iPadから世界につながるクリエイティブを アドビが推進する「誰もが創造性を発揮できる社会」

 クリエイティブの制作には、専門的な知識や技術が必要で、長らくその学習ハードルは高かった。グラフィックデザインやWEBデザイン、イラストレーションといったクリエイティブワークの世界に入門するには専門学校で学習したり、あるいはプロフェッショナルのもとに弟子入りをして研鑽を積むことも行われてきた。こうしたクリエイティブワークは長年、”職人”のものとして扱われてきた。

 この状況を大きく変革したのがコンピューティングである。Macintoshが切り開いたDTPの世界は十数年で大きく拡大し、ソフトウェアの世界におけるAdobeの隆盛については、いまさら解説をするまでもないだろう。Photoshop・Illustratorの2大ソフトウェアはもちろんのこと、「日本語版Adobe Indesign」は2000年代以降の日本の出版・DTP業界を強力に牽引したし、旧・マクロメディア社の開発した「Adobe Dreamweaver」や「Flash」のテクノロジーは2010年代のインターネットを語るうえで無視できない。

 こうしたソフトウェアには、メーカーがプロフェッショナルの求める機能をヒアリングした上で新たな機能が実装されていく、コミュニティとメーカーの相互作用によって進化し続けてきた歴史がある。長い時間をかけて、”職人”たちのための道具として研ぎ澄まされてきたのだ。そのため、初めて触れる人々がある種の"とっつきにくさ"を感じるのも事実だろう。

 今日は、この"とっつきにくさ"を一度忘れてほしいのだ。なぜならこの2020年代には、こうしたクリエイティブワークがもはや「一部の職人のもの」ではないのだと確信できるような、数々の飛躍的アップデートがAdobeのソフトウェアにもたらされているからだ。

 たとえば2019年に発表されて大いに話題となったiPad版「Adobe Illustrator」はApple Pencilに最適化されており、これまでデスクトップ版で培われてきた数々の機能が導入された。使用頻度の高い機能から対応していくとのことで、現在も精力的にアップデートが行われている。スケッチを写真で撮影し、それをベクターデータに変換する機能や、様々なブラシスタイルを作成できる機能など、ちょっとしたスケッチにも手軽に使えるところが魅力だ。

 また、同時期に発表されて独自の進化を遂げている「Adobe Fresco」にも注目したい。これもiPad用に開発されたソフトで、水彩画や油絵のようなタッチも自在に再現できるソフトウェアだ。また、iPad版Photoshopとの連携機能もあり、画像の合成やレイヤーの作成も自在に行える。

 これらのソフトウェアはいずれもプロ用のデスクトップ環境がなくてもiPadとApple Pencilさえあれば手軽に導入できる。Adobeは「誰もが扱えるデバイス」に対してクリエイターツールを精力的に発表しており、こうした動きはかつて"職人たち"のもとにあった「テクノロジーとクリエイティブ」の地平を拡大していくだろう。

 そして、アドビはコミュニティを育むことにも熱心だ。アドビが運営するソーシャルネットワークサービス「Behance」には、世界中のクリエイターが作品を公開している。ポートフォリオを作成・公開できるほか、求人への応募なども可能で、クリエイターと依頼者をつなげるプラットフォームとしても機能しているのが特徴だ。クリエイターが自分の作品をプレミアムコンテンツとして公開し、有料サブスクリプションとして対価を得る機能もある。「クリエイティブをつくること」「効果的に広めること」「それによってキャリアを形成すること」がすべてアドビのクリエイターエコノミーの中で実現することが素晴らしい。

 いまやアドビはソフトウェアベンダーではなく、人々の創造性を拡張するプラットフォームの運営者であり、Creative Cloudの利用者は、誰もがこの恩恵を受けることができるのだ(そしてCreative CloudのアカウントがなくてもBehanceの登録は可能だ)。

 余談だが、昨年行われた『Adobe MAX 2021』のテーマは「協調型クリエイティビティの実現」「クリエイターのキャリア推進支援」であったが、これらのテーマをAdobeは現在も強力にバックアップしているように思う。個人的にはこうしたソフトウェアを入り口としてクリエイティブを楽しむ人々がコミュニティを作ること、さらにはそうしたコミュニティからソフトウェアへのフィードバックが行われるような好循環にも期待したいところだ。Adobeがすすめるクリエイターエコノミーの拡大と、それに伴って花開く新時代のクリエイターの台頭が楽しみだ。

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