“手段”を作る設計から感じた、ゲームとアクセシビリティが持つ可能性 PS5・Accessコントローラー先行体験会レポート

2. Access コントローラーの開発背景と、その機能について

「コントローラーそのものがプレイヤーの身体的なニーズに適応するような世界を作るべき」

 今回の先行体験会では、実際にAccess コントローラーの開発に携わったソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)の堀越朝氏(ユーザーインタフェースを担当)と池ノ谷優一郎氏(ハードウェアを担当)が登壇し、その開発背景やコンセプトについて語ってくれた。

 堀越氏は、グローバル全体で目指す信念である「PLAY HAS NO LIMITS.」を起点に、PlayStationにおけるアクセシビリティの取り組みを「ゲームソフト」(豊富なアクセシビリティ機能で知られる『The Last of Us Part II』など)、「システムソフトウェア」(PlayStation 5のメニューにおける音声読み上げ機能など)、「コントローラー」の3つに分類する。そのなかでも、堀越氏はコントローラーという存在について「プレイヤーが、キャラクターやゲーム内カメラの移動、とるべき行動を表現する方法」であり、「ゲーム機におけるアクセシビリティへの挑戦として最も重要なもの」と位置付ける。

 「私たちがアクセシビリティコントローラーの設計を始めたとき、障がいのあるプレイヤーの方々が、ゲームをプレイすることには意欲的である一方で、標準的なコントローラーを身体に無理のある形で操作していることが分かりました。そこで、私たちは『コントローラーがプレイヤーの身体に負担を強いるのではなく、コントローラーそのものがプレイヤーの身体的なニーズに適応するような世界を作るべき』だと考えました」(SIE・堀越氏)

 DualSenseなどの標準的なコントローラーは、「身体を自由に使える」ことを前提に設計されているが、それは必ずしも誰もが不自由なく使えるものであるとは限らない。そこで開発陣は、Access コントローラーの設計に取り掛かった当初、国勢調査や医療データなどを元に「最も一般的な障がいの状態を特定して解決を試みる」という考えの元に進めていたが、やがてそのアプローチは「効果がない」という結論に至ったという。

 「障がいは人それぞれであり、まったく同じ状況のプレイヤーは存在しません。また、障がいは時間とともに良くなったり、悪くなったりするという、動的な要素を含んでいます。そこで、私たちは特定の障がいに焦点を当てるのではなく、プレイヤーが既存のコントローラーで快適にプレイできない課題を解決するためにはどうすればいいのかという点に注目しました」(SIE・堀越氏)

 それは、ひとつの“解法”を提示するのではなく、さまざまな課題と向き合うための“手段”を作るという、障がいそのものと向き合う上での考え方の変化ともいえるかもしれない。Access コントローラーは、アクセシビリティの専門家や、AbleGamersやSpecialEffectといった団体との対話に加え、日本を含む多くのユーザーテストによるフィードバックを経て開発が進められていったという。

Access コントローラーは、どのように「プレイヤーの身体的なニーズに適応する」のか

 そうしたプロセスを経て、プレイヤーが標準的なコントローラーを使用するうえでの主要な課題として抽出されたのが以下の3つである。いずれも「コントローラーがプレイヤーの身体に負担を強いる」原因だ。

① コントローラーを手に持つ必要がある
② ボタンが小さすぎたり、密集しすぎている
③ スティックの高さ、幅、向きが固定されている

 Access コントローラーは、これらの課題に対処するためのコントローラーであると定義することができる。具体的には、以下のようにさまざまなカスタマイズや使用環境を考慮したハードウェアの設計が行われている。

 コントローラーを手に持つ必要がある
→平らな場所に設置できるように設計され、手に持つ必要がない。また、AMPSホールパターン(アクセシビリティ周辺機器などを機器に固定するための取り付けネジの業界規格)や三脚用のネジ穴を搭載し、さまざまなサードパーティ製のマウントや車椅子に取り付けることができる。

ボタンが小さすぎたり、密集しすぎている
→ボタンを一面に配置し、さらに複数の形の交換可能なボタンを用意することで、自分に合ったレイアウトや形状になるよう物理的にカスタマイズできる。

スティックの高さ、幅、向きが固定されている
→スティックの位置の自由度を高め、距離や高さの調整や、他の種類のキャップへの交換を可能にすることで、さまざまな位置や角度、力の入れ具合で操作することができる。

 また、単体だけではなく、複数のコントローラーをペアにして、ひとつの仮想コントローラーを作成することも可能だ。これにより、「メインのコントローラーをDualSenseとしつつ、特定の入力のみAccess コントローラーに割り当てる」、「ふたつのAccess コントローラーを組み合わせる」など、より柔軟な入力を実現できる。

 これらの機能をサポートするのがPlayStation 5のシステムソフトウェアだ。設定画面では、Access コントローラーに搭載された10個のボタンにDualSenseの各機能を割り当てることが可能となっており、複数のボタンに同じ機能を配置することで物理的にボタンの面積を広げたり、一つのボタンに複数の機能を割り当てて入力を簡略化したり、逆に特定の機能を割り当てないことで誤った入力を防ぐことができる。ゲームによっては頻繁に使う長押しについても、ボタンごとに「一度押したら自動的に長押しの状態にする」という設定を選べるようになっており、スティックに関しても感度やデッドゾーンの調整をすることが可能だ。

 これらの設定は「プロファイル」と呼ばれ、最大30個まで保存することができる。また、3つまでであればAccess コントローラーに直接登録し、設定画面を経由せず、コントローラーのボタンから直接切り替えることが可能となっている。また、Access コントローラーには4つの拡張ポート(3.5mm AUX端子)が搭載されており、外部入力装置を導入することによってカスタマイズの幅をさらに広げることができる。

 従来のアクセシビリティコントローラーが、あくまで外部入力装置とゲーム機を繋ぐためのハブとしての機能に特化していたのに対して、Access コントローラーは(ハブとしての機能は持ちつつ)ボタンやスティックの位置や大きさ、あるいは本体自体の配置をプレイヤーに合わせてカスタマイズできるようにすることで、単一のコントローラーとして機能することを目指している。

 「このコントローラーひとつで、みなさんがそれぞれの環境に合わせて使用いただける。買ってすぐに設定して、ゲームをプレイできる。そういった世界を達成したくて、Access コントローラーを設計・開発していたというところがありますね」(SIE・池ノ谷氏)

 もちろん、従来のアクセシビリティコントローラーも重要な役割を果たしてきたわけだが、あくまでハブである以上、それだけではゲームを始めることが難しいという大きな欠点があった。Access コントローラーは、そうした課題にも向き合っており、だからこそ今までにないユニークなプロダクトとなっている。

 「従来のアクセシブルなコントローラーだと、まずは外部入力装置を使い、自分に合った操作方法や位置を決める必要がありました。Access コントローラーには最初からスティックやボタンが付いており、その位置をカスタマイズすることができるため、自分の場合は固定具を使って顎でスティックを操作することができますし、他の人であれば足で操作するといったこともできると思います。そういった意味では、今までアクセシブルなコントローラーを使ってゲームをしたことがないという人にとっても、最初に手に取りやすいものだと感じています」(畠山氏)

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