AI失業に備えて認知しておくべき“ゴーストワーク”とは? 専門家が語る

“AI失業した人数”は把握しにくい

――聞けば聞くほどAI失業が今後日本でも起こり得ることなのかわかります。とはいえ、日本では現在そこまで「AIに仕事を奪われた」という話は聞きませんが。

井上:日本ではアメリカに比べると簡単に解雇できないため、AIに業務が代替されても、配置転換で済んでいるといえます。それに、そもそも解雇が難しいために、AIが導入されにくいとも言えます。

――“AI失業した人数”は把握しにくいと。

井上:そうです。アメリカでも同様で「1~8月の間で約4000人のAI失業が起きた」と報じられましたが、そうして数値データ化されるのは氷山の一角です。恐らくはその10倍以上の人が影響を受けていると推測しています。それに、生成AIは普及が始まったばかりで、今後はAI失業が加速していく可能性があります。

――逆にAI失業が起こりにくい職種などを教えてください。

井上:まずホワイトカラーの職種で言うと営業職。中国などではライブ配信しながら商品やサービスを紹介する“ライブコマース”が普及しており、昼間8時間は人間が担当し、他の16時間はAIが担当する、というような役割分担が起きています。このように、BtoCのような営業職はAIによる代替が進んでいくでしょう。その一方で、BtoBの営業職は残りやすいです。やはりBtoBは大きなお金が動くため、企業としては慎重にならざるを得ません。いかに営業先を信用できるかがなにより重要。信用を獲得することはAIには難しく、そこは人間だからこその領域になります。

――他に、AI失業が起こりにくい職種は?

井上:ブルーカラー全般が挙げられます。頭脳労働であるホワイトカラーとは異なり、ブルーカラーを代替するにはロボットのような物理的な機械を導入しなければいけません。今でも、飲食店のホールスタッフとしてロボットが導入されていますが、それは資金力のある大手飲食チェーンに限った話。AIに比べてロボットの導入コストは圧倒的に高いため、ブルーカラーの仕事が脅かされることはしばらくはあまりないでしょう。

ブルーカラーの待遇改善が急務

――AI失業と聞くと不安な気持ちになります。しかし、AI失業が起きることによって人手不足の業界に人材が流れる、というポジティブな側面もあるのでは?

井上:たしかにアメリカではコールセンターや旅行代理店など、AIによって業務を減らされたりAI失業したりした人が、清掃業界や介護業界といった人手不足の業界に流れる動きは見られています。

――日本ではまだ見られていないのですか?

井上:やはり解雇規制の違い、AIが導入されるスピードなどもありますが、人手不足の業界にあまりポジティブなイメージを持たれていないことも大きいです。

――イメージの問題で転職に踏み切る人が少ないと。

井上:ブルーカラーをネガティブなイメージにしてしまっている一番の要因は低賃金が挙げられます。保育士や看護師、介護士など“公定価格”といって政府が賃金を調整できる仕事もあるのですが、そういう仕事ですら人手不足であるにもかかわらず、十分な賃上げがなされていません。公定価格が引き上げられれば、その波及効果で建設業や運送業などの民間部門でも賃上げがなされると思います。

――政府主導で待遇改善に動いてくれれば、AI失業に怯える心配もなくなりそうです。

井上:もちろんAI失業への対策として政府には早急な待遇改善を求めたいですが、大前提としていま現在のブルーカラーの仕事は給与が明らかに低い。にもかかわらず、ブルーカラーに従事している人のなかには「待遇改善が低いのは当然」と諦めている人は珍しくありません。しかし、当然なんてことはない。ブルーカラーとして私達の生活を支えてくれる人達には、AI失業に関係なく待遇改善の声を上げていってほしいです。

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