「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」 “VTuber”の存在意義を問うた、黛灰の活動終了に寄せて

黛灰の活動終了に寄せて

 そんな黛灰がエンターテイナーと呼ばれるようになった決定的な一打、もっとも大規模であった企画だったのが「新宿・渋谷の街頭ビジョンジャック」と「黛灰の物語」であろう。

 2021年6月19日、新宿アルタの大型ビジョンや渋谷駅前交差点の映像広告に、自身の口からとあるメッセージを流し、その映像を現地で目撃していたファンの様子を撮影した動画も後日に発表した。

 黛灰には、ほかのにじさんじ所属メンバーとは一味違った深いバックグラウンドがある。2019年9月12日にYouTubeコミュニティで「所長の記録」として公開された内容から引用すると

・事故で両親を亡くし、施設に入所した
・幼少期はゲームや電子機器に触れていることが多かった。プログラミング技術はその時から才能を見せていた。
・高校卒業後、「施設の支援をするために残りたい」「同じく施設にいる子供たちの面倒、資金援助をしていきたい」と申し出があった。
・文中に「加賀美社長」という記述があり、のちににじさんじに加入する前から面識があったことを明かしている。

 デビュー配信の最後にほのめかされて以降、彼の配信には伏線が仕込まれていた。

 実際にじさんじの配信活動の大半は、自身が住む施設などの物音を考慮し、昼間ではなく夜に配信をすることが多かった。時にはまったく別な存在が黛灰のチャンネルから急に配信をスタートしたり、仲のいいVTuberが彼についての記憶を失い「だれのこと?」と逆にファンに聞き返してみたりと、配信以外の場面にも「黛灰」のストーリーにまつわるメッセージが提示されることもあった。

 現在では引退してしまった高性能AIの出雲霞と鈴木勝らとともに綴っていた「2434system」をキーにして、「黛灰とは何者なのか?」「黛灰はどのような人生を歩むべきなのか?」というストーリーを徐々にリスナーへと提示していった。

 2021年4月1日から黛灰のTwitterに大きな異変が起き始め、「黛灰ではない存在」が徐々に侵食するように前面に出始めるように。5月末からは黛灰の配信活動すらストップしてファンをヤキモキさせていたなか、物語の終着点となったのが先述の「新宿の街頭ビジョンジャック」であった。

2021年6月19日の様子

「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」

 その重い問いかけから10日後となる2021年6月29日、Twitter上のアンケート機能を使って黛はリスナーに選択を求めた。黛灰のチャンネルで生配信がスタートし、一部始終を見守ることになった。

 Twitterのアンケート機能は投稿者本人が結果を変えることはできない。リスナーは、黛灰に自分の人生を決めろと訴えたのだ。

 この幕切れのあと、Twitterのアイコンやプロフィールなどが正常なスタンスへと戻っていき、2021年8月以降では施設からでなく自身の配信スタジオから配信を行なっていくことを発表。配信内容・方針を変え、定例雑談、インディーズゲームを中心にしたゲーム配信などを重心に置き、にじさんじ外のストリーマーや活動者と交流を図っていくようになったのだ。

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