「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」 “VTuber”の存在意義を問うた、黛灰の活動終了に寄せて

黛灰の活動終了に寄せて

 お笑いを察知し、空気を読み、エンターテイメントを起こす。それはその場に参加している人たちの立ち位置・構造をしっかりと理解し、その後を予想し、行動する力にあるだろう。

 「絶対に押さないで!」と書かれたボタンがあれば押す。ヒモが上から垂れていたら思いっきり引っ張る。熱湯の近くに立っていて「押すなよ!」と言われたので思いっきり押してみる。古典・テンプレート・ありがちなネタは、「こうなるだろう」というお笑いの予感と予想を立てて行動する、ということになる。

 こういったキッカケは初歩の初歩であり、極端な逆張りにも近い。黛灰はそういった初歩的なキッカケにとどまらず、洞察眼を活かして構造を的確に理解し、すぐさまボケ・ツッコミを起こすことが多い。

 たとえば、初めてのゲームでチグハグにプレイしているコラボ相手がいると、その人の行動などを踏まえつつ上手く使ってボケたり、ツッコミをすることもあった。特に2021年2月8日に配信された『Among Us』で魔使マオの不憫さをうまく活かしたゲームプレイは最たる例だろう。

【#Niji_AmongUs?】トモダチと、宇宙でいっしょに痛面パーティ
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 初めてのプレイでファーストキルされ続ける魔使を率先してかばいつつ、自分がファーストキルしてしまってみたり、大きくミスしてしまった魔使を不破とともに「バグかもな?」「魔使がそんなことしないよ!」と話しつつもツッコんでみるなど、見どころが多い配信でもあった。

 もちろん言葉遣いなどの扱いや距離感をミスすると、同じにじさんじのメンバーとはいえ「初心者の魔使をバカにしている!」とリスナーの反感を買いかねないワンシーンになる。それでもうまく乗りこなす彼は躊躇することない男なのが伝わるだろう。

 「その場の構造をリスナーに提示しつつ、うまくコネくりまわして楽しませ、面白がってもらう」という配信としては、彼の「謝罪配信」がある。

【お詫び】誠に申し訳ございません。【謝 罪(あやまり ざい) / にじ謝辞】

「二度とこのような事がないよう努めていきます」

「また改めて皆様の期待に応えられるよう、配信活動に臨んでいきたいと思います」

「悪くないよといったコメントも多々ございますが、配慮が足りなかった点であったり、ご不快な気持ちにさせてしまったという点で責任があると思います」

 冒頭から淡々と謝罪を繰り返していく黛灰。見に来たリスナーらは一様に何かあったか?と不安にさせられるが、このタイミングで彼はなにも問題を起こしていないし、被害をうけてもいない。

 この配信は「にじ謝辞」と銘打たれ、「よくある謝罪会見やセリフをモチーフにし、完全にフィクションな形で再現する」ことを趣旨にしている。

 見に来たリスナーも次第に趣旨を理解し、コメントから野次を飛ばすようになり、そのコメントを見た黛は即応してコメントし返す、まるで本物の謝罪会見と見間違うかのような状態となっていった。

 なにも問題が起こっていないのにも関わらずに終始謝罪しつづける黛の姿も笑えるが、ネタと理解してブーイングと擁護のコメントを次々と書いていくリスナーも素晴らしい。

 なにかしらの社会的なメッセージ性が込められているようにも感じられ、「意味なんて無くても面白い」ことを笑い合える自由さも感じられる、「いったい彼がどんな事件を起こしたのか?」とフィクションのなかで想像を膨らませることもできる。

 見る人によってさまざまな受け止め方ができる奥行きのあるエンターテイメントがこの配信で提示されている。

 2021年1月30日に配信されたのは、「伝書鳩」行為をうまく利用した配信であった。

【伝書鳩】すべての配信の伝書鳩が来る配信

 伝書鳩行為とは、他の配信者の発言や行動などの情報を視聴者がコメントで伝えたり、逆に聞き出そうとする行為のことだ。「配信内容とまったく関係ない話で場が冷める」「意図が正しく伝わらないことが大多数である」「配信者当人を見に来たファンにとっては面白い気持ちが削がれてしまう」といったことに繋がってしまうため、荒らし行為であると捉えられて生配信が荒れる原因の1つとなっている。

 何度とない注意喚起をしても一向に減らない行為としても知られ、VTuber当人・ファンともに頭を悩ませている。そんな減ることのない伝書鳩行為を逆に利用し、いくつかのルールをリスナーに伝え、にじさんじの配信を中心にしてほかの配信内容をコメントで集め続ける配信をしたのだ。

 理解力あるリスナーらによって多くのコメントが届くようになると、黛が逐一クセのあるツッコミを入れ続け、ツッコミとボケを両立した巧みなコメントを連発した。

 こういった配信を取り上げられるのは、インターネットカルチャーに造詣が深いというだけではなく、それを愛するネット民や自身のファンの感覚を捉えているからこそだろう。

 これらのように、場の状況や関係性などの構造をうまく提示し、理解させて、エンタメとして届けていく。そんな彼のスタイルは次第にリスナーの理解力を上げていくことになった。

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