松原達也×林直孝に聞く、“科学アドベンチャーシリーズ”の過去・現在・未来

シリーズの歴史が動き出した運命の夜

――松原さんと林さんは、『CHAOS;HEAD』制作のタイミングで5pb.(現MAGES.)に入社されたんですか?

松原:いえ、『CHAOS;HEAD』よりも少し前ですね。5pb.は2007年に『Que 〜エンシェントリーフの妖精〜』という作品をリリースしているんですが、これにも少しだけ携わっています。

林:私は松原の半月ほど前に入社していました。実はここにも面白いエピソードがあって。松原の入社初日に、志倉が私と松原を会議室に呼び出したんです。「今から2人にプレゼンをする!」と。分厚い企画書を手渡されたのが午後8時。当然その日は終電ギリギリです。

松原:初日から終電ギリギリなんて誰も予想しませんよね?でもそのとき志倉にプレゼンされた作品が、のちの『CHAOS;HEAD』になった。それから15年も続くシリーズになるとは、あのときは想像していませんでした。

林:最初は『哀(あい)SWORD』という作品名だったんです。志倉が、入社半月の私と入社初日の松原に「そのタイトルはない」と責められて(笑)。ちなみに『哀SWORD』はTVアニメ版の『STEINS;GATE』にタイトルだけこっそり登場しています。

松原:懐かしいね。

林:今思えば、あのときから科学アドベンチャーシリーズの作り方は変わっていないですね。

――松原さんはプロデューサー、林さんはシナリオライターとそれぞれシリーズにおける立場が違うかと思うんですが、お二人はお互いの役割をどう認識していらっしゃるんですか?

林:松原はなんでもできる人なんですよ。困ったことは松原に任せておけば大丈夫ってくらい。だから過去のシリーズ作品のスタッフロールには、至るところに「松原達也」の名前が登場します。志倉の妄想をゲーム化・シリーズ化できたのは、松原の存在によるところが大きいですね。

――松原さんは最初からマルチプレイヤーだったんですか? それとも、シリーズでいろんな仕事を任せられるうち、気づいたらマルチプレイヤーになっていた?

松原:それで言うと、最初からですね。もともとそういう性格だったんだと思います。5pb.の設立当初は今ほどスタッフ数が多くなかったので、前職でデザインやグラフィックに携わっていた私が、ロゴを作ったり、ムービーを作ったりと、いろいろなところに駆り出されていました。そのうちに現在のポジションが確立されていきましたね。

――どちらかというと、プロデューサーはジェネラリスト、クリエイターはスペシャリストだと思うんですが、求められるスキルや専門性の部分で抵抗を感じたことは?

松原:ないですね。と言うのも、私は古い時代の人間なので。昔のゲーム制作は少人数で進行するのが当たり前でした。プログラムとシナリオとキャラクターデザインをすべて同じ人が担当することも珍しくなかった。もちろんさまざまな役割を兼務することで多少の大変さはあるんですが、負担よりもやりがいを強く感じています。

 私自身、クリエイター畑で育ってきたので、スペシャリストでありたいという気持ちは今も忘れていません。けれど、自分がまとめ役を担うことで、志倉や林に代表される社内のスペシャリストたちが最大限に力を発揮できるなら、それが一番望ましい形だと思います。

――一方で、林さんは1人のシナリオライターとしてだけではなく、監修といった総合的な立場でもシリーズ作品に携わってきました。この2つに関わり方の違いは感じていますか?

林:シリーズ作品のシナリオライティングに関しては、志倉の持ってきた設定をまとめる役割が主で、そこに全力で頭を使っています。対して監修では、志倉ならどう言うだろうと私なりに考え、それを個々のライターさんに共有するという対応をしていますね。他のライターさんからすると、科学アドベンチャーシリーズのシナリオは書くのが大変みたいなんです。情報量が多すぎて、展開をうまくまとめられないと。私の感覚では「用語を説明しながらドラマを進める」というイメージですが、それを具体的に伝えるのが難しくて。そういう部分では、苦労を感じることも多いのが私にとっての監修という仕事です。

――シナリオライターの立場でもまとめる役割がメインとなる点は、科学アドベンチャーシリーズならではとも思います。

松原:このシリーズは常にその戦いなんです。志倉から降りてくる膨大な量の設定を、ひとつずつ噛み砕いて整理していく。うまくまとめられないと物語にならないので、ひたすらその調整に頭を使っていますね。

――ここまでお話を伺って、科学アドベンチャーシリーズの制作は、音楽制作における分業に近いような印象を受けました。志倉さんが作る断片的なメロディーを手がかりに、松原さん、林さんといったチームのメンバーが作曲・アレンジを施していく。

林:言われてみると、そうかもしれませんね。志倉のプロットはそれぞれが独立したワクワクするシーンの詰め合わせなんです。個々は面白いけれど、それを繋ぐ間の部分がない。それを松原や私が線にしていく。そうやって15年間、作品を作り続けてきました。

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