ミステリー作家とQuizKnock、2つの目線から考える「謎解きの面白さ」 似鳥鶏×河村拓哉対談
暗号解読が難しい『夏休みの空欄探し』
ーー似鳥先生の最新作『夏休みの空欄探し』を読まれて率直な感想はいかがでしょうか?
河村:暗号というものが、日常での使いどころがなくなってしまっていると僕自身感じていて。小学生の頃に裏紙に適当に暗号を書いて遊んでいたようなものが、成長するに連れて自然と離れてしまって、それがきれいな形で目の前に現れたような嬉しさを感じました。ある意味で懐かしいなと思いましたね。
ーーやはり河村さんのようにクイズに携わるような方は、小説内に暗号や問題が出てくると、とりあえず一度自分で解いてみるんでしょうか?
河村:いけそうだったら、ちょっと考える感じですかね。作中の登場人物が持っている知識が必要だと思ったら読み進めてしまいますが、ちょっと頑張ったら解けそうな気がすると思ったら、読み進めていきながらヒントを探って正解を見つけようとします。
ーー『夏休みの空欄探し』ではいろんな暗号が出てきましたが、正答率はいかがでしたか?
河村:そんなによくはなくて、最初の2問で考えるのを諦めてしまいましたね(笑)。第三者目線で、主人公の気持ちになって解こうと頑張ったんですが……。
似鳥:同業のミステリー作家はこぞって挑戦してくれましたが、みなさん揃って「1問もわからなかった」と仰っていて。わかるような難易度には作ってなく、ヒントも厳しめで結構難儀なものだと思います。実際のクイズとは違って、小説の中でだんだんヒントが出てくるので、解答スタートのタイミングわかりづらく、正解にたどり着くのは難しいかもしれませんね。
ーー似鳥先生は暗号を作る際に、どういうところが出発点になって考えていくのでしょうか。
似鳥:暗号はあまり発想のパターンがなくて、これで文字が書けるとかモールス信号の代わりになるとか思いつくと、暗号のネタになるんですけど、現代のミステリー小説ではあまり暗号は使わないんですよ。なので、思いついたときだけ暗号のメモを残しておくくらいですかね。10年来使っている暗号のネタ帳も今回で全部使い切りまして(笑)。そのくらい、暗号のネタはなかなか思いつかないですね。
ーーちなみに暗号はどういうときに思いつくんですか?
似鳥:密室トリックだと、たとえば部屋の錠の形が面白かったら、「こうすれば鍵かけたふりできるな」と考えつくんですが、暗号ってやはり日常生活にないので、机に向かって暗号を考えることが多いかなあ。でも、何時間も座って考えればいいものができるかと、そういうわけでもない。いろいろな手を地道にやっていくしかないですね。逆にクイズとかを考えるのはすごいなと思います。
河村:普通のクイズだとまず答えを考えて、それを文章化して問題文を書けばいいんですが、ルールが決まっている場合は、ルールに沿って問題を出したときに一番面白いようなものを考えます。例えば、問題文に制限があって、ある一定の文章しか解答者が聞けなくて、答えはこれにしかできないこともあります。
似鳥:解答が出た瞬間、「あー!それだ」となってしまうんですよ。それが正解であることが直感的にはっきりとわかるので、それ以外の解答は正解から遠いというのが明確なんです。どうやってクイズを作っているのか、すごい気になっています。