執筆AIの発展が開発者と作家にもたらした変化 『AI BunCho』大曽根宏幸と作家・葦沢かもめが語り合う"AI創作論"

AI小説家の"作家性"はどこにある?

小説家の仕事は奪われるのか

ーーAIに仕事を奪われてしまう、という作家さんの危惧に対して、お二人はどんな答えを返しますか?

大曽根:Excelの登場で経理の人の仕事が無くなったわけではないように、執筆AIが普及しても、作家の仕事はなくならないんじゃないか、と考えています。もっとも重要なこととして、AIには「書きたいテーマ」というものがありません。誰かが書き出しを書いたり、選んだりしていく作業は、未来にも必要になるはずです。

ーー作家が物語を構想する、そのスタート地点はAIには奪われない、と。

大曽根:ええ。なので、未来の小説家の仕事は、現在の画像生成のように、書きたいものをまずAIに書かせてみて、生成されたものをレタッチしたりする、という仕事に変化していくかもしれません。それは誰にでもできる仕事ではなく、小説をこれまで書いてきて勘所が分かっている人でないとできないのだと思います。ちょうど、現在でも画像生成を使うのが上手い人は、イラストレーターの人だったりしますよね。それとは別に、執筆AIをパートナーとして、自分自身の一番好きだと思う物語、必ずしも多くの人が求めるわけではないけれど、特定の人々にはすごく求められるような、そんなニッチさを掘っていける人が生まれるのかもしれないと思っています。葦沢さんのお答えも聞いてみたいです。

葦沢:私は「作家と読者の境目がなくなっていく」と想定しています。画像生成AIでは、見たい人が欲しいものを作り、みんなに「いいのができたから見て!」と提示していく流れがすでにできています。こうした流れが小説にも普及していき、良い読み手がいいと思うものを生み出し、それが読み手のあいだで共有されていく。そんな世界を想像しています。

ーーファンダムエコノミー化する小説文化、ということですね。ファン同士で自分たちの好きな小説を生産・流通していく。すると、いつしか、執筆AI自体にも個性が生まれて、「AIファン」が生まれたりすると面白そうですね。『AI BunCho』派、だとか。

大曽根:なるほど! 現時点では、AI側に審美眼を設ける、というのはしていませんが、Midjourneyでイラストを生成すると、Midjourneyっぽい画像が出力されるように、段々と『AI BunCho』のプロットに『AI BunCho』らしさが見いだされるようになっていくとおもしろいかもしれませんね。

小説の未来、作家の未来

ーー『AI BunCho』にこれまでのインタビュー内容を入力してみたところ、次のような質問が生成されました。「どういう小説を書けたら良いと思いますか? 『私だったら、こういうふうにできたら』と思うことがあれば教えて下さい」

大曽根:まさかの質問です(笑)。そうですね、誰もが好きな物語を書いてもらうのはいちばんうれしい未来ですね。プロットの提案から始まり、短い物語なら創造できるようになり、そこから長編もつくれるようになる。そうすることで、誰かにとって大切な物語を作る手伝いができるようにしたいです。

葦沢:私自身は、自分のコピーを作って、そのコピーに自分の穴を埋めてくれる小説を書いて欲しいですね。もちろん、ほかの人は執筆AIを違う目的のために使うでしょう。それぞれの人がAIとのうまい付き合い方を見つけ出していけたら、いい未来が訪れるのだと思います。相棒のような関係性で、ともに歩んでいける関係を築いていけたら。逆に、AIを使って表現をしている人に対する誹謗中傷がなされたり、AIを使う人と使わない人のあいだで分裂してしまったとしたら、悲しいですね。まさにいま画像生成AIで起こっていることかもしれません。

ーーお二人ともありがとうございました。今日はいろいろなお話をお聞きできて、AIと創作の既に存在する未来を発見できました。

葦沢:こういう機会はなかなかなく、そうか、自分はそういうところに関心があるのか、と発見があったり、はじめてちゃんと大曽根さんとお話できてよかったです。ありがとうございました。

大曽根:葦沢さんがどういうふうに『AI BunCho』を使っているのか気になっていたので、お話をお聞きできて学びがありました。葦沢さんとお話していて、自分一人で考えているときは思いつかないアイデアに気づき、まさにAIと一緒に書いているときに起こる感覚があっておもしろかったです。最後に自分の作った『AI BunCho』から質問されておもしろかったです(笑)。どうもありがとうございました。

〈Photo by Pixabay, Pexels, Unsplash〉

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