"メアド交換"にも使われた赤外線通信 Bluetoothに代替されたその歴史を辿る

赤外線通信の歴史を辿る

 テクノロジーの世界は日進月歩。次々と新しい規格や技術が登場する一方で、かつて花形だった技術や機器がまったく使われなくなることも珍しくはない。若い世代と会話をしていて世代のギャップに驚く人も少なくはないことだろう。

 本連載はほんの10年、20年前までは普通に使われてきたが、今はほとんど使われなくなってしまったような懐かしい技術にスポットライトを当て、当時を知る人たちには懐かしさを、知らない人たちにもその技術の背景や使われ方などをお届けする用語解説記事だ。第三回の今回は「赤外線通信」について。Bluetooth以前に携帯電話やゲーム機などで活躍した無線技術について解説しよう。

・一世を風靡した赤外線通信

 現在はスマホの連絡先をやり取りする際に、画面にLINEのQRコードを表示してそれをカメラで読み取るか、iOSでは「連絡先」の情報(vCard)を「AirDrop」で、Androidなら「ニアバイシェア」などを使って、同一プラットフォーム内なら交換できる。それではスマートフォンが登場する以前、”ガラケー”の時代はどうだったのだろうか?

 携帯電話の多くには、開いたディスプレイの先端、あるいは裏側、場合よっては本体のサイドなどに黒い透明なプラスチックの部品があった。ここが、当時携帯電話同士の情報交換に使われていた「赤外線通信」の発信部と受光部だ。

2015年にau向けに販売されたシャープの「AQUOS K」。Android搭載のガラケー(ガラホ)だが、カメラの左側に見える黒いパーツが赤外線通信用の送受光部。ここを相手の受光部と向き合わせて通信する。(筆者撮影)

 

 赤外線は目に見える光のうち、最も波長が長い赤よりも、さらに波長が長い不可視光線の総称だ。このうち波長が比較的短めで赤に近い「近赤外線」と呼ばれる部分が通信に使われている。この辺りは可視光と光の性質が似ているので使いやすいのだ。

 現在も赤外線が使われているジャンルといえば、テレビやHDDレコーダーのリモコンが挙げられる。リモコンの先端にもガラケーと同様の黒い(または透明な)部品があるが、この発光部は、簡単に言えば「赤外線を発する電球」だ。リモコンの場合は送信する内容がチャンネルの番号とか音量の大小など極めてシンプルなので、通信速度よりも距離のほうを重視しており、送信する5〜10m程度、角度も100度近くをカバーしている。壁や天井に反射もするため、多少アバウトに向けて飛ばしても届いてくれるのだ。

 一方、携帯電話の場合はもっとサイズの大きいデータをやり取りする。連絡先なんて名前とメアド、電話番号くらいでは…と思うかもしれないが、内部では「vCard」(.vcf)という形式のXMLファイルになっており、名前と電話番号しか入っていないようでも、実際には空の欄にもメールアドレスや住所などの欄を定義するタグが用意されているため、最低でも数キロバイト(=文字になおすと1000文字単位)にもなる。テレビのリモコンの場合は数バイト程度なので、何百倍もの差がある。メアド交換のためにリモコンのキーを数百回押さねばならないとしたら、手入力のほうが遥かに早いだろう。

vCardの中身をテキストエディターで開いた様子。端末やOSの情報まで記載されているのがわかる。

 もちろん、その辺りはしっかりと考えられていて、携帯電話の赤外線通信は遥かに高速で、連絡先も1秒くらいで送受信できる。その代わり通信距離は数十センチ〜1m程度で、角度のほうもかなり狭く、ほぼ直線に向ける必要がある。そんなわけでガラケー時代の合コン後は、ケータイ同士を付き合わせて連絡先をやり取りする(今思えば)シュールな光景があちこちで見られていたが、AirDropやQRコードの読み込み機能が標準化する前のスマホではそれすらできなかったのだ。

 このほかにも赤外線通信はプリンター、公衆電話、PDA(スマートフォンになる前の、通信機能を持たない携帯情報機器)など、多くの機器に搭載されていた。また独自規格ではあるものの、任天堂のポケモンミニやゲームボーイカラーなど、赤外線通信機能を持った携帯ゲーム機の普及も、それらに親しんだ子供たちが大人になって携帯電話を持つようになったとき、赤外線通信をすることへの心理的な障壁を下げるのに一役買っていたのではないだろうか。

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