LGBTQの認知を広めるYouTubeクリエイター・かなたいむ。の奏太が挑戦を語る 「自分の動画が誰かのなにかのきっかけにつながればいい」

 昨今は、メディアなどを通じてLGBTQの情報に触れる機会が増え、ジェンダーやセクシュアリティに関する情報に対しての認知度が上がっているが、一昔前は「LGBTQ」という単語自体を知らない人も多かっただろう。

 そんな時代からLGBTQ当事者として実体験に基づいた動画を投稿しているのが、YouTubeクリエイターのかなたいむ。だ。自分自身がジェンダーアイデンティティで悩んでいた過去を持つ彼に、LGBTQに関する情報発信を含めたこれまでのYouTube活動について話を聞いた。

LGBTQの当事者を身近に感じるためにYouTubeは最適なプラットフォーム

――個人での動画投稿をはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?

かなたいむ。:元々は映像を制作する側を志していて、大阪芸術大学の映像学科に通っていました。自分自身が性別に関して悩んでいたときに、映画などを通して別の世界に行ったような気持ちになれて救われた経験をしてきたので、そういう作品を作りたいと思っていました。

 そこから大学を卒業し、戸籍上での性別変更をした後、映像を使って世の中に当事者としての想いや、LGBTQに関することを知ってもらえたらなと。自分が映像作品に救われたように、映像を通して誰かのなにかのきっかけになりたいと思いました。

――裏方志望から演者になることへの抵抗はなかったのでしょうか?

かなたいむ。:抵抗はありましたね。ただ、LGBTQ当事者に関する情報を知ってもらうためにはまず入口として自分が出ることも必要だと思ったんです。みなさんと同じように生活していて、身近にいるんだよということを伝えられればいいなと思い、演者として動画に出ることを決めました。

――そういった身近な情報を発信するにあたっては、視聴者との距離が近いYouTubeはベストなプラットフォームですよね。

かなたいむ。:自分が伝えたいことをありのままで伝えられる媒体なので、YouTubeは自分に合っていると思います。

動画での認知度の向上のために生まれた「元女子」というワード

――個人でYouTubeを始めてから、周囲の反応や変化などはどんなものがありましたか?

かなたいむ。:動画投稿を始めた5年前に比べると、LGBTQという言葉の認知度はかなり上がったと思います。一昔前はトランスジェンダーについて伝えても「トランスジェンダーってなに?」と聞かれました……。いまはコメント欄の反応を見る限り、認知の向上だけでなく、当事者の子たちが「勇気を出してカミングアウトできるようになりました」というきっかけにつながってもらえているように感じます。もちろんカミングアウトはしなければならないものではありませんが、「したい」と思っている当事者の方々へのきっかけの1つになることは嬉しく思います。

――近年、LGBTQの話題も目にする機会が増えています。そういったことを発信する際に気を付けているポイントや意識しているところはありますか?

かなたいむ。:昔はいまよりもLGBTQ当事者のロールモデルが少ない上に、当事者が声を発しにくかった世の中だったからこそ、「LGBTQ」という単語だけで発信しても、多くの人に届かない状況だったんです。そこでまずは「元女子」というみなさんに分かりやすい言葉を作って発信し始めました。でも、僕自身たくさん学んでいったり、世の中の理解が進むにつれて「元女子」という単語に対して違和感を覚えてくるようになったりして。「それって間違った認識につながるのではないか?」っていう意見もたくさんいただいたんです。

ーーたしかに、LGBTQに関する情報が多く発信されるようになった昨今では、違和感を感じるかもしれませんね。

かなたいむ。:僕は割り当てられた性別が「女性」だっただけで、そもそものアイデンティティは「男性」です。しかし「元女子」という言葉を使うことによって、もともと割り当てられた性も体も心の性別も「女性」だった人が、ある時期から「男性」になったという認識になりやすいと気づかされました。

 だから実際、「男性の気持ちも女性の気持ちも分かるんでしょ」っていう意見をいただくことが多く、「元女子」という表現だとミスリードに繋がってしまうなと感じていました。いまは時代の流れに沿って、解釈の違いを生まないよう、言葉に対してきちんとした説明を心がけていますね。

 また、必ず「僕の場合は」とつけて、あくまでいち個人の意見として発信することを心がけています。トランスジェンダーとしての概念的なお話はしつつ、やはりトランスジェンダーの当事者でも、戸籍変更をしたいと思っていない方だったり、手術をしたいと思っていない方だったり、同性の方を好きになったりいろんなグラデーションがあるんです。しかしどうしても「トランスジェンダー=〇〇だよね」となりやすい。だから、そういう枠組みを作りたくないなと思うようになりました。

――LGBTQ当事者の方たちのことも考えながら、かつ当事者でなく、知識が少ない方にも分かるように工夫されているんですね。

かなたいむ。:そうですね。ただ、時折当事者が生きづらさを感じているなかで、マジョリティー側にそこまで配慮しなければいけないのかなとも感じます。それでも、動画や、SNSを通して発信し現状を伝えながら、世の中のギャップをなくすこと、そして誰もが当たり前の権利を諦めない社会になるために自分のできることを模索しています。

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