tofubeats × HOEDOWN馬場氏 × stu Murasaqi氏 × 松竹 賜氏が語り合う”バーチャルプロダクションの可能性” 「自由」MV撮影の舞台裏に迫る

「ミュージックビデオ」という企画に決定した経緯を振り返る

松竹・賜 正隆氏

ーー「高品質な映像を作り上げる」というところから、実際に「ミュージックビデオ」という具体的な企画になるまでの経緯を教えてください。

賜:代官山メタバーススタジオとしては、元々実写ドラマなどを撮影したい意向がありましたが、ディスカッションの中でストーリー性を保ちつつ、実証実験として多様なカットにチャレンジできるミュージックビデオを制作することになりました。

Murasaqi:最初はお芝居を撮るということでお声がけいただいたんです。ですが、スタジオの機能を最大限に活用し、多くのアウトプットを生み出す、あるいは映画や伝統芸能に活かすという取り組みに対して、まずはスタジオのスペックを理解した上で、チームビルディングを行う必要性も感じました。

 ただ、芝居の制作にはプロット作成や映像の尺感の理解、俳優の調整など数多くのハードルが存在します。まずは愚直に試行錯誤しながら勘所を掴みたいと考えていたところ、ミュージックビデオが頭に浮かびました。ドラマや映画と違い、ミュージックビデオは、ワンカットごとの連続性がなくても実験がしやすく、(予想がハズレた場合でも)カット単位で修正がしやすいです。また、ストーリー性が感じられるものも多くあり、ショートムービー作品に仕上げることができます。そういったミュージックビデオの性質を考慮しつつ、この「バーチャルプロダクション」という表現フォーマットでのミュージックビデオ制作に適した監督や楽曲をstuが選定し、アイデアの提案を行いました。

賜:ちょうどこの頃、先行しているバーチャルプロダクションの事例が日本でも増えてきており、各社さんとディスカッションを重ねていました。

 その中で、映像の企画にかけられる時間が圧倒的に足りないという話をしていたため、今回の取り組みでは、クリエイターがバーチャルプロダクション技術に触れ、自由にトライできる機会を提供したいと考えていました。そのため、クリエイターに技術自体を楽しんでもらいながら、様々なショットをテストすることに重点を置いて進めていきました。

ーーtofubeatsさんにとっては初めてとなるバーチャルプロダクションでのミュージックビデオ撮影となりますが、監督としては、今回の制作オファーを受けて、どのようなことを最初に考えましたか?

馬場:実はバーチャルプロダクションでの映像制作は今回が2回目なんです。ただ、ミュージックビデオ形式で複数のカット割りとポストプロダクションを含むものは今回が初めてでしたので、この撮影はとても楽しみにしていました。まずは代官山のメタバーススタジオを見学して、スタジオの規模をふまえてどんなことが可能かを考えるところからスタートしました。

ーーバーチャルプロダクションという表現フォーマットを選ぶ利点について教えてください。

Murasaqi:従来のグリーンバックを使用したミュージックビデオ撮影では、撮影前に詳細なプランニングが必要でした。絵コンテの作成、シーンのポーズやテンポの設定、演者のスケジュールなど、調整することがたくさんあったんです。時間が限られており、撮り直しは難しいため、監督は具体的な映像イメージを固めて、それを演者に明確に伝える必要があります。しかしこの方法であれば、撮影時に合成後のイメージをカメラワークを変えながら見ることができます。演者はその場で映像を確認してもらい、意見があればすぐに反映させることができるんです。

 今回はtofubeatsさんと一緒にテストショットを行い、その時点で倉庫のディティールなど、映像の要素にになる部分を事前に確認できました。これにより、撮影のプロセスがグリーンバックよりも明確になりますし、撮影チーム全員が完成イメージを共有しやすくなるため、映像に出てくる具体的な要素についても効率的に話し合いながら決定することができます。従来の撮影手法のように(または、一般的なグリーンバック撮影のように)完成イメージがCGの知見を持つ人の頭の中にしか存在せず、CG合成の担当者であっても単に指示に従って作業を進めるのが一般的なグリーンバック撮影とは、大きく異なる部分です。

ーー演者を含め、撮影チームにとって、バーチャルプロダクションはグリーンバックよりも理想的な撮影方法と言えるでしょうか?

Murasaqi:バーチャルプロダクションは、参加者全員が事前にその仕組みを理解している場合、アウトプットの精度が非常に高くなるため、理想的と言えます。しかし、これは参加者の練度に大きく依存するため、必ずしも当てはまるわけではないと自分は考えています。その意味で今回は、参加者のスキルを向上させ、バーチャルプロダクションの本質を活かすための実験的な側面がありました。

馬場:グリーンバックの場合、チーム内で完成イメージに多少のバラつきがでてしまうことを考えると、先ほどMurasaqiさんがおっしゃった通り、撮影に関わる全員がその場でイメージしやすいという利点があります。グリーンバックでは、完成して初めて「ああ、こんなCGだったのか」と気づく人もいるかもしれませんが、バーチャルプロダクションでは、撮影中にスタッフ全員がスクリーンに表示される映像を見ながら、例えば「この空間で、ここから光が入ってくる」といった具体的な情報を共有して進められるので、イメージの食い違いがなくなります。

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