連載:mplusplus・藤本実「光の演出論」(第五回)
極限まで光を減らし、シンプルなロボットの動きで“原理”を見せる 『Embodiment++』で藤本実が向き合った原点
展示を通して掴んだ、たしかな手応え 「LED1粒でも“生”を感じさせる表現ができた」
――3つのパフォーマンスインスタレーションの中で、一番起承転結があるのが『Unknown Rhythms ― Humanized Clock』ですよね。他の2つはどちらかというと、ある動きを一定の時間見てもらうものになっている。
藤本:今回の展示では、人間よりも圧倒的に能力の高いロボットを作り、人間ができないことだけをやったら、それを見た人のなかには「自分もこうやって動けるんじゃないか」「自分ももっと早く動けるんじゃないか」という気付きを得るのではないか、というテーマもあるんです。
そういった気付きをテーマとしたとき、人間を越えた速度は『Unknown RhythmsーHumanized Clock』で表現していて、おそらく人間が模倣できないであろう「94msで動く」ということをやっている。
2つ目の『Morphing Elegance ーRobotic Choreographer』は、作った当時は「人間より大きく、人間より速い」というのがテーマだったんです。けれど、実際にはこんなに大きいのに、なめらかかつ優雅に動けることに気持ち悪さを感じて。なので、この展示のテーマは「人間より大きいのに、人間より優雅になめらかに動く」ことにしようと。それで『Morphing Elegance』という名前になっています。
ダイナミックさと優雅さって相反しそうに思いますが、それが両立しているんですよね。人間って、身体の中心に軸がないとターンができないんですが、あのロボットは謎の軸のまま回り続けることができる。
でも、よく考えたら、人間もくの字の状態で回ることができるかもしれない。フィギュアスケートに近い形ですよね。このロボットは人間とは関節の作りが違うからできているんですが、「意外と人間もまだできるんじゃないか」ということを感じてもらいたかったんです。
――3つの中で唯一、『Robotic Choreographer』は以前に制作された作品ですね。当時にあった光の演出をあえて削ったことによって、ロボット自体の「無骨さとしなやかさ」の対比がより明確になりました。
藤本:ただ光らなくなっただけで、動きを変えているわけではない。自分たちが作ったときと違うテーマで発表しているという感じです。
――そして、3つ目の展示が『Vitality of LightーLight-emitting Existence』です。
藤本:そうですね。一番見てほしい、自信のある作品です。
――これにも驚かされましたし、3回見てもまだ自分の中での謎が解けていないんです。
藤本:あれは本当に“原理”を見せている展示ですね。10年くらい前から、光るドレスの周りに光の粉が舞うみたいな、そんな服を作りたいと考えていて。粒が有機的に舞うものを作りたかったんですよね。
自分は新体操の選手ではありませんが、『America’s Got Talent』にはリボンで出演したので、半年くらいずっとリボンの練習をしていたんです。リボンというものは線が回っているイメージだったんですが、それを一粒だけ光らせることで、有機的に動かすことができるんじゃないかと思って。実際に、黒いオーガンジーにLEDを一粒だけ取り付けて、自分たちのスタジオを真っ暗にして部屋の真ん中でリボンを振ってみたら、それがめちゃくちゃ面白くて。直径8mで物理的にLEDが回っているところなんて見たことないじゃないですか。
――リボンの性質上、風の抵抗も受けたりしますし、動きはより有機的になりますよね。
藤本:ただ、毎日ダンサーの方を呼んでこれをやるのはどうなんだろうと思って、そこでもマッスル株式会社さんに相談しました。本当は『Robotic Choreographer』の先にLEDリボンをつけようとも思ったんですけど、絶対に絡まるなと思ったので、それはやめて。多分普通の発想であれば、ロボットアームの先にLEDを付けて回すと思うんですよ。そうしたらすごく幾何学的な動きになると思うんです。
でも、僕らはリボンがきっかけだったので、オーガンジーにつけることにしたんです。オーガンジーは軽いので、振ると少し遅れてついてくるんですよね。すると動きがなめらかになるし、まるでイワシの大群が泳いでいるときのようにずっと震えながら風の抵抗を受けて回っているので、すごく“生”を感じるんです。もともとデジタルに生を持たせるというテーマで作ってはいましたが、実際に回してみるまでそんな動きをするとは思っていなかったですね。
これまでは「もし身体の色を変えられたら、振り付けも変わるんじゃないか」ということでLEDスーツで身体の色を動的にしたり、布を動的なものにするために布ディスプレイを作ったりと、“静的なものを動的にする”ということに取り組んできました。ですが、今回はリボンという「線」をLEDで「粒」にすることで、初めて“本当に有機的な動き”ができるようになった、1粒でも“生”を感じさせる表現ができたと思っています。
――きっとあれを人間が回していたとしたら有機的すぎたような気がしますし、2軸のロボットアームで回すことによって、無機質な動きの中に有機的なものが混ざっているという「心地いい気持ち悪さ」みたいなものも出てきますよね。
藤本:実はあれLEDが一度も静止していないんですよ。オーガンジーにLEDが20粒ついていて、ずっと移動しているんです。2粒になって往復するとか、何かしらの形でLEDを動かしていて。なので、どの瞬間も等速移動に見えないはずなんです。けれど、いきなり暗転で見せているので、どういう仕組みかはまったくわからないと思います。1粒のLEDが回ってると思ったら、あれがどうして加速してるかが分からなくなってしまう。
――まさに初見でそう感じました。
藤本:もともと、3次元でリボンが動いているところにもう1次元「光の動き」が入ってくるので、4次元みたいになっているんです。あと、外側では円運動しているんですけど、内側では蛇みたいにねじれるスパイラルになっていて。そこを光が動いているので、踊っているように見えるというかよく分からない動きになるんですよね。
――スパイラルしているというのは自分も気づきました。ただ、スパイラルしているんですけど、光は上下している動きを見たときに、理解が追いつかなくて面白かったです。
藤本:あと、最後は光が地面を跳ねるような動きで終わると思うんですけど、気が付きましたか? あれは実験中に色々試していた時に、地面を跳ねる動きに生命を感じたのであえて取り入れたんです。あの1粒でこんなに存在感があるんだったら、こんなにたくさん動かせる箇所のある人間なら、実は全然違う動き方ができるんじゃないかって。なんなら、小指だけでも表現ができるんじゃないかとも思えてくるぐらいです。