電動マイクロモビリティシェア「LUUP」急成長の理由 「当初は“おもちゃ”扱いされ、話を聞いてもらえなかった」

電動マイクロモビリティシェア「LUUP」急成長の理由

 最近、街中を颯爽と駆け抜ける電動キックボードをよく目にするようになった。

 次世代モビリティとして注目が高まる一方、法整備や安全性の是非などの課題も残っている。

 そんななか、電動マイクロモビリティの普及を目指し、業界を牽引しているのが「Luup(ループ)」だ。

 同社が展開する電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「LUUP」は、生活圏内におけるラストワンマイルの移動手段として活用されており、東京や横浜、大阪、京都といった都市圏を中心に拡大している。

 今回はLUUPを運営する株式会社Luup代表取締役社長 兼 CEOの岡井大輝氏に、 近未来の交通インフラを創る上で意識してきたことや、直近に行ったロゴや機体、ポートのデザインをリニューアルした背景について話を聞いた。(古田島大介)

創業当初は「おもちゃ」扱いされ、話を聞いてもらえなかった

電動マイクロモビリティシェア「LUUP」

 2018年に設立したLuupは、小型の電動アシスト自転車からサービスを開始した。

 起業当初から「街じゅうを“駅前化”するインフラをつくる」というミッションのもと、事業を展開してきたわけだが、どのようにして電動マイクロモビリティの普及や認知度向上に努めてきたのだろうか。

 岡井氏は「省庁や自治体、警察などあらゆる関係先との調整や折衝、コミュニケーションを繰り返してきた」とし、実直に事業に取り組んできた背景を話した。

 「電動キックボードは日本の法令上だと原付バイクと同じ扱いになりますが、海外だとeスクーターと呼ばれていることや、当時はまだ世の中に浸透していなかったこともあり、“おもちゃ”としてみなされてしまって。省庁と対話しようにも、なかなか膝を突き合わせた対話ができませんでした。そこで、まずはLuupが目指している事業の青写真を理解してもらい、しっかりと話し合いができるような下地づくりから着手したんです。

 具体的には2019年4月に全国の5自治体と連携協定を結び、各地域で実証実験に取り組んでいくという記者発表を行いました。この旗揚げのために、各地域の市長や町長が東京に一堂に会するのは異例のことで、大きな注目を集めることにつながりました。また、同年5月には業界団体『マイクロモビリティ推進協議会』を立ち上げ、関係省庁と本格的に対話ができるよう準備を進めてきたんです」

 連携協定を結んだ自治体は静岡県浜松市・奈良県奈良市・三重県四日市市・東京都多摩市・埼玉県横瀬町。

 単に地域をピックアップしたのではなく、政令指定都市や観光地で有名な都市、シニア世代が半分以上住んでいる町や再開発が進む地域など、さまざまな特徴を持つ自治体を選定したという。

 ここから、いわゆる“実証実験のための実証実験”が始まったわけである。

 しかし創業間もないゆえ、少数精鋭で事業を前に進めていかなくてはならず、スタートアップ特有のハードシングスを経験したそうだ。

 「プロダクトを出す前のテストを行うため、何度も実証実験を行う現地に出向いていました。地域住民や自治体、警察などから上がっているリアルな声やフィードバックをもらい、改善サイクルを回すため、とにかく全国を飛び回っては関係先の自治体や警察と交渉し、月に5〜6箇所の実証実験を続けたんです。

 まだ会社の組織自体も小規模だったので、メンバーが全国に散り散りになるような状況でしたね。そんななかでも、2019年6月から2019年12月までの半年で、30回以上もの実証実験を重ねてきました。並行して電動キックボードのプロダクト開発も進めていたので、この時期は半ば学園祭準備に追われるような忙しさを経験しました」

 こうした苦労を経験しつつも、コロナ禍に突入した2020年5月には小型電動アシスト自転車による短距離移動シェアリングサービス「LUUP(ループ)」を都内6区の一部でスタートさせる。

 リリース当時は小型電動アシスト自転車のみだったが、2021年4月に電動キックボードを導入。

 どこからでも電動マイクロモビリティに乗れ、好きな場所に返せるという利便性がユーザーに支持され、サービスエリアを順調に拡大させていったのである。

創業時から取り組んだ省庁や警察との交渉がサービスの信頼度に寄与

 だが、モビリティサービスを広義に捉えれば、既存のバスや電車、タクシー、自転車などの交通インフラは整っているように感じる。

 その点、Luupは他のモビリティとどのように差別化を図っているのだろうか。

 岡井氏は「既存の交通手段にはない回遊性や利便性の高さが、電動マイクロモビリティならではの大きな特徴になる」とし、次のように説明する。

 「駅前から駅前の移動は鉄道を使う方が便利です。また、急いでいるときはタクシーを利用した方が目的地へ早く到達できます。では、電動マイクロモビリティはどのようなシーンに適しているかというと、駅前と駅から離れたところをつなぐ、いわばラストワンマイルの移動です。街中にあるポートを起点にして、これまでバスや電車が通っていなかったところへも行きやすくなります。タクシーだと毎日使うのにはコストがかかりますし、歩くにはちょっと遠い。このような、駅から離れた場所への移動を楽にする新たな交通手段として電動マイクロモビリティが求められていると考えています」

 また、他の電動キックボードや自転車などのシェアリングサービスも台頭してきているなか、なぜLUUPのアプリや利用者数が増えているのだろうか。

「LUUP」

 「シェアリングモビリティのプロダクトで重要なのはサービス提供エリア内のポートの数に尽きます。どれだけ高密度にポートを設置できるかが鍵になるんです。ただ、都心部にポートの場所を確保しようとしても、そう簡単には実現できません。プロダクトの裏側にある社会的信用こそが非常に大事になってきます。そういう意味では、創業当初から関係省庁や警察と何度も対話を重ねてきたことで、社会的信用の証明につながったと考えています。

 加えて、サービスとして信用されるプロダクト開発やオペレーション設計も意識してきたので、ソフトウェアやデータロジックに基づいた新たな交通インフラとして認知されたのも大きいと思います。ポートの拡大についても、いまではインバウンドによる問い合わせが多く、提携希望の企業やマンションのオーナーさんからの引き合いが増えてきています」

 数あるシェアリングモビリティのなかでも、LUUPだけはポート内に返却した自転車や電動キックボードの写真撮影を行わないと決済できないようになっているという。

 このようなフローを取り入れることで、ポート内の整理整頓された状態を保つことができ、サービスへの信頼や安心感を醸成することにつながるわけだ。

 結果として、ユーザー満足度やポート数の増加にも反映されていったのだろう。

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