「音楽そのものが空間であってほしい」 キヌとmemexが語りあう“VRにおける音楽と空間表現”の醍醐味

キヌ × memex対談

 音楽とバーチャル表現で人々がつながるイベント『SANRIO Virtual Festival 2023』。多くのミュージシャン・VSingerが参加する中、とりわけ注目度が高かったのは、会場も観客も全てをひとつの舞台に変えてしまう大胆なVR演出だ。

 視界をジャックされたり、無数のアイテムが降ったり、足元が消えたりと、強烈なVR体験をした人が多く、その高い評判からどのパフォーマンスの回もフルインスタンス(満室)が続出。有料ライブ同様の注目を浴び、Twitterでも絶賛の言葉とスクリーンショットが飛び交った。

 今回はその中から、2019年ごろからVR空間での音楽活動で多くの人の度肝を抜き続けてきたキヌと、楽曲と独自のVRライブパフォーマンスなどでファンが多いmemexのアラン、ぴぼの対談を企画。VR空間における「音楽と空間表現」が及ぼすものについて語り合ってもらった。

〈プロフィール〉

キヌ

キヌ

バーチャルYouTuber。音と言葉が大好きな野生のカイコ。 ポエトリーリーディングを中心に、楽曲/VR空間/VRライブパフォーマンスを制作する。
リアル/バーチャルをまたいで多様なライブに出演する中でSANRIO Virtual Fes in Sanrio Purolandに出演した。以降も、ぽんぽこ24 vol.6出演、Nakayoku Connectバーチャルショー監督など活躍の場を広げている。

Vo.アラン(左)、Gt.ぴぼ(右)

memex

2019年1月1日活動開始。未来を実装するバンド。Vo. アラン、Gt. ぴぼ。
VRChatでの全世界同時ライブ「#解釈不一致」がTwitterトレンド入りするなど、メタバースで行うライブを中心に次世代の音楽活動を自ら切り拓いている。CHUNITHM、SOUND VOLTEXを始めとした数々の音楽ゲームに楽曲提供を行っている。

「VR空間に自分は存在できる」と気づいた2018年

ーーmemexさんとキヌさんは「音楽」と「VR表現」の両軸で活動しているアーティストですが、このスタイルを始めたきっかけを教えてください。

memex - Cloud Identifier MV
【VR Live】kinu 3rd live "コネクト" - Audio Edit -

ぴぼ:memexは2019年1月1日に活動をスタートしました。僕は音楽をまず最初にやっていて、その後VRの研究を大学でしていたのですが、VRChatでも音楽活動できるということを知って、アランに声をかけました。最初は八月二雪さんのライブを一緒に観たりしましたね。

アラン:声をかけてもらったのをきっかけに、2018年の夏に初めてVRChatに入りましたね。

(※八月二雪:2018年2月からVR世界で活動を開始した、ボーカルQキキと作詞作曲john=hiveの二人組音楽ユニット。VRChat内で音楽ライブを行うための仕組みを模索した第一人者。ポップなメロディとダウナーな歌詞が特徴的)

【バチャフェス】電脳ライブ in Virtual Festival 2018【八月二雪】

キヌ:わたしは2018年の夏に活動を開始して、VR空間で色々やるのは2019年からですね。ねこますさんやミライアカリちゃんたちの活動からVRChatを知って「VR空間に自分は存在できるんだ」と感じて、そこで音楽活動をやりたいと思っていました。最初は曲と動画から活動を始めたんですが、八月二雪さんのようにVR内でライブをやってる人がいるのを知ったり、ぴぼさんがアバターでギターを弾いていたり、当時はよくわかっていなかったけれど「GHOSTCLUB」というところの音楽イベントが盛り上がっているらしいと見かけたりして、やるぞという気持ちがどんどん高まって。一番大きいきっかけは、『第3回VRアートイベント』でらくとあいすさんがライブをやっていて、ものすごく衝撃を受けたからです。

(※GHOSTCLUB:VRChatで2018年1月からスタートしているクラブイベント。独特のワールドの雰囲気の中に若いトップDJたちが集っており、人気のため即フルインスタンスになってしまうことが多い。サンリオバーチャルフェスの「ALT3」は「GHOSTCLUB」の主宰である0b4k3がディレクションしている)

DJ RIOと0b4k3が語り合う、メタバースにおける“場所とコミュニティ”のつくり方

毎回「メタバース×〇〇」をテーマに、様々なエンタメ・カルチャーに造詣の深い相手を招きながら、多面的な視点でメタバースに関する理解…

ーーらくとあいすさんは普段どのようなパフォーマンスをやっている方なんですか?

キヌ:ピアニストの方なんですけど、VR楽器を作ってVR空間で演奏するのが特徴で。演出や動きなど見た目まで含めて、楽器演奏パフォーマンスをVR空間上で成立させているのがとてもかっこいい方なんですよ。

Live#71【VR体感アート】"ありがとう"のバーチャルリアリティ
Canon for cubes【VRChat World】

ーーキヌさんとmemexさんは過去に何度か共演もされていましたが、パフォーマンスを観たときの印象はどうでしたか?

キヌ:対バン形式で出たイベント『memeと森と蚕』 で、生演奏ライブに合わせたパーティクル演出をすごく短い期間でかっこよく実装していたのが、やっぱりすごいなと思って観ていました。

(※一般的にはシステム上、パーティクル演出は音とあわせて事前にアバターやワールドに仕込んでおく事が多い。しかしmemexはこのときリハーサル後にパーティクル演出を追加し、生演奏にあわせて披露するという特殊なパフォーマンスを行った)

【VR LIVE】memeと森と蚕 in VRChat 隣町本舗 × memex × キヌ #memeと森と蚕

ぴぼ:あれはリハでキヌさんのパフォーマンスを観て「あ、ヤバい」と思ったからです(笑)。本当に付け焼き刃だったし、YouTubeの映像には乗らなかったんですけど、過去にmemexの視覚演出で制作して頂いたアセットなどを用いながら演出を足させてもらいました。パーティクル演出をmemexの内製で最初にやったのはその時だった気がしますね。それまではMikipom(https://twitter.com/cakemas0227)さんをはじめとした外部のクリエイターの方に視覚演出を作ってもらっていたので。

ーー2019年はVR空間での表現者は結構いたんでしょうか?

キヌ:いまと比べたら多くはなかったと思います。

ぴぼ:そうですね。母数は多くなかったかもしれません。ただ、すごいものを作ってる人たちがその時点で本当にたくさんいたので「いま自分はすごい新しいことをしてるぞ」みたいな感覚はそんなになかったですね。

キヌ:めっちゃわかります。尖った人たちがすごいことをやっていて、その中でも音楽系のパフォーマンスはちらほら見かけて、盛り上がっている雰囲気があった気がします。

アラン:2019年1月にあった『アルテマ音楽祭』がmemexの初ライブだったんですが、そのとき既に出演者さんの密度がとても高かったなと思います。お一人お一人のカラーが濃いというか、「この人はこういうことをやっている人」と強く記憶に残るパフォーマンスが多くて、新しいものをその日たくさん観たという感覚です。

Live#97【アルテマ音楽祭】ここに生まれる音のカタチ

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