VTuber黎明期のキーパーソン・ミソシタが“メタバース”に注力する理由 「ひとりでも勝てるチャンスがあるというのが面白い」

ミソシタ、なぜ“メタバース”に注力?

Web3を理解するには実際に体験することが大切

ーー「Web3」は非中央集権型のコミュニティを形成する手段として注目を集めており、ミソシタさんも所感を世の中に発信されていますが、いわゆるコミュニティ起点の経済圏(エコノミー)が成立し始めていることを感じていますか。

ミソシタ:Web3という言葉が未だに何なのかはわかっていないものの、自分の活動とWeb3が結びついていることを日々実感しています。言葉だけだと、正直わからない世界だと思うんです。プロジェクトでも運営だけで決めずに、コミュニティの声も聞いた上で方針を定めるときに「ああ、これがWeb3なんだ」と感じる。Web3を理解するには、やはり実際に体験していくことが重要だと考えています。体験することでWeb3の良い部分だけでなく、面倒な部分も見えてくるんです。

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ーーWeb3の特徴であるコミュニティの経済は、アナログの時代に回帰しているという見方もできると個人的には思っています。コミュニティ内での立ち回りとか、人間付き合いとかが上手にできる人ほど、自分自身の価値が上がっていく一方、そこがうまくできない人は取り残されてしまう懸念もありますよね。

ミソシタ:仰るとおり、コミュニティでうまく立ち回れる人が求められますし、ファシリテーターやコミュニティマネージャーのような人も需要があるなと感じています。ただひとつ言えるのは、Web2やWeb3の良し悪しを推し測るのではなく、新しいものを取り込んでみるのが重要だということ。やってみないとわからないこともありますし、まずは実際に事を起こすのが肝要になるでしょう。

ーー他方で「Web3はエンタメを変える」という視点を持つこともできます。Web3が発展することで、クリエイターの活躍の場もさらに広がっていく可能性があるわけですが、その点はどのような未来を創造していますか?

ミソシタ:最近はブロックチェーンやメタバースなど、今までの延長線にはないWeb3的なアプローチを考えることが多くなったと思っています。「新しい技術を取り入れないと意味がないんじゃないか」という視点を持ちながら、創作活動をしている状況ですね。今すごい興味がある分野で言うと音楽×NFT。一般的な音楽を作ろうとすると、例えば単純にボタンを押して再生される3分間の曲であれば、あまりNFTと相性が良くないというか。自分でも試しに作ってみたんですけど、これだったらWeb3的なアプローチをするよりもSpotifyとYouTubeで十分なんじゃないかと感じたんですね。もしそこにWeb3の要素を加えるのならば、新しい体験とかを入れたりと実験的なものになりそうな予感がしています。VTuberの時にやっていた音楽とは違うアプローチを考えないと面白くないので、自分の場合はVRとブロックチェーンと音楽を掛け合わせた新たな表現形態を作ろうと考えています。ただ、それがいきなり一般的に広がるものではなく、まずは小さく実験的なところから始めてみようと思っていますね。

ーーNFTの特徴としては、誰かひとりのフォルダに渡るものであり、そこから譲渡やn次販売を重ねて広がっていくことはあっても、拡散には繋がらないと感じています。バイラルに広がることでヒットになる音楽とNFTはどちらかというと相性が良くないため、本来なら売れないようなデモやステムといったものに価値を付与し、売っていくという流れが生まれているような気がしていますね。

ミソシタ:そうですね。まさに音楽の完成品ではないステムや素材の方が需要がありそうという肌感覚を持っています。

ーーまた、ミソシタさんの「ワールドを作る」というクリエイションに関しても、単に作品を見てもらうのではなく、アバターやワールドをNFTとして売るという概念も生まれてきているので、今後の可能性を感じます。

ミソシタ:結局のところ、現状はワールドをNFTとして販売できないというか、どこのプラットフォームに紐づいているかが肝になってくるので、いまの段階では動画とかにしないと売り出せないですね。ただ将来的にはワールド自体をNFT化して、その体験自体を売れるようになってほしいなと思っています。

“メタバースネイティブ世代”がWeb3時代を切り開いていく

ーー今回のメタトーキョーのように、企業がメタバースに参入する際のワールドや建物のデザインなどの依頼を受けるなど、新しい仕事も生まれてきていますか?

