「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」 “VTuber”の存在意義を問うた、黛灰の活動終了に寄せて

 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。

 今回は、7月28日に活動終了を宣言し、シーンに大きな衝撃を与えた「静かなるエンターテイナー」黛灰について記していきたい。

 黛灰は2019年7月24日にTwitterにて初投稿、7月28日にYouTubeで初配信し、相羽ういは、アルス・アルマルらとともにデビューした。

 3人のアクセントカラーが青色系で共通していたということで、デビュー当初から『ぶるーず』というユニット名を掲げて活動をスタートしている。

 水色のインナーカラーしたメッシュを入れた髪型、耳には黒いイヤリング、肌はもはや「青白い」と言えるレベルで白く、身長が178センチで体重が60キロにも満たない体形と、かなり細身で骨ばった印象をあたえるルックスで人目を惹きつける彼。

 ホワイトハッカー(コンサルタントハッカー)として活動していたことでインターネットカルチャーやパソコン周りの知識は豊富であり、その職業柄か、にじさんじでも一、二を争う知性派として多くのファンに親しまれてきた。

 ほとんど運動をしてこなかったというエピソードもあるように、明らかなインドア派でもあり、通常の配信やイベント時などどのような場に出てきても極めて落ち着いた口調で淡々としゃべり、物静かでクールな印象がリスナーにとっては印象強いだろう。

 そんな彼のイメージにピッタリだったのが、自身が企画し、のちに公式番組へと発展していった「にじクイ」だ。2020年3月7日に配信された『にじさんじクイズ王決定戦 #にじクイズ王』は、黛が立案、緑仙にダメ出しをもらい、QuizKnockのメンバーに問題を制作してもらうという形でスタートした。

【QuizKnock協力】にじさんじクイズ王決定戦 企画組副音声放送 #にじクイズ王 

 その9か月後の2020年12月13日に本格的に公式番組化されると、現在まで約2年半ものあいだにわたって継続されている公式番組に。にじさんじ所属タレント自身が出演している番組としては、2019年9月16日にスタートしたニコニコ動画内番組の『にじさんじのハッピーアワー!! 』(現在の「にじさんじのTOYBOX!」)と、文化放送で継続している『だいたいにじさんじのらじお』に続く長期番組であり、YouTube上で見られる公式番組ではもっともロングランをしつづけている番組でもある。

 「ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン」は番組の特徴上「3Dボディを持っているタレント」しか出演ができなかったが、同番組では普段の配信で使用しているLive2Dのデザインで出演ができるということもあり、所属していたライバーがさまざまな形で登場し、多くのリスナーに新たな出会いの場を提供することに繋がった。

 「にじさんじを紹介する」という点において、黛はデビュー初期に「にじさんじのメンバーとはどんな人物か?」を調査する配信をしていることを指摘したい。飛びぬけた個性を持ち合わせた面々を、非公式wikipediaを使って知りつつ、彼なりの考察やリアクションでリスナーとともに楽しんでいた配信だった。

#01 【ライバー調査】にじさんじを知るため、取材班は南米奥地へと飛び立った

 それから2年ほど後、『にじさんじ Anniversary Festival 2021』1日目にYouTubeからの無料放送を通して再度登場。自身のTwitterを通して「みんなの推しライバー」のプレゼン資料を制作、送ってほしいという旨をツイートしたところ、300件を超える資料が届いた。

 持ち時間はわずか30分ほどの短い企画となってしまったため、後日自身の通常配信では、3回に渡ってリスナーからの資料をお披露目する配信をした。

【#にじFes2021】にじさんじ Anniversary Festival 2021 公式無料生放送【DAY1】
 

「今日紹介した人もできなかった人も、みんなのことを知って、今日のフェスも明日のフェスももっともっと楽しめる"箱推し"になってもらえれば、といった感じかな」

 Fes企画の最後にサラっと口に出したこの言葉だが、日本人だけでなく、韓国、インドネシア、中国で活躍する海外メンバーについての資料が手元にあった上での言葉でもある。

 本記事でも途中で触れさせてもらうが、彼はその活動を通し、客観的・俯瞰的というイメージを強く感じさせるオリジナルなポジションを確立した人物だ。

 そんなポジションをうまく使いつつ、にじさんじのメンバーをより多くの人にしっかりと広めていこうというスタンスは、彼自身公言することはあまりないものの、もっと評価されるべき一面ではないだろうか。

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