2Dの映像を背景に舞う3D化された愛之助さんの姿を、平面の液晶を通して観る……あらためて「空間」を意識させられるという意味でも、面白い取り組みですね。

sabakichi:世間で「サイバー空間」とか「デジタル空間」と呼ばれているものって、どう「空間」として成立しているのかわかっていないまま空間と言われていることもあると思うんです。

 でも、僕らはもう少し手触り感のある形で、空間性があるということを解像度が高い状態で実感してもらいたかった。メディアを混ぜあうことを通じて「空間を知覚することを楽しむ」という、そういう感性が世の中にもう少し実装されてほしいという野望を持ちながらおこなっていました。

――そういう意味でいうと、Appleの「空間コンピューティング」もそうですし、近年のさまざまな「空間」に対する取り組みを観測していると、多くの人があらためてそれらを理解するタイミングが、ここ1、2年くらいの間で訪れるんじゃないかと考えているんですが、sabakichiさんはどう思われますか?

sabakichi:「空間」という言葉がキーワードになっていると思うんですけど、それを専門としている僕の視点で見ると、そもそも「空間」という言葉が便利に使われすぎているという印象を受けてしまってもいるんです。

 「空間」という言葉はいろんなものを包括しているのでわかりやすいですし、みなさん前向きに使っていると思うんですけど、一方でその中身が何を指してるのかというのは、おそらくほとんどはっきりしてなくて。

 「空間」というものは多義的ですから、自分たちなりに定義すればいい話だとも思いつつ、それを自分で説明できないと、単に便利で使ってるだけなのではないか、と思うところも正直あります。空間設計、空間デザインを専門にしている身からすると、もう少し“空間そのもの”に視点を向けてほしいなという思いがありますね。

ーー“空間そのもの”ですか。

sabakichi:たとえば体験しに来れるタイプの「空間」においてユーザーが味わうものって、結局「実際にその場所に実装されたもの」に依存するんだと思うんですよ。

 なので、最終的にユーザー体験へと実装して落とし込むためには、制作側の解像度が必要になってくるはずなんです。「空間」という概念自体の解像度が、現状の多くの体験型コンテンツではそこまで高くないように感じられてしまうので、ユーザーとの接続がうまくいっていない状況を結構よく見かけます。そのために僕が呼ばれてるというのはもちろんあるんですけどね。

ーーそこの整合性を持たせる、sabakichiさんの言葉を借りれば「リアル寄りの人」だからこそ担える役割でもありますね。解像度の上げ方としてはどういったアプローチを?

sabakichi:実際の落とし込みの手法でいうと、たとえば一般的な空間で展示するようなコンテンツであれば「2D映像」であったり「グラフィック」であったりと、さまざまアウトプットの構成要素や形式があるけども、結局その既存のメディアがもつ性質の延長線上の場所に、アウトプットを持ってこざるを得ないじゃないですか。当然その方が馴染みがあるし、わかりやすいので。

 だけど、xRの場合って馴染みがないところに落とし込まれてしまうんです。それを鑑賞・知覚するデバイス含め、みんなが見たことのないものになるし、しかも新しいメディアなので斬新なコンテンツを期待してる部分もあって。ただ、そこで本当に新しいものをやると、よくわからないものができあがってしまうこともあると思うんですね。

 普通に進めると理解の難易度が高いコンテンツになってしまうなかで、どうアプローチするかといえば2つやり方があると思っていて。片方は「わかりやすい方に持っていこう」というアプローチ。普通に新しいものを作ると分からなくなっちゃうから、それをもうちょっとわかりやすくしようよっていう風にズラしちゃうっていうやり方です。

 これは要するにちょっとリアルにするとか、たとえばxRやVRのライブイベントだったら、現実と同じような様式のライブ会場を作ってしまえば、一発で「ライブだ」とわかる。観る人の経験や体験を引用する、少し後ろの方にセットバックする形です。

 もう一つは本当に新しいものをやるんだけど、きちんと理解できるものとして体験を設計しようよっていう方法があるんですね。多分おそらく後者の方がめちゃくちゃ難しい。ですけどみんな実はそれを見たいんですね。

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