連載:mplusplus・藤本実「光の演出論」(第四回)
身体性を持った光が、人間の知覚を変えて“巨人”を生み出すまで
SAMURIZE from EXILE TRIBEの生みの親であり、LEDを使った旗「LED VISION FLAG」や新体操のリボンを光らせた「WAVING・LED RIBBON」の開発、『東京2020 パラリンピック』開会式で光の演出を担当したクリエイティブカンパニー・mplusplus株式会社の代表・藤本実氏による連載「光の演出論」。
今回は昨年末に藤本氏が行った個展『MOVIN’』での新作展示「Humanized Light」をもとに、“身体性を持つ光”について語ってもらった(編集部)
――個展『MOVIN’』では以前の連載でも触れた「Pixel Beings – Bboy –」のほか、新作「Humanized Light」を展示しました。あらためて「Humanized Light」のテーマが決まったきっかけを教えてください。
新作である7メートルの光る巨人「Humanized Light」を含む初個展「MOVIN’」を12/14から19で東京タワー横のスターライズタワーにて開催中です。
身体性を空間に持ち込んだ作品。やっと人が踊らなくても成立する作品ができました。https://t.co/wyDijOz3Pk pic.twitter.com/NI5HzP2lHW— minoru fujimoto (@bboypopeye) December 14, 2021
藤本:これまでずっと、身体表現を拡張するためにいろんなことをやってきました。身体にLEDをつけたり、身体をディスプレイのように映像を出せるようしたり、身体で表現をすることをやり尽くした“限界”のようなものを感じていたところもあって。考えていると、これまで表現してきたものについても「身体表現」と言ってはいるものの、身体が一番優秀なパフォーマーだと思っているからこそ身体でやってるだけであって、パフォーマンスするのは身体でなくてもいいと思ってはいたんです。だから、身体を超えたことをやりたいとはずっと考えていて、過去にも「Robotic Choreographer」という、人間より速く動く3mのロボットを作って人間の動きをプログラミングしてパフォーマンスをさせてみました。人間の身体性を活かしたパフォーマンスを、人間を超えたものでするというのは、自分にとって10年以上続いている課題であり、いつか乗り越えなければいけない壁でもありました。
ーーライブなどの演出に取り掛かっている間も、藤本さんのクリエイター人生における大きなテーマとして常に考え続けてきたことだったんですね。
藤本:試行錯誤していくなかで、照明が動きだしたらより立体的な表現になると思い、照明は舞台に固定されてるものという固定観念を取り払うべく、『MOVINGHEADZ』という作品を作りました。ダンサーが肩にムービングライトを載せてパフォーマンスするというものですが、それが大きなヒントになっています。肩に載せるだけじゃなくて、全部の関節についていたらまた違ったことができるし、関節を曲げた瞬間にムービングライトも違う方向に曲がったりしたら、新しい部位を手に入れたような感覚を味わえるのではないかと考えたんです。そこからは「ムービングライトってどれだけ動けるんだろう」とずっと実験していました。やり続けてみて分かったことなのですが、ムービングライトの動きには結構癖があってあまり思った通りには動かないんです。
光る巨人。3年前は人間と同じ大きさでした。光線4つだけで人間に見えるし、腕が伸びる!と最初のテストで感動しました。 https://t.co/rCWRyFIeQj pic.twitter.com/hcV8gAIhxz
— minoru fujimoto (@bboypopeye) December 17, 2021
ーーそもそも舞台照明として、関節のような動きを想定されていないですもんね。
藤本:ただ、機能的に超ハイスペックなモーターが取り付けられているわけではないですが、制約の中である程度の速度は出せるということがわかりました。とはいっても、ムービングライトって重いんですよ。たとえば、小さく作り直したとしてもやはり重い。100個くらい装着したいと思っているので無理。
でも、ふとしたときに「ムービングライト自体が腕や足になれるんじゃないか」という発想になったんですよ。それを思いついた2日後にすぐ実験をはじめて、プロトタイプが完成した瞬間に「これはいける!『人を超える』ことが叶えられる!」と思いました。はじめてムービングライトを買ってからビームという生命体として四肢みたいな感じでずっと振り付けしていたので、あれに正直『Lighting Choreographer』と名前を付けたらよかったなあと(笑)(注:すでに『Lighting Choreographer』という作品は制作済み)。
