starRoが語る、最小限の機材でアウトプットを最大化する“二元的創作論”

starRoに聞く、“二元的創作論”

ーー現在お使いのDAW「Ableton Live」を使用し始めたのは?

starRo:2011年の東日本大震災のドキュメンタリー映画『PRAY FOR JAPAN ~心を一つに~』の音楽をボランティアで担当したタイミングで乗り換えました。オーディオの扱いがだんだん増えてきたのが大きかったです。あと「FL Studio」は、それで作るだけで開いた良い音になるなと思っていたのと、「LUNA Recording System - Universal Audio」も気になり続けてはいますね。

 でも、いまはツールよりも自分のアップデートに興味があります。だから機材は当分このままでいいかな、と思っています。この1年で自分のなかに変化があって、そういう考えに至りました。最初の話に戻りますが、転機はコロナ禍ですね。今までの流れが分断されて、そのなかで自分が本当に何をしたいのかが見直されたんです。

 いまのスタジオは都心から遠い分、来てくれる人たちって本当に会いたくて来る人ですから、人間関係は今後も一緒に作る人、そうでない人に整理されました。来てくれる人の共通点は楽曲制作ファーストというよりも、お互いの考えていることをシェアしている内に音楽ができること。雰囲気がチルだから、心が落ち着くみたいなんです。都心は目に見える形で「世界が止まっている」という感じでしたし。

ーーその割にSNSは殺伐としている、という。

starRo:そうそう。だから学生の頃から「同じ音楽が好きなのに、なぜ上手くいかないんだろう?」と感じていたことも「人と人とが一緒に創造する、ということを簡単に考えてはいけない」と理解が深まりました。「長さ〇〇センチ、幅が〇〇センチ」みたいな具体的なものではなく、音楽制作はふわっとしたアイデアを共有しながら一緒に制作する行為ですから。色々な人と毎日関わって仕事をしていると、自分がセラピストと勘違いする瞬間もありますよ(笑)。

 ツールよりも人間と人間のコラボレーションが起こりやすい環境を重視するようになると、そもそもの発想が全然変わってきます。だから商業的な密閉されたスタジオには興味がないんですよね。いまの場所はAcoustic Reviveにケーブル周りのデザインをお願いしているのですが、日本の電圧が100Vで弱いからって欧米のような110Vに変換しても意味がありません。

ーーならば、どうしたらいいのでしょう。

starRo:それよりも流れているのをいかにロスを少なく、ピュアに届けるケーブルを使うかの方が大事。Acoustic Reviveは「あるものを大事にいただく」という発想なんです。音楽も同じで、まずミュージシャンがピュアにクリエイティビティを発露させられること。次にそこから自然と出てきたものを、いかにピュアなまま届けられるか。そう考えていくと、今のスタジオにある機材になっていくのかなと。

ーーところで、いまは山梨県・上野原方面の山中に滞在されることも多いとか。

starRo:そうなんですよ。1.5畳くらいの部屋で全てがミニマムなのですが、一応『Teenage Engineering OP-1』を置いています。そのなかで自分が何をできるのかに興味があるんですよ。だから、ここ1年くらいは今までのような意味での音楽はほとんど作っていません。それは離れたということではなく、音楽自体へのリスペクトが増したからなんです。深すぎるんですよ、音楽って。

 生き方にも通じると思います。所有するものも少なくていいし、生活に広いスペースはいりません。外に出て誰かとコミュニケーションを取る場所は、自分の家や誰かの家のリビングでなくてもいいし、みんなが何となく集まる場所さえあればいい。最終的に寝るところがあればいいんです。寝るってソロ活動じゃないですか。ソロ活動のための場所に豪華な家具や機材は必要ないなと。

ーー1.5畳になっても、シンセでアイデアを出すというところは変わらないのですね。

starRo:そういうことです(笑)。お金も使わないので、お金を稼ぐ必要も減りました。僕は稼ぐために音楽を作っていたんだな、ということも理解できたんですよ。「1週間に1曲は作らなきゃ」と考えていましたから。それがなくなると、やる気がなければ作らなければいい。そうやってそぎ落とした時に、それでも作りたい音楽があるはずなんです。

 インスピレーションやインプットが溜まり切る前に出すよりも、はち切れんばかりに自分のなかに溜まって炸裂する音楽を聴いてみたい。そうじゃないと、機材のポテンシャルのなかでしか表現しなくなってしまう気がするんです。とりあえずDAWのプリセットを開くとか、制作方法も決まってしまうし、ただの作法になってしまうのが嫌で。そういう手癖を崩したい。

ーーその心意気で作られたstarRoさんの新たな音楽が楽しみです。

starRo:「音楽」という言葉が使われたのは明治以降。それまで日本では「音曲」と言われていました。もともと我々日本人にとって「ミュージック」と呼ばれるものは、音を生み出すのではなく「曲げる」という概念だったんですよ。

 だからアーティストが「ゼロから作りました」という考え方自体が虚しいなと感じます。ようやく僕は「作らせていただいている」という気持ちに至りました。

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