連載:mplusplus・藤本実「光の演出論」(第五回)
極限まで光を減らし、シンプルなロボットの動きで“原理”を見せる 『Embodiment++』で藤本実が向き合った原点
SAMURIZE from EXILE TRIBEの生みの親であり、LEDを使った旗「LED VISION FLAG」や新体操のリボンを光らせた「WAVING・LED RIBBON」の開発、『東京2020 パラリンピック』開会式で光の演出を担当、や『America’s Got Talent』にも出演するなど活躍の場を広げる、クリエイティブカンパニー・MPLUSPLUS株式会社の代表・藤本実氏による連載「光の演出論」。
今回、リアルサウンド編集部は東京・渋谷の「CCBT(シビック・クリエイティブ・ベース東京)」で開催中のプログラム『Embodiment++』を取材。「テクノロジーと身体表現の関係を、MPLUSPLUSの活動から紐解く」とした同プログラムの内容と、藤本氏の考える「身体性」について話を伺った。(編集部)
「(今回の展示は)ライブエンタメではなく、我々の“メディアアート”の部分」(藤本)
――今回の『Embodiment++』を行うことになったのは、CCBTさんからのオファーがきっかけだったそうですね。
藤本:以前から一緒にできたらとお声がけいただいていたのですが、このタイミングで実現しました。最初に言ってもらったのが、「MPLUSPLUSはライブエンタメの会社だと思われているが、実際はメディアアートもやっているのだから今回はそれを打ち出す展示にしてほしい」ということでした。
これまでの「MPLUSPLUS」が取り組んできた「ライブエンタメ」という面ではなく、「メディアアートでこんなことをやっている」という部分を見せてほしいという依頼だったので、新作を作ることが絶対条件だったんです。相談があったのが今年の頭くらいだったのですが、そこから3ヶ月くらいはずっとその内容を考えていましたね。
また、CCBTのプロデューサーから「藤本さんが作ろうとしている作品はパフォーマンスですね」と言われて、たしかにそうだと思ったんです。なので、作品の見せ方も時間を決めて行い、パフォーマンス公演という形を取っています。そのほかに別の展示室では、10周年を迎えた自分たちがこれまで作ってきたプロダクトの展示もしています。
――パフォーマンス公演の方では新作を2つ用意されました。
藤本:今回は会期が2ヶ月もあるので、パフォーマーは配置したくないと思ったんです。そうしてしまうと、体力的な限界で1日4〜5回公演しか実施できなくなってしまいますから。でも、すべてロボットに任せてしまえば、その回数を増やすことができると思い、ロボットだけのパフォーマンスにしようと考えを振り切りました。
ロボットの設計は以前から一緒に取り組んでいただいているマッスル株式会社に頼んだのですが、かなり無茶を言いました。普通、ロボットというものは1度作ったら不具合があって、2〜3回のブラッシュアップを経て本番用ができあがるんですが、今回展示しているものは1号機なんです。以前も一緒に作って事情をわかってくれている会社だからこそ、ギリギリ成り立ちました。いまは少しずつ作り直しているところです。
――展示をおこなう中で直していくということですか?
藤本:そうです。「CCBTは美術館ではない」ということを最初にお聞きしました。あくまでもクリエイションの場なので、それならば滞在制作のようにずっと作ってアップデートしていくという見せ方もありなのではないかと。自分としても、今回の展示は有料で完璧なものを見せるイベントではないし、製品PRのようにSNS映えで集客を狙うというよりは、原理を見せることで“強い体験”を感じてもらう方がいいのではないかと思ったので、変に映えなどは意識しすぎないように考えていました。
――CCBTという場が特殊であるということは、僕も何度か伺って思うところではありました。その中で今回作られた新作2つが『Unknown RhythmsーHumanized Clock』と『Vitality of LightーLight-emitting Existence』です。展示の順番でいくと前者がオープニングのような立ち位置ですが、初見で見るとかなりびっくりするような仕掛けがありました。
藤本:そうですね。正直、最初は全然アイデアが浮かばなくて。全面布ディスプレイでずっとなにかが動いているとか、ドローンを作っていたのでそれを動かそうかとか、「巨人」をメインにしようかとか、いろんな方向性を考えていたんですけど、ちょっと天井が低いなと思って。会場の高さが3mしかないので巨人も作れないし、布ディスプレイだと大きすぎて人が入れなくなってしまう。それからしばらく悩んでいたんですけど、ふと「最近いろんな人が身体拡張という単語を使っているな」と思ったんです。
――そうですね。
藤本:「SusHi Tech Tokyo」でも『わたしのからだは心になる?展』が開催されていましたし、稲見先生も「自在化」「身体拡張」とおっしゃっていますし、Rhizomatiksは「TOKYO NODE」の開館記念企画『Syn : 身体感覚の新たな地平 by Rhizomatiks × ELEVENPLAY』で「身体感覚の新たな地平」と言っていて。みんなが「身体」という言葉を使っていて、それによって「『身体拡張』という言葉のインパクトが薄くなっている」と思ったんです。
【※Syn : 身体感覚の新たな地平 by Rhizomatiks × ELEVENPLAY……真鍋 大度・石橋 素が主宰するクリエイティブチーム「Rhizomatiks」と、MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」による完全新作。観客が会場へ入り込むことで変容していく空間と、目の前に現れる24人のダンサーを通して、AI時代に変化する“人間の感覚”を改めて問い直す、没入型パフォーマンス】