ミソシタ:今までも企業からの受託案件を色々とやってきて、さらに「自分が好き勝手作ったものが売れたらいいな」という発想からNFTを始めてみたんです。ただ、自分の中から出てくるものだけになってしまうのも気がかりだなと思っていて。逆に、人からいただいた案件でマネタイズするという方向も同時に進めていこうという感じで、やっていることは受託に近いかもしれません。でも、単に受託というよりもコラボ感覚の方がしっくりくるなと思っています。10年くらいやってきたゲーム制作とかでは心を殺してとにかく作るという感じだったので、その反動からか「自分の好きなものを作りたい」という欲がずっと強かったんですね。現在の仕事は、自らの意見を取り入れながら制作するコラボ的な形式で進めており、Web3的な視座を持って関われていると思います。

ーーミソシタさんは、ひとりのクリエイターとしてメタトーキョーに参画されました。いわゆるチームの中に入る形というのが非常に興味深いと思っているんですが、メタトーキョーのどういうところに共感をされたのでしょうか。

ミソシタ:メタトーキョーのような取り組み自体、他のところがあまりやってないことだったので、そこに共感を抱いたというか興味を持ったんです。会社員の時もメタバースを手がけている会社にいたんですが、そこではWeb2的なアプローチで打ち出していました。対して、メタトーキョーはWeb3的な打ち出し方をしているのに衝撃を受けたんですよ。会社単位のメタバース空間ではなく、Decentralandで展開していくことに意外性を感じましたね。

ミソシタがDecentralandに建てた建築物
ミソシタがDecentralandに建てた建築物

ーーDecentralandを採用したのも、グローバルを見据えた上で最適なプラットフォームだったからだと聞いています。

ミソシタ:そうなんですよ。初めからグローバルを意識しているのもすごくいいなと感じましたね。これまでグローバルなことって、自分自身あまりやってこなかったので、メタトーキョーに参画すればとても面白くなりそうだなと。そう思ったところはあります。

ーーメタトーキョーが「カルチャーファースト」を掲げていますが、ミソシタさんはこのコンセプトについてはどう思われていますか?

ミソシタ:とかくメタバースって言葉を使うとビジネス色が強く中身がないものだと思われがちなので、カルチャーファーストという考えを持って打ち出していくことはいいことだなと思いますね。「VRChatで遊んでいる人たち」と「メタバースを喧伝する人たち」の食い合わせの悪さみたいなものは近年よく語られているし、対立する必要のないものが対立して語られてしまうのはもったいないので、そこにはカルチャーの力、みたいなものが必要になってくるのではと考えています。また最近知ったのが、“メタバースネイティブ世代”の高校生がフォートナイト上でクリエイティブ活動をしていること。これは非常に斬新で驚きましたね。さらに、その世代がNFTでもメタバースでもVRChatでもなく、ゲームというプラットフォームを選んでいることも面白いと思いました。要はマインクラフトが当たり前の時代に育ったことで、ゲームの世界で自然にクリエイティブを表現できるわけですね。

 でもこれって、かつてインターネットを面白がっていた人々がMaltine RecordsやVaporwaveを産んだときと同じような感覚なのかもしれない。やっぱりゲームって強いなと感じましたね。大人がNFTだVR SNSだと騒いでいるのとは対照的に、ゲームが勝つんじゃないかと。そこのギャップが逆に楽しみというか、これから面白くなっていくことだと思います。最終的にWeb3ではなくゲームが台頭してくる可能性もあるでしょう。もちろん未来は予想できませんが、今後どうなっていくのか考えるだけでワクワクしますし、やりがいがあると感じています。カルチャーとしても“メタバースネイティブ世代”が選んだプラットフォームが今後の正解になるようなような気がしています。

ーーWeb3という新しい概念に対応するクリエイターが増えている一方で、より若い人たち、オープンワールドやサンドボックス型のゲームが身近にある環境で育った世代は、クリエイターもお客さんも自然な形でメタバース的な観念を理解していると思います。こうしたメタバースネイティブ世代がこれからもっと世界に出てくるタイミングがくればさらに大きな変化が起きてくるのではないかと、お話を聞いて感じました。

ミソシタ:現時点では、Web3の新しさやビジネスにおける活用の議論が先行していますが、最終的にはカルチャーの担い手となるメタバースネイティブ世代と結びつくことで、一気に盛り上がるんじゃないかと考えています。やはり、かっこいいことを仕掛けようと、おじさんの頭で考えても限界があるようにも感じていて。いたってナチュラルに取り組んでいる若者にはどうしても勝てないと思うんです。

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