「音楽そのものが空間であってほしい」 キヌとmemexが語りあう“VRにおける音楽と空間表現”の醍醐味

キヌ × memex対談

「#解釈不一致」の衝撃

ーーVR空間演出を積極的にやっておられるお三方が、特にここに力を入れてきたという部分があったらお聞きしたいです。

ぴぼ:明確に課題意識を持って、それを解決していく、というのが芯にあります。その上で、内製している視覚演出についてはなるべく多くの人に届くように味付けをする、という感覚でいることが多いかもしれないです。視覚表現の演出をしよう、と考えて何かを作り始めることはあまりないです。『#解釈不一致』というライブをやった時は、音に反応する「オーディオリアクティブ」な空間での生演奏を、1インスタンスの人数制限のない状態でやりたい、という課題感がまずありました。それを解決するギミックを作って、そのあとにそれが一番活きるようにライブのコンセプトを設定した記憶がありますね。

(※オーディオリアクティブ:音に合わせて映像が変わる演出のこと。VR空間では空間に干渉できるほど自由度が高く、クラブシーンで積極的に技術が開拓されている)

ーー「#解釈不一致」はどういう技法を使っていたのですか?

ぴぼ:ワールドデータの中にmemexのアバターや演出のデータが入っていて、「肩はここにあるよ」「顔はここを向いているよ」みたいな情報を当時のVRChatでインスタンス外の情報を取得する方法であったライブ配信視聴機能を経由して配って、各インスタンスで再生してもらうという仕組みですね。

〈ぴぼ氏による詳細解説:存在・音声・演出を同時に配信可能なVRライブシステム「Omnipresence Live」を開発しました。

キヌ:そうやったらそうなる、というのは分かるんですが「本当にやるのか!」と思って観ていました(笑)。本来プラットホームがやるべきことを全部自前で作って持ち込む、なんてすごい力技ですから。ライブもめちゃくちゃかっこよくて、取り組みがしっかりと音や視覚といった体験の形に落とし込まれているというのがmemexのすごいところだと思うんです。なにも考えなくても「かっこいい!」とはしゃいでいられるのが良かったですね。『#解釈不一致』のときはいっぱいインスタンスが立っていたので、それを渡り歩きながら観られたのもすごく面白かったです。

(※インスタンス:VRChatにおいて、ユーザーが実際に集まる空間のこと。ワールド:インスタンスの設計図のようなデータのこと。VRChatの場合同じワールドのインスタンスをいくつでも並行して開くことができる)

ーーどこにいってもmemexだけど全部別もの。VRならではの遊び方ですね。

キヌ:最近だと『Virtual Reality Music Festival 2022』もたくさんのインスタンスで見られる方式でやってましたね。当時のVRChatではあまりない体験だったので、こういう楽しみ方があるのかと思って遊んでました。

アラン:会場にある私たちの姿やオブジェクトは、来場者の皆さんが持ち上げたり移動させたりすることが出来るようにしていたので、同じライブを観ていてもインスタンスによって楽しみ方や景色が変わるんです。その人だけの見え方や聴こえ方があるので『#解釈不一致』というタイトルで開催しました。ただ、リアルタイムに私たちを会場へストリーミングする形式だったので、こちらからは会場の様子が見えない環境だったんですよね。お客さんの姿が見えないライブは初めてで、正直かなり不安でした。「予定通りサーバー機能してるかな」とかそういうのも含めて...

ぴぼ:こっちからは本当に動いてるかもわかんないですから(笑)。やりきれたのは奇跡ですね。

アラン:ハッシュタグが付いたツイートはリアルタイムで確認していたので、それはMCで触れたりしていたのですが、ライブが終わったあと皆さんが投稿してくれている現地映像の切り抜きを見て、やっと「ライブをしてたんだな」と思えた節があります。曲に合わせて踊ってくれたり、そばに来て一緒に楽器演奏する動きをしてくれたり、一人で静かに観ていてくれたりと。それぞれの『#解釈不一致』があったことを、そこで初めて実感しました。

ーーその後、memexさんたちは『cluster』での活動を始めていますね。

アラン:参加者数をなるべく増やしたいという要素がありました。

(※VRChatは「#解釈不一致」で用いたような仕組みを使わない限り同時接続数の上限は80人までとなっている。clusterは表示されない人数(ゴースト)も含めると500人まで入る)

ぴぼ:そうだね。あと、デバイスがスマートフォンとか色々アクセスしやすいというのもありますね。

アラン:「もっと気軽にVRライブを楽しむ人や演者が増えてほしい」という目的意識から、clusterを使ってみるという判断をしましたね。

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