「番組のサビは『結論』じゃなくて『脱線』」 『奇奇怪怪』TaiTan×玉置周啓が語る“面白くてキモくないコンテンツの作り方”

相手の目を見ながら話していたら、オモロいことなんて言えない

――番組はいつもどういう風に収録しているんですか?

TaiTan:最初はZoomでやってました。無料版の40分制限をひたすら使い回して。それで音源を編集しちゃえばコンテンツが一個完成するわけじゃないですか。なんていうか「自分たちに主権があるんだ」っていうのをすごく実感した記憶があるんですよ。やっぱりコンテンツはテクノロジーに紐付くというか。さっきなんでポッドキャストかって話をしましたが、それこそZoomみたいな技術がなかったらポッドキャストをやろうなんて思わなかっただろうし。

――Zoomでのやりとりに違和感はありませんでしたか?

玉置:多少のタイムラグとかはあったけれども、そこまで問題じゃなかったですね。それよりも当初はお互いのことをほとんど知らなかったので、「この人どういう人なんだ?」っていう確認のラグの方が大きいというか。

TaiTan:回線のラグじゃなくてね。

玉置:なんか思考の、脳の回線のラグがあったぐらいで。それが15回目くらいから段々とノリがわかってきて、そこからどんどん面白くなっていった感覚があります。

TaiTan:そうそう。でもノリが合ってくると、今度はZoomだと物足りなくなってくるんですよ。それでウチに周啓くんを呼んで、SHUREのマイクを立てて話すようになって。そこから番組がドライブしはじめた気がします。リモートで収録してたころは、どっちかっていうと情報交換してただけというか。Zoom会議とかもアジェンダを消化するだけって感じになりがちじゃないですか。

玉置:Zoomじゃ脱線できないもんね。

TaiTan:やっぱりね、ちょっとしたラグとか、言葉の重なりとかでテンションが下がるんですよ。だから基本的に必要なこと以外は喋れなくなる感じがある。

――いまはマイクを挟んで対面で収録しているんですか?

TaiTan:僕らはいつも並行で喋っていて。お互いの目を見てはいけないっていう。

玉置:向き合って話すと、会話が石みたいになっちゃうんですよ。

TaiTan:そもそも人って、会話で目を合わせない方がいいんですよ、絶対。仲良くなりたいんだったら。それが俺の持論です。

玉置:目を合わすとね、どんどん真面目な話になって、相手と真摯に向き合ってるようなモードに身体が入ってく感じがして。だから脱線しようがないんですよね。でも目を合わせないで話していると、聞いてんだか聞いてないのかわかんない状態になるでしょ。そうすると自分の興味ある単語だけに反応して拾って返したりできる。そういうのが心地いいんですよ。

TaiTan:オモロい会話って必ず並行なんですよ。それは漫才もそうだし、川原で立ちションとかしてるときの会話って、なんか覚えてるじゃないですか。

玉置:川原で立ちションするやつあんまりいないけどね。鴨川のカップルとかならわかるけど。二人で並んでションベンしながら喋ってるやつなんかいないだろ。

TaiTan:でもやっぱり俺は覚えてるわけ。終電逃したあとの夜道を何となく歩いてるときの会話とかさ。並行で人が喋ってるときってね、すごく仲良くなるんですよ。で、その感じって音声コンテンツと相性がいいと思っていて。だからTBSラジオではじまった『脳盗』を収録するときも、僕らのブースだけ対面じゃなくて並行で話せるようにセッティングしてもらってます。

共感でつながるとキモくなる。生理的で音楽的なノリを共有したい

――番組を聴いていると、ある種の「キモさ」への警戒心みたいなものがお二人のなかにあるのかなと思うことがあって。玉置さんもよく「きめぇな」っていうツッコミをしている印象があるんですが。

玉置:それは僕の語彙の問題というか、日本の言語レベルを引き下げてますね。色んなバリエーションで「きめぇ」が言えるのがツッコミの上手い人だと思うんですけど、僕は思考停止してるんで「きめぇな」一択なんです。もちろん大体は冗談なんですけど、たまに「いやいや、それはなしっしょ」みたいに言わなきゃいけないと感じることがあって。なんなんですかね。

TaiTan:難しいよね。キモいを分解していくと、なんなんだろうね。でもなんか、俺は一言で言うと“あまやげな空間”がめっちゃ嫌いなんだと思う。

――あまやげ……?

玉置:何語なんだよ。きめぇ言葉使うな!

TaiTan:お互いの恥部を舐め合ってるような空間がめっちゃ嫌いみたいな。安易な共感性の問題なのかな。もっと具体的に言えば、人生相談みたいなもので繋がっていかないということだと思うんですけど。

――共感で繋がると、キモくなってしまう?

Taitan:そうそう。「シンパシーよりワンダー」っていう、これは穂村弘がよく言ってることなんですけど。Discord(『奇奇怪怪』の公式Discord「豆誌(まめまぐ)」)をやっているのも、俺がビビりたいんですよ。俺はリスナーにビビらせてもらいたいし、代わりに俺は俺が思っている面白いものをリスナーに提供したいっていう。リスナーとはそういう関係性でありたいんです。

玉置:「友達とは何か?」っていう回でもそんな話になったんですけど、趣味とか関心のある社会問題とか、そういうところで繋がるんじゃなくて、何かもっとノリみたいなものを共有できることが大事というか。言語運用のタイミングっていうんですかね。それをミスって会話に余計なキャプションをつけちゃったり、思ってもいないことを言うようになっちゃうと、どんどんキモくなっちゃうと思うんですよね。「お前って、本当はめっちゃ優しいやつだもんね!」とか、そういうことを僕らが言い出したら終わりじゃないですか。だから甘んじてね、俺は毎週のように死ねって言われてるけど受け入れてるんです。

Taitan:言ってないよ。お前だよそれは。

――お二人のそういうノリ、言語運用の仕方が噛み合っていることが、まずは大事なんですかね。

Taitan:そうだと思います。基本的には僕と周啓くんが喋っていることで、なんかいろんな物事が動き出していくっていう、その原初的な楽しさに勝るものはないと思うんで。

玉置:本当にノリだよね。よく思うんですけど、こいつ意外と喋ってて上手くいくことってあんまりないんですよ。元々そういう言葉でのコミュニケーションが苦手で音楽をはじめたみたいなところもあるんで。だから今の状態はわりと奇跡的というか、3年間練習をしてやっとこのノリが掴めたというか。こいつはこういうタイミングでこういうことを言うとテンションが上がるんだな、というのがわかってきた。

Taitan:僕らが目指してるのって、要するに音楽的な楽しさなんですよ。僕たちが丁々発止で喋っている、その音の鳴りが大事なわけで。このベースにこのギターが乗っかってきて、みたいな気持ちよさに人は踊ってしまうわけだから。そういう生理的な喋りの気持ちよさがまずは大事。でも僕らは芸人じゃないから、いくらかは会話に意味も必要で。それがトークテーマ的な部分なんですけど。でもやっぱり7:3くらいの比重で、生理的な気持ちよさ、人間と人間が喋っていることそのものの気持ちよさっていうところをまず伝えたい。メロディーに歌詞が乗るように、そこに何らかの意味も被さってきて「うわー、これめっちゃ気持ちいい」みたいな状態をつくりだせたら理想的ですね。そのためには、やっぱり共感のための共感っていうのはちょっと邪魔だと思う。

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