「占い」を主軸にした対話型ADV 選択が運命を動かす『The Cosmic Wheel Sisterhood』の画期性に迫る
後半の大きな変化
本作は世界観・物語もじつによく練られている。幻想的、時空を超越した物語に挟まるように、主人公が人間だったころのエピソードがたびたび入ってくるのだが、これもゲームに爽やかな風のように心地よいテンションと吸引力、考察への誘惑を呼びこんでいる。
ところが、である。終盤に入ると、世界に「コミュニティと政治」を色濃くした変節が訪れ、それまでは(現世から逸脱しているかのように)ゆったりしていた通奏低音に変化が生じる。ネタバレを避けるため具体的な言及は避けるが、「選択肢をプレイヤーが作り出す対話型ADV」という要素はそのまま生かしながらも、自身の態度を公言し、政治的戦略を練る、ある種のポリティカル・シミュレーションゲーム的な様相を帯び始めるのだ。
この変化にはいささか驚かされたが、本作のストーリーとテーマにおいて、こうした展開が必然的なものでもあることが理解できるうえ、タイムリミットを意識することで、ひとつひとつの行動がさらなるスリリングな重みを持ち始める。この世ならざる世界を舞台とした、しかしリアルな「コミュニティと政治」に——それもいち傍観者ではなく当事者として——リアルに参与できることは本作の物語に見事なアクセントと新鮮味を与えている。
そうして迎えたラストの展開、大団円はきわめてドラマティックであり、それまでの選択の必然的な結果としてプレイヤーの前に開示される。その時、無限と有限について、生と死について、政治について、それぞれの物語を振り返りながら思いを馳せることになるだろう。私はクリア後、本作をプレイした1人ひとりと無性に語り合いたくなった。本作に、人間と人生に対する深い愛と、存在への賛美が深い場所でひしひしと息づいているように感じられたからだった。
最後に翻訳品質についても触れておこう。同開発チームによる『The Red Strings Club』も翻訳している伊東龍氏の、ニュートラルで世界観を損なうことのない丁寧で的確なローカライズは、本作の宇宙的な世界観を自然な日本語に移し替えることに見事に成功している。
また、『The Red Strings Club』でも楽曲制作を担当したfingerspit氏による美しく妖艶な楽曲も、本作の呪術的だが同時に人の暖かみも有するようなアトモスフィアを最大限に高めている(Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスで全曲視聴可)。エンディングまでは(カード作成時間によっても前後するだろうが)9〜10時間前後。急ぐことなく、お気に入りのお茶やお酒を味わうようにゆっくりプレイしていただきたい。
『VA11 Hall-A』を嚆矢とした対話型ADVは『コーヒートーク』『The Red Strings Club』『コーヒートーク エピソード2』と綿々と続いているが、ここに来て「対話型ADV」というジャンルを刷新するような画期的な作品が登場したことを慶賀したい。ノベルゲーム・コマンド対話メインのADVを愛するプレイヤーであるほど本作の凄さが感じられるだろうし、普段それほどゲームをプレイしない人でも、「宇宙」「魔女」「占い」「タロット」といった言葉に魅力を感じるなら、きっと大きな喜びを見出せることだろう。
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