コロナ禍の“逆風”でリリースした『ピクミン ブルーム』はその後どうなった? 1周年を機に開発陣と振り返る

『ピクミン ブルーム』1周年記念 開発者インタビュー

 2022年10月26日、『Pikmin Bloom』(以下、『ピクミン ブルーム』)がサービス開始から1周年を迎えた。

 Nianticが真骨頂とする位置情報の活用と、任天堂の人気IPである「ピクミン」がコラボレーションした本作は、同社の東京スタジオが初めて開発を手掛けた。歩くことでピクミンを育て、撮影した写真など1日の振り返りを通じ、彼らとの日常を楽しむモバイルゲームとなっている。

 外出をともなうゲームに強い向かい風が吹くなかでリリースされた『ピクミン ブルーム』は、どのようなコンセプトのもと開発され、どのようにコロナ禍をわたってきたのだろうか。Niantic社・東京スタジオに在籍し、プロジェクトの立ち上げから本作に携わってきたシニアプロデューサーの小山顕氏、プロダクトマネージャーの中島りか氏にお話を伺った。(結木千尋)

「心身の健康のために歩いてほしい」サービスに対する自信が、逆風のなかリリースへと向かう原動力に

――まずは『ピクミン ブルーム』のサービス開始から1周年、おめでとうございます。

小山顕(以下、小山):ありがとうございます。

――コロナ禍という外出をともなうゲームにとっては大変な時期にリリースとなったことで、プレイヤー側からは想像できない苦労もされてきたと思います。

小山:そうですね。もっとも大きかったのは、「いろんな場所に出かけよう」と軽々しく発信できなかったことでしょうか。少しずつ変化が現れ始めたころではありましたが、企業として家の外での活動を促すことにはまだ敏感な時期でした。遊び方や楽しさを充分に伝えられなかった点には歯がゆい思いをしましたね。

――以前、別のところで2018年春に開発が始まったというお話を拝見しました。プロジェクトのスタート時点から考えると、想定外の連続だったのではないでしょうか?

中島りか(以下、中島):はい、思うように進まないことばかりでした。ただ『ピクミン ブルーム』の根幹となっている「歩くこと」は、コロナ禍でも健康維持のために推奨されている行動でしたし、本作は必ずしも集まって歩かなければならないゲーム性でもありません。プロダクト開発の面では、指針がブレることはなかったですね。

一方で、マーケティングの面では、「みんなでいっしょに歩きましょう」というメッセージを含めずに、どのようにしてサービスの価値・魅力を伝えるかに細心の注意を払いました。プレスもすべてオンラインでしたし、ローンチのタイミングで開催したかったリアルイベントも実施できなかったんですよね。

――そのような状況がある程度予測できるなかでリリースに踏み切った背景には、どのようなきっかけがあったのですか?

小山:特別なきっかけはありませんでした。世の中の情勢を注視するなかで、「今しかない!」となった感じでしたね。慎重にタイミングをうかがいつつも、私たちは自分たちの開発したプロダクトに自信も持っていましたので、思い切ってリリースに踏み切りました。

意識したのは、ユーザーの日常に寄り添うこと。

――Niantic社としては『Pokémon GO』に引き続いての人気IPを活用したモバイルゲームとなりました。このあたりに感じたこと、考えていたことがあれば教えてください。

小山:「ピクミン」シリーズや、『Pokémon GO』に連なるような作品ではないものを考えていました。もちろんキャラクターとしてピクミンは登場しますし、位置情報ゲームという意味で『Pokémon GO』と近い類の作品にはなると思います。けれど、双方を意識した「ピクミン GO」と呼ばれるようなものではなく、ピクミンたちと一緒に歩いて、ちょっとしたなにかを発見する。そんな日常を楽しむようなゲームにしたいという想いはありましたね。

中島:現在は少し表現が変わっているのですが、『ピクミン ブルーム』の開発・ローンチ当時、Nianticには「Adventure on foot with others」というミッションがありました。直訳すると、「仲間と一緒に歩いて冒険に出かけよう」となります。

ゲームを好きな人、「ピクミン」シリーズや『Pokémon GO』を好きな人だけを対象にするわけではなく、今までそれらに触れてこなかった人たちにも価値や魅力を感じていただき、ともに「Adventure on foot with others」を実現する。そのために『ピクミン ブルーム』からは、シリーズや『Pokémon GO』のもつ、いわゆるゲームらしさのようなものが意図的に排除されています。日常に寄り添う形ですべての人に楽しんでもらいたい。そんな想いがベースになっていますね。

小山:本来ゲーム制作は、対象となるプレイヤーの属性を限定しておこなわれることが多いんです。「みんなに遊んでほしい作品です」と書かれた企画書はまず通らない。けれど、『ピクミン ブルーム』ではあえて、そのようなコンセプトで開発を進めました。

――そうした方針は、具体的にどのような設計に反映されていますか?

中島:ウィークリーチャレンジがわかりやすい例です。一見すると、競争性の高いコンテンツに感じられるウィークリーチャレンジですが、基本のスタンスは、「歩いた量・得られた結果によって各ユーザーさんの優劣を決める」というものではありません。「たくさん歩いてくれてありがとう」「素敵なアイテムがもらえたんだね、おめでとう」といったように、頑張った人をたたえたり、祝ったりする方向で機能を作っているんです。

小山:同様に、ほかのモバイルゲームと並行して遊べるような設計も意識していました。たとえば、先ほどお話にあがった『Pokémon GO』も、私たちにとっては大切なサービスのひとつです。そのユーザーさんが新しく『ピクミン ブルーム』を始めようとなったとき、両方で時限のレイドなどが発生すると、プレイする方は疲れますよね。すでに遊んでいるモバイルゲームがあったとしても、無理なくプレイできる。そのような性質も、日常に寄り添うことをテーマにした『ピクミン ブルーム』には不可欠だと考えていました。

――より多くのユーザーを対象とするためには、誰もが気軽に遊べる仕様でなければならない、と。

小山:はい。『Pokémon GO』のように、同じ時間に特定の場所に集まることで、外に出て歩くこと、みんなと一緒に楽しむことを実現するのではなく、遠く離れた場所で暮らしていても、生活時間が違っていても、歩くことでひとつの目標に向かって協力できる。言ってみれば、非同期的なゲーム性でしょうか。『ピクミン ブルーム』の設計の根幹は、そのような点にあります。

――そうした軸が、敏感な社会情勢にフィットした面も?

中島:そうですね。『Pokémon GO』との差別化によって、変化のあった社会状況にも適応できるゲームへと洗練されてきたと思います。

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