注目集まる一方、誤解や不信も生まれる「バーチャル」への視線 理解を広めるための向き合い方とは

誤解や不信も生まれる「バーチャル」への視線

 キズナアイが旅立って最初の一週間は、各所で散発的な動きが見られた。

 3月1日に、早川書房より長篇小説『鈴波アミを待っています』の発売が発表された。「Vtuber/メタバースを題材にした長篇小説」という触れ込みの本作は、2021年に「ジャンプ小説新人賞2020」で金賞を受賞した、同名の短編をリメイクしたものだ。こうした切り口のフィクションが生まれているところにも、「バーチャル」の世間における注目と知名度がうかがえそうだ。

 NIJISANJI ENの第4回オーディションと、ホロライブプロダクションの英語圏向け男性タレントオーディションが、3月4日に同時に発表されたのは、現在のVTuber業界における象徴的な動きだろう。競争が激化を極めるVTuber業界において、英語圏は新たなファン層の開拓が母数の大きさも含めて期待できる。にじさんじとホロライブ以外にも、英語話者を歓迎事項として挙げるオーディションは増えてきた。英語圏現地のエージェンシーも新設の報が続いており、英語圏VTuberの需要はしばらく続きそうである。

 一方で、先週のにじさんじからは違法ダウンロードが、ホロライブからは制作イラストのトレースが、不祥事として相次いで報告された。いずれも擁護はできない問題であり、批判が起こるのは致し方ない。一方で、批判の域を越えた中傷も散見される。それが正当化されないのは当然のことだが、こうした中傷からタレントを守り、クライアントから信頼を維持するためにも、企業所属VTuberへのコンプライアンス教育は喫緊の課題となるだろう。

 海外VTuberの動きとして興味深いものといえば、米国のVTuberエージェンシー「VShojo」所属・Ironmouseの、Twitchチャンネルフォロワー数100万人達成だろう。2月4日から連続で配信企画を実施したことによるものか、「2022年2月中の視聴時間が最も多い女性ストリーマー」「Twitchにてサブスク会員数が最も多い女性ストリーマー」などに輝いたようだ。Twitchはもともと海外VTuberが多く活動してきたプラットフォームであり、直近は専用タグも開設され、注目が集まっている。今回のIronmouseの躍進が、注目をさらに強めることになるだろうか。

 雑誌『CGWORLD』もメタバースに注目しているようだ。3月10日発売の「CGWORLD vol.284」では、「実践!メタバース」と題し、バーチャル音楽フェス『SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland』などのメイキングを特集する。法人による事例のみならず、「VRChat」クラブワールドのひとつ「GHOSTCLUB」も、クールな写真の数々とともに取り上げられる。「良いワールドの作り手」が、法人・非法人問わず注目を集めていく流れは、たしかに生まれつつあるだろう。

 「仮想通貨・NFTとメタバース」の文脈でよく取り上げられるのが、メタバースと扱われる事が多いブロックチェーンゲーム「The Sandbox」だ。先週はエイベックスと渋谷109がこの「The Sandbox」へ参入することを発表した。大手の参入により、わかりやすい「商売の場」としてのメタバースも今後広がり、同様に注目されつつある「ユーザーが作り出し、生活する場」としてのメタバースとは棲み分けられていくだろう。

 ところで、「『VRChat』を始めるには、仮想通貨の口座が必要」という誤解があるようだ。現役ユーザーからすればおかしな話だが、実際に仮想通貨の口座が必要となるメタバースプラットフォームは存在し、メディアもこの軸で取り上げることが多く、ありがちな混同と言える。様々なメタバースの確立と棲み分けを進める中で、「メタバースにもいろいろある」という認識を広めることもまた重要だろう。

 様々な「バーチャル」が注目を集め広まっているが、新しいものが広まり始めた先には「未知のものに対する誤解や不信」がほぼ確実に待ち受ける。注目が集まれば集まるほど、「やらかし」が生じたときのバックファイアは大きくなるものだ。一時の火の手に惑わされず、たしかな理解を広める動きは、今後も大切になる。

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