意外とわかっていないテクノロジー用語解説

iPhoneにカメラレンズが3つ付いているのはなぜ? デュアル・トリプルカメラの仕組み

 テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。

 本連載はこうした用語の解説記事だ。第18回はスマートフォンの「マルチカメラ」について。最近はスマートフォンが複数のカメラを搭載することが珍しくない。しかし、なぜこうした構成になっているのか、使っているみなさんはご存知だろうか。

薄型化と光学系の限界とのせめぎ合いの果てに

 現在、スマートフォンの多くには複数のカメラレンズが搭載されている。その多くは標準レンズ(1倍)に加えてワイドまたはズームレンズ、または奥行き検知、マクロレンズ、モノクロカメラなどを組み合わせたものとなっており、最大で5つのカメラを搭載した機種が発売されている。

 ちなみに、最初にマルチカメラを搭載したのが2014年のHTC One M8(標準カメラ+奥行き)。5つのカメラを搭載したのは2019年のシャオミ・Mi Note10およびMi Note10 Proだ(標準、ポートレート、超広角、望遠、マクロ)。iPhoneでは2016年のiPhone 7 Plusで初めて背面デュアルカメラ(標準、望遠)を搭載し、iPhone 11 Proからはトリプルカメラ(標準、望遠、広角)を搭載している。

HTC One M8(Photo by iFixit)

 なぜスマートフォンはこのようなマルチカメラを搭載するようになったのか。それは、薄型化との兼ね合いが大きい。一般にズームレンズというのは、ズーム倍率を変えるために焦点距離を切り替えられるようにしなければならず、結果としてある程度の厚みが必要となる。

 2013年にサムスンが発売した「Galaxy S4 Zoom」は、実に光学10倍ズームという、本格的なデジタルカメラ並みのカメラを搭載したスマートフォンだった。実態としては、スマートフォンにそのままデジタルカメラの光学系を乗せたというべきだろうか。その代償として、厚みは最大で15.4mm(レンズ格納時)もある。iPhone 13が7.65mmなので、2倍以上厚い。もちろんこうした製品にも需要はあるだろうが、ニッチな商品であることには変わりなく、残念ながら主流とはなり得ず、市場から姿を消した。

Galaxy S4 Zoom(Photo by samsungmobilepress.com)

 ここで、昨年発売されたソニーの「Xperia 1 III」や後継モデルの「Xperia 1 IV」を思い出した人もいるだろう。Xperia 1 IIIのウェブサイトには「1つのレンズで2つの焦点距離を備えた世界初の可変式望遠レンズ」を搭載していると記載されているが、よく見ると「デュアルフォトダイオードセンサーを備える可変式望遠レンズ搭載のスマートフォンとして」という但し書きが付く。前述のようにズームレンズ自体はGalaxy S4 Zoomが先駆者として存在していたわけだ。

 さてXperiaについては、2倍ズームレンズを薄い本体に納め切った点がポイントなわけだが、これはプリズムを使うことで、光学系を90度横に回転させて、厚みではなく横幅方面に伸ばしている。こういった仕組みを「屈曲光学系」といい、かつてソニーと合併したミノルタが2002年に発売した「DiMAGE X」というデジタルカメラで取り入れて大ヒットを収めている。Xperia 1 IIIにおいて、その伝統が復活したと言ってもいいだろう。

Xperia 1 IIIのカメラ機構(Photo by Xperia 1 III Website)

 とはいえ、こうした光学系はコスト的にも設計もなかなか大変だ。前述したように、ズームレンズは複数のレンズを組み合わせ、中のレンズを動かすことで焦点距離を変える仕組みだが、単焦点レンズであればレンズを動かすスペースが必要ないことから、同じ画角を得るにも薄く作ることができる。そこでコストは高くなるが、ズーム倍率に合わせたレンズと撮像素子のセットを複数用意してしまったほうが、スマートフォン自体を薄く作ることができるというわけだ。これがマルチカメラのスマートフォンが全盛になった理由なのだ。

 ところで、マルチカメラを究極まで突き詰めた製品としては、2012年に発売された「LYTRO」や、2015年に登場した「Light L16」というカメラがあった。前者は撮像素子に特殊なマイクロレンズを多数配置して光の方向も記録できる「ライトフィールドカメラ」で、後者は実に16ものカメラモジュールを搭載したデジタルカメラだった。いずれも撮った写真をソフトウェア処理することで、撮影した後でも焦点の位置や被写界深度を変更できるのが売りだった。

LYTRO(Photo by Dcoetzee CC0 1.0)

 どちらも画期的なカメラではあったが、コスト高や、処理にPCを必要とし、「撮ってすぐ楽しめる」というデジタルカメラの長所を生かすことができなかったこともあってか、普及には至らなかった。その後、深度情報専用のカメラを使う方式(iPhoneのポートレートモードなど)や、機械学習によるソフトウェア処理(Google Pixelなど)が登場し、被写界深度の調整にマルチカメラを使う意義は薄れているようだ。

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