『Weekly Virtual News』(2023年1月2日号)
2023年に期待したい、4つの「バーチャルなトピック」たち
AIとVTuber/アバター
2022年の半ば、画像生成AI「MidJourney」の登場を皮切りに、一般人も触れられるAIは加速度的に世に広まった。ある意味ではパンドラの箱が開かれたのかもしれないが、正しく使われる限り、人の想像力・創造性をさらに強化するツールとなるだろう。
では、VTuberにAI技術は応用できるのか――考えるまでもなく、すでに実例が元気に活動している。Picotiraの「紡ネン」が提唱した「AI VTuber」という概念は、2022年にバンダイナムコエンターテインメントが「プレイBYライブ」という形で拡大発展させた。
「プレイBYライブ」は、AIによって自律して行動できるバーチャルキャラクターを作り出すプロジェクトだ。現在、ゲーム実況配信を行う「ゴー・ラウンド・ゲーム」と、制作中の「ガンダムメタバース」に生きるAIを生み出す「プロジェクト・メロウ」の、2つのAIキャラクタープロジェクトが稼働している。
彼女たちは視聴者のコメントから学習し、成長していく。その気になれば24時間、365日配信し、学習し続けることもできるだろう。学習リソースによっては「悪い子」に育つ可能性もあるが、活動時間やメンタルなどに制限のある「生身のVTuber」にはない強みを発揮するはずだ。
AIキャラクターが活躍する場所はYouTubeに限らない。アドバンスト・メディアのAI音声対話アバター『AI Avatar AOI』は、『VRChat』にて音声認識をトリガーとして、自律して会話・ガイドを行うことができる存在だ。精度はなかなかのもので、収録した人間らしいモーションで動くことができるのも強みだ。
画面を挟んで存在するのと、VRメタバースで”眼前に”存在するのとでは、実在感はまるで違う。「バーチャルマーケット2022 Winter」でもほぼ休みなくブース案内を務めた彼女は、『VRChat』ではもう立派に”存在”している。「AIで動くバーチャルな存在」は、やがてはひとつの「人格」として、自律した存在として確立していくだろう。
メタバースのプレイヤーたち
メタバースは、まだしばらくは黎明期を抜け出ないだろう。だが、黎明期を越えて社会に定着するためには、その間にプレイヤーが増える必要がある。
たとえば、アバターやアバター向け衣服、仮想空間や仮想空間向けアセットを作るクリエイターだ。メタバースにおける「人」と「空間」を生み出すスキルへの注目は、今後熱を帯びていくだろう。メタバースにはまだなにもなく、だからこそなにかをつくり出すことができる。無人島開発にも、宇宙開発にも例えられる長い道のりにおいて、「つくる人」の重要性は極めて高い。
とりわけ、VRChat向けアバターは、ビームスやアダストリアなどアパレル業界も注目するほど盛り上がり始めている。あるクリエイターがアバターを作り、そのアバターに対応する衣装を衣装クリエイターが作る動きが定着しており、「市場」と呼べそうなものに成長しつつある。2023年は、さらに多くの作り手が参入しそうだ。
アバターに動きを与えるモーションアクターも重要になるだろう。ダンスや演技だけでなく、歩く、座る、振り返る、といった何気ない所作まで、アクターが吹き込む動きは全て「モーションデータ」になり得る。それは、アバターに命を吹き込む種火となるだろう。魅力的なアバターを、さらに魅力的に映し出す、重要な存在としてアクターの注目度も上がっていくはずだ。
パフォーマーも、メタバースによってまた一つ進化を遂げるだろう。実際に2022年は、VRChat生まれのアーティストやパフォーマーが、大きな舞台に立つ機会が増えた年だったように思う。
アーティスト、アイドル、ダンサー、コメディアン、そして「パーティクルライブ」と呼ばれる、ある種の空間演出もやってのける新機軸のパフォーマー……現実と地続きなパフォーマンスも、場所や技術によって大きく様変わりする。パフォーマンスの世代が、また一つ更新される日も近いはずだ。
上記以外にも、プレイヤーは多種多様だ。ビジネス、学問、医療、社会福祉……あらゆることが、仮想世界にて芽を出す可能性がある。
大事なのは、こうした動きを生み出す個人の実績と名前を、大きな企業や組織が奪ってはならないということだ。伝え聞く話では、かつての『Second Life』ではそれが起こったという。大きな組織が、「作り出す個人」をリスペクトしながら共創する世界となることを期待したい。
自由なVTuber
企業や事務所などに所属するVTuberが転籍するケースが増えつつある。本人の所属だけでなく、名義やアバターなどの資産、なによりYouTubeチャンネルも引っ越す必要があると考えれば、契約次第では転籍自体が容易なことではないだろう。実際、転籍に至らず活動を終えるケースはいまも見られる。
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当人の意思でピリオドを打つのであれば、その意思は尊重される。ただ、様々な大人の事情で、自分の意思から離れた事情でVTuber活動が終わるのは、ファンにとってもやるせない。VTuber活動の終了は、付随するキャラクターと名義の終焉であり、それはひとつの物語が終わることと近いからだ。
2022年、こうした(特に企業に属する)VTuberをめぐる事情に、新しいアプローチが見られた。バーチャルモデルプロジェクト「PROJECT SIGN」が行った、所属メンバーの「フリー化」だ。キャラクターの権利やリソースが演者に譲渡され、より主体的な活動ができるようになると期待されている。これまで業界でも意外と見られなかったアプローチだ。
「バーチャルな存在」がより自由に在り続けるために、こうした取り組みはぜひ各所で進められてほしいと、黎明期からVTuberを見てきた身としては思う。メタバースという活動場所の確保や、「実写」が流行し始めていることも合わせて、2023年にはより「自由なVTuber」が生まれていくことを期待したい。
(メイン画像=Generated by niji・journey)
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