スイスにおけるスタートアップ事情 失敗を受け入れる土壌から生まれる大規模なプロジェクト
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スイスに支店を置く日本の企業もスタートアップをサポート
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ちなみに、スイスでスタートアップをサポートしているのはスイスの企業だけではない。日本の三鷹に本社を構えるYOKOGAWAも、バーゼルエリアのスイス・イノベーションセンターに支店を置いて藻類の効果的な利用方法を研究する一方で、スタートアップへの資金や技術面のサポートができないか模索しているという。
「私たちは、植物よりも光合成効率が高く、より早くCO2を固定化して新たなものを作ることが可能な藻類のスマート・セル・インダストリービジネスを考えています。これまでは、自然にある細胞をそのまま使って増やしてものとして販売するプロセスをやっていましたが、お客様の持ち込んだ藻の細胞を改変してより良いものにして自分たちの使いやすい状態にするサービスを展開していこうとしています」とYOKOGAWAのチーフ・サイエンス・オフィサーであるDaisuke Nojima氏は言う。
しかし、この技術が素晴らしいものだとしても、すでにゴーサインが出ているスタートアップが新たにYOKOGAWAの技術を組みこんだり、すでにある技術と代替してくれることは少ないそうだ。
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「初期のフェーズのスタートアップだったり、大学との連携だったりが重要だと日々感じています。これを事業化してみたいのだけれど、といった相談があれば、金銭面なり技術面なりで支援できないか。そういったコラボレーションを考えています」
今回で最終回を迎えたスイスのメディアツアーレポート。帰国して2ヶ月が経過した今、記憶に残るのは小国ながらもリッチを目指したバイタリティ溢れる人々の姿だ。前述のNovartisのSatoshi J. Sugimoto氏は「小さい国だからこそのメリットがある」と話したが、それは、横の繋がりの濃さだったり、コンセンサスの取れやすさだったりするようだ。
筆者は実際に行ってみるまで、スイスに特別な思いや感情を抱いていたわけではない。だが、国が教育を大切にした先に次々とスケールの大きなスタートアップが誕生するエコシステムがあることなど、知れば知るほど興味が湧いたし、日本も見習ってほしい部分があることがわかった。
2025年に開催される『EXPO 2025』では、スイスのスタートアップが未来社会に向けてデザインした様々な技術をお披露目する予定だ。その中には、世界中の技術者が集う『Hack Osaka』で「Hack Award 2022」に入選したMobyFlyの”時速70キロで水上を走るボート”も含まれる可能性が高い。『EXPO 2025』に向けて盛り上がりを見せるスイスにこれからも注目してほしい。