そんなことを考えていたとき、今回流れているケンモチヒデフミさんの楽曲の元となる「Midnight Television」という曲を歩きながら聴いていたんですが、早すぎて動けなかったんです。ケンモチさんの楽曲って、「なんでそんな展開になるんだ」と思って笑っちゃう曲が多いんですけど、動けなくなってしまったり、踊れなくなってしまったのは初めてで。
それはどうしてなんだろうかと、実際に『Logic Pro』で調べみたら、BPM160で94ms(ミリ秒)おきに音が鳴っていると。つまり、一拍の間に4回音が鳴っていて「これはたしかに踊れないな」と思いました。そのときに、5年前に作った『Robotic Choreographer』を思い出したんですよね。あれは「人間より大きくて人間より動きが速いロボット」を作るのがテーマだったんですが、ロボットを使って作品を作るのが初めてだったこともあり、自分的には速くなかったし、やりたい動きができていなかったんです。
ロボットって、長い時間をかけて動くことはできるんですけど、急加速や急停止といった動作には向いていないですよ。なので『Robotic Choreographer』を見た方は、大きいし速いという感想をもってくれたかもしれませんが、94msで動くというのはできなかった。前回「限界に挑戦できなかった」という心残りがあったんです。
であれば、今回はあのときにできなかった「人間を圧倒的に超える速さで動くロボット」を作りたいと思いました。そう考えたときに、ロボットアームを無限に回転させて時計のような表現ができるという気付きがあったので、時計というモチーフを使うことにしたんです。そうしたら、今度は長針と短針を表現したアームが、動かし方によっては足にも手にも羽にもくちばしにも見えるなと思って。
これをオープニングに持ってきたことについては、舞台もライブもそうですがパフォーマンスの世界には「オープニングが命」みたいなところがあると思うんです。つまり、観客をどのようにして世界観に惹き込むかというところが舞台では重視されていると。なので、自分もパフォーマンス公演をするなら、オープニングで驚きを与えて観客を惹き込みたいと思っていました。
ケンモチさんの楽曲を使うことは決まっていたんですが、当初は「Midnight Television」をそのまま使わせてもらおうと思っていたんです。でも、ケンモチさんが「どうせナレーションを流すんだったら、ナレーションもアレンジしますよ」とおっしゃってくださって。もともとは、ナレーションが終わったら急に「Midnight Television」が流れ始めるという想定だったんですが、ケンモチさんのご提案でナレーションの声だけで音楽を作ってもらうことになりました。近づくと危ない作品をいくつも展示しているので、ナレーションの内容もきちんとそれを説明するような、舞台に行ったらたしかにこんなこと言われるな、という内容にしているんです。
自分のイメージとしては、あの場は待合室なんです。なので、椅子も待合室っぽいものにしていて。公共空間には大体時計があるので、時計の下でみんながなにかを待っているというイメージであの空間を作りました。それに、ナレーションから急に始まるとまず驚きを与えられるんじゃないかと思って、舞台のやり方を展示に持ってきたというイメージでしたね。
――ナレーションがカットアップ、チョップされて一気に世界観に惹き込まれたり、最初は時計の範疇だと思っていた動きが見たこともない早さで動いたり、振り付けを踊っているかのように動き始めたりして驚きました。最初のナレーションや、時計が動き始めた段階では藤本さんのこれまでの作品とあまりリンクしなかったのですが、段々リンクしていく瞬間がすごく気持ちよく感じました。
藤本:今回は「原理を見せる」というのがテーマにあって。エンタテインメント作品ってちゃんと起承転結があってどんどん派手になっていったりしますけど、今回はあえてそうしないように意識していました。
あまりコンテンツを作り込んだり装飾しすぎると、「良かったね」という感想で終わってしまうんですよね。あえてシンプルにすることで「これはどうしてなんだろう」とか、「自分だったらこうする」と、観た人が自分なりにいろんな考えを持ってくれると思っているんです。なので1秒を刻むといった時計としての動きや振り子っぽい動き、あとは人間の手や足の動き、口の動き、首の動きなどいろんな動きをオマージュして、人間にはできない動き方を少しずつ入れていく形で、どこかに“引っ掛かり”を感じられるような作り方をしています。
――以前の個展「MOVIN’」で披露された『Humanized Light』はまさにその方向性でしたね。余白が大きな表現だったので、人間に見える人もいれば、オランウータンに見える人もいて「解釈や価値観、年齢によって見えるものがまったく違う」とお話しされていました。
藤本:まさにその展示が自分の考えを変える大きな転機でした。ずっと同じ動きをしているとか、なにかわからないぐらいの方が解釈の余地があるんですよね。
今回の場合、「オタ芸」に見えた人がいたのはびっくりしました。ダンスにおける足の動きで一番早いものが「シカゴフットワーク」(※)というステップなので、それもモチーフとして取り入れているのですが、逆に手の動きで速いものはなんだろうと考えたときに思いついたのが「オタ芸」で。それであの動きを取り入れています。
(※シカゴフットワーク……1分間に160回以上のステップを踏むダンス。アフリカの部族、ブレイクダンス、タップダンスなどが基となっている)