”学校×オープンワールド”という挑戦が魅せた、シリーズの原点を問う『ポケモン スカーレット・バイオレット』のストーリー

『ポケモンS・V』の忘れられないストーリーを語る

 2022年11月18日に発売され、発売後3日で全世界売上1000万本を突破した「ポケットモンスター(以下、ポケモン)」シリーズ最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット(以下、ポケモン S・V)』。

 発売から1ヶ月ほどが経ち、さまざまな評価が世の中を賑わせている。グラフィックの問題や一部環境での処理の重さなど、ファンから指摘されている部分も多くあるのは事実。しかし一方で、歴代最高傑作との呼び声や、ストーリーに感動したという声も後を絶たない。

 筆者は本作のメインストーリーをプレイし、学園モノという挑戦的な構成における新たなゲーム体験と素敵なストーリーなどが合わさった結果、「やっぱりポケモンだった!」という感動を覚えた。

 『ポケモン S・V』は、学校に通うという設定やオープンワールド化にともなうストーリー進行の難しさを、「ポケモン」という長く愛されるシリーズゲームに、どのように落とし込み融合させたのだろうか。

※本稿はストーリーに関するネタバレを含みます。

3つの物語が同時にスタート

 従来の「ポケモン」シリーズとは異なり、本作では主人公がパルデア地方にあるオレンジアカデミー(またはグレープアカデミー)に転入する日の朝から始まる。

 事務手続きの不備により自宅を訪れた校長から最初の3匹を預かり、お隣さんであるライバル・ネモに出会う。そして登校の途中で、不慮の事故で弱ってしまった伝説のポケモン、コライドン(ミライドン)に出会うのだ。

 本作の情報が解禁され、主人公が学校に通う設定であることが明かされたときには、「旅に出ずにどうやってポケモンを成立させるのか?」と疑問に思ったものだが、その後、入学後の「課外授業」パルデア地方を冒険する流れになることを知った。

 「課外授業」に明確な目的は設定されておらず、「宝探し」というテーマのみが決められている。本作には各地のジムを巡り、チャンピオンランクのトレーナーを目指す「チャンピオンロード」、とある理由から珍しいスパイスを探しているペパーに協力する「レジェンドルート」、謎の人物からの依頼で学校の問題児集団「スター団」に挑む「スターダスト★ストリート」の3つの物語が用意されている。

 本作では、主人公はパルデアの広大なオープンワールドの中を、コライドン(ミライドン)に乗って自由に移動することができる。ゲーム開始から比較的短い時間の中で、最初の3匹の選択、野生ポケモンとのバトル、ポケモンセンターなどの施設の説明、オープンワールドの移動手段、各ストーリーの導入などがコンパクトに行われるのだ。

 ゲーム冒頭から一緒に行動するネモは、すでにパルデア地方でも腕利きのチャンピオントレーナーとして登場し、「チャンピオンロード」を導く存在となる。主人公はネモの背を追うかたちで切磋琢磨し、いつしかお互いに本気をぶつけられるライバルとして絆を深めていく。「ポケモン」シリーズにおいて、勝負を通してつながる友情や絆は一つの大きなテーマであり、本作でもそれがしっかりと強調されている。

オープンワールド化に伴う新規ストーリーの役割

 そんな本作の特徴は、なんといってもオープンワールドだ。そしてその大きな舞台を彩るのが、「レジェンドルート」「スターダスト★ストリート」の2つとなっている。

 「チャンピオンロード」という既存のストーリーだけでは、おそらく広大なオープンワールドの世界をもてあましただろう。『ポケットモンスター 金・銀』などのように、過去作のマップを訪れられるようにして追加のジムを登場させることもできるが、その点では逆にオープンワールド化が枷になりそうだ。

 そこで本作では「スターダスト★ストーリー」という追加の新たな物語を置き、それらをジム戦のように仕立てている。スター団のボスは、それぞれ「ほのお」「あく」「どく」「かくとう」「フェアリー」タイプのポケモンの使い手であり、各地のジムリーダーとは使用タイプが被らないように配慮されている。

 さらにスター団のアジトをクリアするごとにLPを取得でき、「わざマシンマシン」で作成できる「わざマシン」が増えるなどのメリットもある。一般トレーナーとの強制的なバトルがなくなった本作では、お金の代わりとしても使えるLPの支給は貴重な資金源だ。

 そんな「スターダスト★ストーリー」では、アジトのボスを倒すことで少しずつスター団の過去や、彼らの思いが明らかになっていく。そこで描かれるのは、同じ思いをもち、励まし合い、共に歩んできた大切な仲間との絆そのものだ。

 これも、まぎれもなく「ポケモン」というコンテンツが長い歴史のなかでプレイヤーに伝えてきた大切なメッセージの一つである。シリーズの主人公たちだけでなく、プレイヤーである我々もポケモンを通し、かけがえのない友情を築いてきたことがあるのではないだろうか。

ライドに感じた違和感と秘伝スパイスの役割

 「レジェンドルート」では、「秘伝スパイス」という謎の調味料を探し求めるペパーを手伝い、各地にいるという巨大なヌシポケモンを倒すという、ざっくりとした情報のみが事前に公開されていた。しかしフタを開けてみると、実は「レジェンドルート」はコライドン(ミライドン)の機能拡張を担うストーリーだったのだ。

 アカデミーを飛び出してまず感じたのは、「コライドン(ミライドン)の移動速度が遅い」ということだ。しかしその後、1匹目のヌシポケモンを倒したことで能力が拡張され、ライド技「ダッシュ」を覚えた。

 ライド技はオープンワールドにおいて重要な行動範囲や、移動の利便性に直結するため、プレイヤーが「レジェンドルート」に取り組む理由が自然と生まれる。秘伝スパイスを集めればコライドン(ミライドン)が強化されていき、行ける場所や移動手段も増えるので、冒険がどんどん快適になるのだ。

 そして「レジェンドルート」では、ある目的のために「秘伝スパイス」を探し求めるペパーが活躍する。描かれるのは、あるポケモンとの絆の物語。のちのストーリーにも深く関わる重要なテーマであると同時に、人間とポケモンの関係というのも「ポケモン」シリーズが一貫して大切にしているメッセージだ。

 実際、「レジェンドルート」のストーリーを見たいがため、ジム戦やスター団よりも秘伝スパイスの探索を優先したというプレイヤーの報告もSNS上でよく見かけた。

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