2023年は“個性派テトリス”たちの記念すべき1年だった ユニークな作品群を振り返る

ユニークな“個性派テトリス”たちを振り返る

正統派テトリスにも記念すべき年を迎えた埋もれた名作がひとつ

 また、“個性派”というには一歩及ばないのだが、もう1本、区切りのよい年を迎えた「テトリス」がある。

 それが『テトリスDX(デラックス)』。1998年10月21日にゲームボーイカラー本体と同時発売された「テトリス」で、1989年6月14日に初代ゲームボーイ向けタイトルとして任天堂より発売された『テトリス』のカラー対応兼パワーアップ版だ。

 そのため、基本の内容はゲームボーイの初代『テトリス』と共通で、前述の個性派7タイトルと比べてしまうとインパクトは劣る。発売当時もゲームボーイカラー対応タイトルでは『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』といった話題性の高いタイトルが揃っていたことから、埋もれてしまっていた印象は否めない。

 とはいえ、その完成度は指折りだ。特に操作性は初代『テトリス』から大幅に向上していて、落下中のテトリミノがスピーディかつスムーズに動かせるようになっている。また、フィールドへの接地までの判定にもある程度ながら“待ち時間”が生じるようになり、場所を間違ってしまった際の挽回が効くように改善。テトリミノの落下速度が早くなってもこの仕様は継続されるため、より高いスコアを目指しやすくなっている。

 さらに初代『テトリス』は、当時としては珍しい相手側のフィールドをせり上げるという攻撃要素を備えた対戦モードが大きなセールスポイントで、それが記録的な大ヒットの原動力になった。ただし、対戦は2人プレイ専用のため、1人で遊ぶことはできなかった。そこも『テトリスDX』は「VS.COM」のゲームモードを導入する形で解決。「EASY」「NORMAL」「HARD」の難易度に応じたCPUとの対戦が楽しめるようになっている。しかも、セーブデータの成績を基にしたプレイヤー自身の分身と戦う機能も搭載。ほかのプレイヤーのセーブデータをもらうこともでき(通信ケーブル必須)、その相手を再現したデータと対戦するという遊びも楽しめる。

 ゲームモードに関しては40ライン消すことを目指す「40LINES」、3分の制限時間内にどこまでスコアを稼げるかに挑む「ULTRA」も新たに収録。エンドレス型の「A-TYPE」(マラソン)、25ライン消すことを目指す「B-TYPE」のみだった初代『テトリス』から大幅なボリュームアップが図られている。他にも前述で少し触れたが、バッテリーバックアップ対応によってプレイヤーごとのセーブデータを残せるようになり、スコアなどの記録が消えなくなった。そして、カラー対応によってテトリミノがより識別しやすくなったのに加え、初代ゲームボーイ特有の液晶の残像に悩まされることもなくなるなど、グラフィック面にも著しい改善が図られている。

 一方でBGMはすべてオリジナルの新曲に差し替えられるなど、初代『テトリス』が好きな人には賛否の分かれる変更点もある。ゲームモードも増えたとはいえ、根っ子はゲームボーイの初代『テトリス』ということで新鮮味も劣る。だが、パワーアップ版としては堅実に仕上げられており、デラックスの名に恥じない良作となっている。

『テトリス』(『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』より)
『テトリス』(『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』より)

 ゲームボーイの初代『テトリス』は2023年現在、『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』にて復刻済みで、フレンド限定ながらオンライン対戦が楽しめる。一方で『テトリスDX』は復刻されておらず、すでに初代『テトリス』が収録されている状況を踏まえると今後、遊べるようになるかは怪しい。ただ、本作にしかない見どころが多く備わっているタイトルなので、食い合いの懸念もあれど、なんらかの形で蘇り、発売当時、スポットライトが当たらなかった無念を晴らす機会が来るときを願うところである。

ガイドライン制定後のいまもなお、個性派テトリスの誕生は続いている!

 再評価されるときが来てほしいとの思いから『テトリスDX』だけ、1段落割いて紹介してしまったが、このようなさまざまな「テトリス」が2023年に30周年、25周年といった区切りのいい年を迎えたのである。

 あらためて振り返ってみると、特に1990年代のガイドライン制定前に誕生した“個性派テトリス”は、クリエイターの自由な発想とチャレンジ精神が際立つ作品が多かったように思う。本稿ではピックアップしなかったが、ほかにも“個性派テトリス”は多く発売されていて、積み上がったテトリミノを消しながら「教授」を出口へと導くゲームモードを収録した『テトリスプラス』などがある。

 では、ガイドライン制定後は個性派が減ったのかと言えば、そんなことはない。2006年発売の『テトリスDS』、2014年発売の『ぷよぷよ』とのコラボレーション作品『ぷよぷよテトリス』といった大変ユニークな個性派が出てきている。本稿でピックアップした『テトリス エフェクト』もガイドライン制定後に誕生した個性派のひとつだ。

『テトリス99』(Nintendo Switch)
『テトリス99』(Nintendo Switch)

 そして、Nintendo Switch Online会員向け無料タイトル『テトリス99』(※後に買い切りのパッケージ版も発売)。「テトリス」でバトルロイヤルという大胆な発想を採り入れた同作は、まさに近年の“個性派テトリス”の代表格と言っても過言ではないだろう。

 特定のゲームルール、テトリミノの色などを指定するガイドラインに基づいた「テトリス」が当たり前になったいまもなお、時に予想だにしない形への進化を遂げ、プレイヤーを魅了させ続けている。『テトリス エフェクト』でVRの世界への一歩を踏みだし、『テトリス99』でバトルロイヤルという新境地を見出した歴史的な落ちモノパズルゲームは今後、どんな進化と発展を見せていくのか。何十年経っても、「テトリス」の動向からは目が離せない限りだ。

 そして、ゆくゆくは『テトリス武闘外伝』のように遊ぶ手段が限定されてしまっている“個性派テトリス”に復活の機会が与えられることを祈りたい。『マジカルテトリスチャレンジ』のように、ディズニーの版権が絡んでくるタイトルは絶望的かもしれないが、たとえ復刻がかなわなくても、本稿が“個性派テトリス”が存在したというひとつの記録になることを願ってやまない。

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