SMAP解散が放送作家引退のスイッチに 白武ときお×鈴木おさむが見るテレビの過去と今
放送作家としての仕事をやり切って新しいことをしたい
白武:僕は2000年代、小学生、中学生くらいのときにテレビにのめり込んで熱心に見ていました。サブスクでその時期のバラエティを見つけたらついつい見てしまいます。思い出補正なのか、画質が荒いからなのか、ワクワクさせるパワーが画面から出てるなと。
鈴木:自由でしたよね。コンプライアンスもそうだけど、人々のテレビに対する意識が違った。
白武:2010年代になったら情報番組というか“ためになる”番組の時代になって、最近またお笑いブームというか楽しげな雰囲気になっていますけど、僕が10年前に放送作家を始めた頃は、いまほど「予算がない」と言っていなかったと思うんです。そういった変化で、おさむさんのテンションは変わりましたか?
鈴木:僕に関しては、舞台を自分でやったことで「お金がないなら、ないなりにできることもある」と考えられるようになっていたから、特に変わりませんでしたね。
舞台は、チケットが売れなかったら主宰の自分が赤字を全部背負うことになる。それってヒリヒリするじゃないですか。テレビの仕事だと、普段はそんなこと考えない。ありがたいですよね。でも考えるようになったからこそ、本当に予算を気にしなくなりました。
ただ、お金のこともそうだし、コンプライアンスのこともありますけど、テレビでできることの種類が絶対的に少なくなっているじゃないですか。
白武:子供の頃にはあったけど、無くなっているジャンルは多々ありますね。
鈴木:ABEMAの『恋愛ドラマな恋がしたい』も、Netflixで配信する『極悪女王』も、予算があるんですよ。でもそれは「すごい予算で作りたい」という気持ちから始まったわけじゃなく、今やりたいことを考えたらそうなった。
白武:なるほど……。スケール感よりも、おさむさん自身が面白いと思うかどうかが軸になっていて、それはずっと変わらない。
鈴木:そうですね。『極悪女王』は、前に『いまだにファンです!』(テレビ朝日)って番組をやっていたときに、ダンプ松本さんと長与千種さんのファンが出てきて、長与さんのファンが「髪切りマッチ」を観て未だに号泣するっていう場面があったんです。
それを見たときに「これは面白い! ドラマにしたい!」と強く思ったんですよ。これはテレビじゃ無理だなと思ったから、Netflixに提案しに行ったんですよ。ダンプ松本さんと長与千種さんが血まみれになっている写真があって、それを表紙にして、3枚の企画書を作りました。
それを持っていったら、「これはドキュメンタリーですか? バラエティですか?」と聞かれて、ドラマとしてプレゼンをしたら「それなら面白い」と言っていただけた。表紙の写真の存在が大きかったと思うけど、そこに自分の熱量を込めたから。だから、やっぱり自分がワクワクしているかどうかが一番重要だと思います。
白武:悔いはないということで、放送作家を辞めるということですが、いまおさむさんがテレビに対して思うことってどんなことですか?こうした方がいいとか、こうできたら良かったなとか。
鈴木:いまのテレビは時代に合っていないと思います。一番そう思うのは、データの出し方。この時代に視聴率ってものでしか評価されないなんて、さすがにまかり通らなくなってきているじゃないですか。基準が崩壊してみんながあたふたしている。
白武:局ごとにも狙っているコア(個人視聴率)が微妙に違いますし、ネットで話題になること、TVerのランキング1位がどれくらい凄いことなのか、誰の言ってることを信じてやっていくのか迷いますね。
鈴木:早く、視聴率100%が何人なのか発表したほうがいいと思いますよ。そうしてテレビの現実を剥き出しにしたほうが、逆に「テレビってすごいな」とみんな思うんじゃないかなと。戦後の日本の歴史と深く関わっているから無理なのかもしれないけど、それでコア(個人視聴率)とかみんなが都合の良い数字を言い始めたら、それはもう無理ですよ。
白武:数字のことはわからないですがNetflixで作品を出すっていうのは憧れます。『極悪女王』が公開されて国内外でヒットしても、また新たなものを作りたいってならないですか?
鈴木:いまは抱えている放送作家としての仕事をやり切って、新しいことをしたい気持ちが強いですね。51歳から新しいことを始めて、やってもうまくいくかはわからないし、やりたかったらまた戻ればいいとも思うんだけど、どちらにせよなにかやりながらでは絶対うまくいかないと思うんですよ。
白武:すっぱり辞めて、新しいことを始められると。若者の応援をする、と話されていますよね?
鈴木:僕の事務所の地下をフリーのシェアオフィスにしてるんですよ。なんか本当に、昔のテレビを作ってた奴らみたいなのばかりがいる。根性次第で1000億円企業になれる、とギラギラしているんです。
テレビのなかだともう、できることに限界があるじゃないですか。でも違うところだったら、もっとできることがあるというか。些細なことかもしれないけど、いまの僕が若い人たちに対してできることがあるかなと思っているんです。
白武:めちゃくちゃ楽しみです。放送作家という職業である間に、おさむさんとお話できて嬉しかったです。ありがとうございました。
■書籍概要
『仕事の辞め方』
著者:鈴木おさむ
出版社:幻冬舎
定価:本体1,500円+税
https://amzn.asia/d/0QYk51i
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