キズナアイから『紅白歌合戦』のウタ、そして『絆のアリル』へ。受け継がれ、飛躍していく「バーチャルな存在」たち
ポケットモンスターシリーズ最新作『ポケットモンスター スカーレット・ヴァイオレット』がついに発売された。11月18日になった瞬間、YouTubeでは多数の配信者が実況配信を行った。VTuberとて例外ではなく、初日から長時間配信や並走配信がにぎわっていた。
発売日前日には、本作の発売を記念するイベントも実施され、その中で公式新番組「放課後ポケモン研究部」も発表された。興味深いのは、はじめしゃちょーや加藤憲史郎にまざって、「にじさんじ」の笹木咲も出演メンバーにいることだろう。
「にじさんじ」きっての任天堂ファンとしても知られる笹木咲だが、VTuberがここまで「ポケモン」公式案件に食い込む時代になったと思うと、感慨深いものがある。さらにホロライブで『ポケットモンスター スカーレット・ヴァイオレット』を採用した大会イベントも開催が発表されている。ゲームとVTuberは、いまや切っても切れない関係だ。
先週は『第73回NHK紅白歌合戦』の出演者発表も行われた。とりわけ驚かされたのは、劇場版アニメ『ONE PIECE FILM RED』のヒロイン・ウタの出演決定だろう。おそらくだが、彼女はYouTubeでも見せていた、3DCGモデルの姿で現れる可能性がある。なにより、キャラクターがその姿のまま紅白歌合戦の舞台に立つのは極めて異例――もしかすると、初かもしれない。
『ONE PIECE FILM RED』の公開に先駆けて、YouTubeにてウタが登場する短編動画がいくつか投稿されていたが、3DCGの彼女が視聴者に向けて語りかける姿は、極めて”VTuber的”だ。ショート動画だけでなく、代表曲『新時代』を、国立競技場のステージで歌うというスペシャル動画も後に展開されており、その活動が刹那的なものではないことがうかがえる。
このウタの3DCGを手掛けたのは、かのキズナアイを手掛けたActiv8だったりする。Activ8が8月末に公開したプレスリリースによれば、ウタの造形は同社のVTuber事業の知見から落とし込まれたものだという。
キズナアイはVTuberのパイオニアだったが、今年活動休止を迎えるまで、紅白の舞台には立てなかった。だが、彼女が生み出したバーチャルタレントという流れは、『ONE PIECE』生まれの歌姫を紅白へと導いた。“新時代”の扉は、たしかに開かれようとしている。
そして、キズナアイの活動休止後のプロジェクトとして予告されていたアニメプロジェクトも動き始めている。2023年に放送予定のアニメのタイトルは『絆のアリル』。「対立遺伝子(allele)」という意味深な言葉をタイトルに据えた本作は、「キズナアイの背中を追ってバーチャルアーティストを目指す人」を主役に据えていることが明かされた。
これまで、VTuberを俳優としてキャスティングしたり、VTuber自体が一キャラクターとして出演したりする映像作品は比較的見られたが、「VTuberを目指す人間」にフィーチャーしたものは意外に少ない。メタ的な視点を伴うため、「中の人」を秘匿し、半分キャラクターのように扱う動きがとても強かったことが要因として考えられる。
しかし、徐々に「中の人」を明かす動きも、VTuber業界では生まれつつある。2022年現在、VTuberは着実に「現実から地続きの存在」へと進みつつある。だからこそ、「これからVTuberを目指す人間」を題材としたフィクションを打ち出せるようになっている、のかもしれない。メタバースの追い風も受けて、バーチャルな存在が社会に根付こうとしている。