流行から約5年、いかにして「VTuber」は市民権を得たのか 5つのポイントで振り返る概略VTuber史
新型コロナウイルス感染症の影響の“影と光”
ホロライブが2019年下旬から2020年にかけて急激に人気を集める中、2020年に入ってからはVTuberシーンにとって“影と光”とも言える新型コロナウイルス感染症の存在があった。
新型コロナウイルスが日本で急激に話題になり始めたのは、2020年2月初旬。日本国内においても感染者数が増え始めると、緊急事態宣言の発令、リモートワークの推奨など、不要不急の外出を避けることが推奨されるようになる。これにより、飲食店を始めさまざまな産業が停滞することとなる。ライブハウスや映画館など、エンタメ業界も公演の中止や休館に追い込まれることとなり、大打撃を受けた。
こうした影響は、VTuberの業界にも“影”を落とすこととなる。収録スタジオ使用が難しくなったことで、動画の撮影や3D技術を用いた配信ができなくなり、音楽業界の例に漏れずイベントの開催を断念することが増え、主役たるVTuber自身が新型コロナウイルスに感染することも少なくなかった。
この事態に、各VTuberや運営を担うスタッフは創意工夫によって難局を乗り越える方策を考え、対応してきた。
まずイベント分野では、「ネットおしゃべりフェス」などZoomを取り入れたファン交流リモートイベント、「SPWN」や「Z-aN」をはじめとした有料ライブのチケット制配信を中心にしたプラットフォームを活用し、現地に赴かなくともオンラインでイベントやライブを楽しめるようになった。
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また一方で、外出を控える人々の巣ごもり需要による、YouTube視聴者数の爆発的な増加がシーンにスポットを当てる“光”となった側面もある。前述したホロライブの大幅な躍進はこの新型コロナウイルスが流行を始めて以降の時期ともかぶっており、それだけでなくVTuberシーン全体の認知拡大、視聴数やチャンネル登録者数の増加にあたっては、この影響も大きいだろう。
〈参考:「進化を続ける「VTuber」ビジネス、今どうなってるか知ってる?」〉
VTuberの現在地
さて、最後に少しだけVTuberの現在について触れていこうと思う。
個人VTuberのピーナッツくんと、にじさんじ所属・剣持刀也が2018年から継続しておこなっている生配信企画「刀ピークリスマス」。この企画のなかで、ピーナッツくんが剣持刀也へ捧げる曲として公開した「刀ピークリスマス2022」はTikTokを中心に流行したことで10〜20代に知れ渡り、他方ではホロライブ所属・星街すいせいが VTuberとしてはじめて「THE FIRST TAKE」に出演。2022年5月にデビューしたにじさんじ所属・壱百満天原サロメが登場から短い期間でYouTubeのチャンネル登録者100万人を記録するなど、爆発的な“バズ”を記録すると、その後ヤクルトのヨーグルトCMに起用。さまざまなVTuberがシーンの内外において活躍の場を広げており、その存在が一般層に知られる機会を増やしつつある。
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また、新型コロナウイルス感染症の感染者数は記事公開現在で下降傾向にある。そのため、日本ではアフターコロナに向けたさまざまな動きが進行し始めている。
たとえば、1月28日開催された星街すいせいの2ndワンマンライブ『Shout in Crisis』を皮切りに、VTuberライブの一部で現地での声だしが解禁。『hololive 4th fes. Our Bright Parade』や、MonsterZ MATE『大騒動』では初めてライブでのコール&レスポンスに向けて、ファン向けに練習動画が投稿されていた。
現地でのイベントを開催しやすい環境を取り戻しつつあり、新型コロナウイルス感染症によって約3年もの間防がれてきたさまざまなことが、ようやく完全再開へ向かい始めている。
にじさんじを運営するANYCOLOR社、ホロライブプロダクションを運営するカバー社、この大手2社の上場や各企業の体制強化も盛んだ。タレント側にしても、業界の習慣的にこれまで見られなかった大手VTuber事務所間での移籍など、業界そのものの体質変化も始まっており、今後はいちエンターテインメント産業として、さらにビジネス的な側面が強くなる可能性があるだろう。
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ここまでは、VTuberシーンの歴史において重要なターニングポイントを5つに絞って解説してきた。文字数の都合上、内容をかなり省いており、前後する箇所もあったが、その点についてはご了承願いたい。VTuberコミュニティや業界は時に暗い話題によって、その先行きを不安視されることもあった。しかし、そうした出来事は業界に変革をもたらすきっかけにもなってきた。この記事を通して、少しでも過去のVTuberシーンが流行した背景に興味をもっていただければ幸いだ。