ーー発想の転換によって生まれたものだったと。
藤本:そうなんです。そこからしばらくはライブ関連の仕事が忙しくて作品制作がストップしていたのですが、コロナ禍でライブの仕事ができなくなって、自分ができることを改めて考えたときに、ライブがなくなっても美術館は行けるなと。人数制限をしながらではあるものの、一気に人を集めるんじゃなくて、人が流れるような方法であれば表現ができるかもという考えに至ったのも大きかったです。
でも、個展前はあれに意味があるのか、良いか悪いかも判断できていなくて。まあなんとかなるだろうという気持ちではいたのですが、現地に入った瞬間に色んな気づきがありました。一歩一歩踏み込む瞬間にムービングライトを振動させる、歩行に合わせた音の仕掛けなど、できるだけ巨人に感じるための仕掛けは沢山していて、どう理解させるかは考えてはいたんですけど、あの足自体が怖くなるっていうのが想像できなかったんですよ。「LED VISION FLAG」をEXILEさんのライブで披露した時もそうだったんですが、現場で初めて見た瞬間鳥肌が立ったし、想像できないものを作っているんだなと毎回自分が自分に思わされています。
“Humanized Light” Concept Movie
CG Design by @yoshiiketoshiki #リアルサウンドテック連載4回目参考映像 pic.twitter.com/Jp0qwReE5a
— minoru fujimoto (@bboypopeye) March 4, 2022
――私も実際に伺って、4個のライトが動いていく様子を眺めていると、どんどん違うものに見えていって。知覚が変わっていく体験ができたのが、すごく面白かったです。
藤本:自分も1日9時間、それを1週間見ていましたが、まったく飽きなかったんですよね。余分なものを全て削ぎ落して表現したので、人によって“光の巨人”像が違っているのが面白かったです。ロボットに見えた人もいれば、巨人だと感じた人もいて。ただ四肢があるっていうだけなので、なんにでもなれるんです。いま“知覚が変わる”と言いましたが、あれは人間の認知は曖昧であるという「バイオロジカルモーション知覚」を自分なりに解釈して表現したものなので、理想的な反応です。“光の巨人”も、4つのムービングライトで四肢を表しているんですと伝えないと認知のスイッチが入らなくて違うものに見える。自分はSFが好きなんですが、人類が未知の生命体と出会うファーストコンタクト系の作品がよくあって、あの出会う瞬間の表現って絶対に映画より小説のほうが面白いと思っています。
―ー映画だと制作陣が決めた姿形になっていますが、小説だと頭に浮かべる自分なりの“生命体”がそれぞれ違いますもんね。
藤本:そうなんです。できるだけ想像力に任せたいと思ったからこそ限界まで削ぎ落していて、その結果としてああなった、ということです。あと、訪れてくださった皆さんに伝えたのは「人類がはじめて巨人の股をくぐる瞬間です」ということ。これまでも映像を通して『進撃の巨人』や『ガンダム』が歩いてるのを見たことがあるからそんなに変なことだと思わないような気がするのですが、実際に体験するのは“初めて”だからこそ、巨人を踊らせたり変な風に動かさないようにして、遭遇することに重きを置いた、というのもあるので。体験してもらった方々には「腕が4本あるように見えた」という人や「腕を振っているのは分かったけど四肢とまでは思ってなかった」という意見がありました。面白かったのは友人の小学生の子どもが「腕が長いからオランウータンだね」と言っていたことでした。
ーーそれはたしかに面白い!
藤本:「巨人だよ」と言われたら人だと思い込んでしまうけど、その子はそこにあるものをしっかり見て「でも、なんか腕長くない?」という疑問をぶつけてくれて。
――鳥肌が立つくらいすごい感想でした。あと、個展を見て思ったのは、空間や光に身体性を持たせるという表現にブレがないということももちろんなのですが、藤本さんの制作物には”音”が欠かせないということです。
藤本:たしかにそうですね。今回も音ありきですから。ひとつ付け加えるとすると、「Humanized Light」において音で表現したかったのは、音そのものというよりも、音によって生まれる空気の振動なんです。メタバースがあったりオンラインライブになったりVRになったり、リモートワークも進んでいくようになって、みんながどんどん「映像でいいじゃん」となりつつある世の中において、リアルである必要性も探していると思うんです。そのひとつの答えを今回は示すことができたような気がしています。音が空間に跳ね返って生まれる振動と光の動きによって生まれる躍動感や臨場感は、VRやXRでは体験できないものだと確信しましたし、見にきてくれたクリエイターたちも、半数くらいは「悔しい」と言って帰ってくれました。