日々当たり前に使っている『液晶ディスプレイ』とは何か?

『液晶ディスプレイ』とは何か?

 テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。

 本連載はこうした用語の解説記事だ。第12回は「液晶ディスプレイ」について。薄型テレビやディスプレイなど、幅広い分野で利用される「液晶ディスプレイ」だが、実は細かく分けるとさまざまな種類がある。そもそも、あんな薄い部品にどうやって文字などを表示しているのだろうか。「液晶」について改めて解説していこう。

 中学校の理科で「物質の三態」と言う言葉を習わなかっただろうか。物質には「固体」「液体」「気体」という3つの状態があり、同じ物質でも性質が異なってくる。固体はしっかりと固く、定まった体積と形を持ち、液体は流動性があり体積は固定だが形は不定。気体は体積も形も定まっておらず、放っておくと散って消えてしまう、といった具合だ。こうした状態の変化は、物質の中の分子の並び方や運動量の違いによって発生する。

 ところが、「液晶」はこのうち固体(結晶)と液体の中間の性質を持っている。液晶を構成する分子は個体のように緩やかな規則を持って並んでいるが、全体としては流動性を持っている。また、液晶には電圧や温度などを加えると、分子の並び方が変わる性質もある。

 液晶パネルは、この「電圧をかけると分子の並び方が変わる」という性質を利用した機器だ。(分子レベルで)細い溝が掘ってある2枚の電極で液晶を挟み、それぞれの電極には、液晶の分子がその溝に沿って並んでいる。上と下の電極で溝は90度曲がっており、本来なら光を通さない(=黒く見える)のだが、分子の間を通る光は分子に沿って捻じ曲がって通り抜けるため、透過して見える。しかし電極に電流を通すと、電流に沿って分子の並び方が変わるため、捻じ曲げられていた光は真っ直ぐ通過することになり、結果として黒く見える。こうして光の見え方が変わるのが、主流となるTN方式(Twisted Nematic)の液晶の仕組みだ。

 初期の液晶パネルでは、液晶が入っている場所が限定されており、そこのパターンを黒と無色で切り替えることしかできなかった(ただし、ドット絵よりも精細な絵などを表すこともできた)。たとえば任天堂の「ゲームウォッチ」などはこの代表例だ。やがて製造技術が高まり、全体を細かなドットに分け、ドット単位で制御することで、文字やドット絵の表現ができるようになり、現在のような液晶ディスプレイが現れることになった。

 液晶はその構造上、液晶自身は光ることがない。このため暗いところで利用するにはライトによって照らす必要がある。現在はバックライトによって暗い場所でも利用できるものがほとんどだ。また、液晶自体はさまざまな色を表現することができないため、液晶を挟んでいるガラス基盤の中にRGBそれぞれのフィルタをかけ、バックライトで照らすことで色を表現している。

 さて、TN方式は構造がシンプルなので安価に作成でき、応答速度も速く、消費電力も低い。このため安価なゲーミングモニターなどに採用されているケースが多いのだが、視野角が狭く色再現性が低いこと、また構造上「真っ黒」を表現するのが苦手という特徴がある。このため、色再現性を重視する業務などには向いていない。

 液晶パネルの駆動方式には、このほか「VA方式」(Vertical Alignment)や「IPS方式」(In-Plane-Switching)といったものがある。どちらもTN液晶の弱点を補う方式で、TN方式よりも高級なディスプレイやテレビなどに採用されているケースが多いが、TN方式より劣る部分もある。主要な目的に合わせてパネルの種類を選ぶのがポイントだ。

パネルの特性は製品によって異なり、改良されている場合もある。あくまで大雑把なイメージとして考えていただきたい。

 方式の違いはさておき、液晶パネルの開発により、表示デバイスは画期的に薄くなることに成功した。そしてさまざまな改良を経て、いまや我々の日常生活に欠かせないものとなっている。

 ちなみに液晶パネル自体の寿命はおよそ3〜5万時間、バックライトはLED化する前で1万5000時間程度、LED化後で液晶パネルと同等と言われている。前より暗くなった、色が薄くなった、反応が遅くなったなどと感じられるようになってきたら、機器の買い替えを検討しよう。

 ところで、中には「イカの墨が液晶の材料になる」という話を聞いたことがある人もいるのではないだろうか。これは、イカの肝臓から「コレステリック液晶」というコレステロールの一種である液晶状の素材を得ることができるためだ。実際にイカから取ったコレステリック液晶が販売されたことや、TN液晶にコレステロール誘導体が使われていたことはあるのだが、イカ由来のコレステリック液晶が使われていたわけではないし、墨はそもそも液晶ではないので注意されたい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる